<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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更新遅れて大変申し訳ありません。

これからは週一位では更新できると思います。


世界の終わり、遊戯の始まり 其の一

□■彼女について

 

 

 最初に、自分の<エンブリオ>を見た時、多くのプレイヤーはそれについて納得するだろうといわれる。

 自分のパーソナルから発現したがゆえに、納得できるのは当然だった。

 彼女もまた、その一人である。

 能力も、そのもとになった自分の精神性や思考回路も、全てが納得できるものであった。

 加えて、能力も非常に有用であり、悪だくみが捗りそうだとも考えた。

 その一方で、こうも考える。

 これだけじゃ、足りない(・・・・)よなあ、と。

 

 

 彼女がこのゲームに望んだもの。

 その三つのうち、二つは叶い。

 最後の一つが叶わない。

 

 

 だから、ペンシルゴンは動いたのだ。

 

 

 ◇

 

 

 京極:それで、わざわざ個人チャットで呼び出したってことは何?悪だくみ?

 

 鉛筆騎士王:まあそう警戒しないでよ

 

 鉛筆騎士王:純然たる取引じゃないか

 

 京極:不審すぎるからブロックしていい?

 

 鉛筆騎士王:まあまあ、ちゃんと対価は払うからさ

 

 鉛筆騎士王:もちろん前払いで

 

 京極:一つ訊いておきたいんだけどさ

 

 鉛筆騎士王:何かな?

 

 京極:場所は<長城都市>防覇で、決行は地球時間での三日後でいいんだよね?

 

 鉛筆騎士王:そうだよ

 

 京極:わかったよ

 

 京極:報酬的にも悪くない条件だしね

 

 鉛筆騎士王:でもいいの?

 

 鉛筆騎士王:性格的に、彼女(・・)は間違いなく敵に回るけど

 

 京極:それも含めて、だよ

 

 京極:一度本気で戦ってみたかったんだ

 

 鉛筆騎士王:……なるほどね

 

 鉛筆騎士王:対価については、防覇で渡せばいいかな?

 

 京極:そうだね

 

 

 

 ◇

 

 

 □■防覇周辺・砂漠

 

 

 

 防覇の周辺は、砂漠と岩盤が大半を占めている。

 カルディナに接しているゆえに、当然ともいえる。

 そしてカルディナ同様、魔蟲が多く生息している。

 その中の特に強力なモンスターの一つが、【ロックライク・スコーピオン】。

 砂や岩を喰らって回復する、なおかつ堅牢な装甲を持っているモンスターであり、早々なことでは突破できない。

 加えて速度や攻撃力も高く、隙の無い純竜級のモンスターである。

 【ターミネイション・センチピード】と【ワイヤレス・スパイダー】と並ぶ、ここら一帯における三大強者の一角。

 そんな純竜クラスモンスターの群れが……壊滅していた。

 ミスリルに迫るほどの強度の装甲は、砕け散り。

 周囲の砂や岩を取り込むことによる、実質的に無尽蔵の回復能力も追いつかず。

 数十の蠍によって構成されているはずなのに、物量で圧殺することもできない。

 

 

 

 

『ハハハハハハ!』

 

 

 

 ミサイル(・・・・)が飛んでいた。

 先端が卵のような形状をしていて、なおかつミサイルの信管部分には裂けるような口がついていた。

 他には何もない。

 目も、鼻も、耳も、髪もついていない。

 ミサイルが飛びながら笑っている。

 ミサイルはモンスターに着弾し、爆発。

 直撃した【ロックライク・スコーピオン】一体を吹き飛ばして。

 

 

『《卵尾徒子(ミサイル・マン)》』

 

 

 直後、ミサイルは復活した(・・・・)

 内側から爆発して四散したはずなのに、何事もなかったように、飛び回っている。

 そして、再び別の蠍に着弾して、復活を繰り返した。

 それからしばらくして、そこらにいた五十以上の【ロックライク・スコーピオン】達は全滅した。

 

 

『《卵尾徒子》ーー解除』

 

 

 周囲に敵がいなくなってから、ふわふわと浮いていたミサイルが消失。

 一人の男が、現れた。

 これと言って特徴のない容姿だった。

 ドライフでよくみられるような青い作業着を着て、サングラスをつけている。

 サングラスを含めても<マスター>の中では平凡だろう。

 ただ、彼がたった今引き起こした破壊を踏まえれば、彼を凡百の<マスター>であるとは言えない。

 

 

 

 

「意外と順調だな。さすがペンシルゴンさんだ」

 

 

 作業着の男は、この場にはいない、彼女の名前を上げて独りごちる。

 彼は、ちらりと視線をやる。

 そこには、一体のキョンシーがいた。

 頭部と胴体に一枚ずつ【符】を張り付け、針金のように細長い腕を四本伸ばしている。

 四本の腕は高く上げられており、まるで指揮棒のように見える。

 

 

「さてさて、試し撃ちはこのあたりにしておかねばな。あまりやりすぎて、気取られると都合が悪い」

 

 

 

 そういって、作業着を着ていた<マスター>はログアウトした。

 

 

 ◇

 

 

 中華の雰囲気を醸し出す、そんな長城都市こと、防覇において大半の人間はその場にそぐうような服装をしている。

 ティアンであればほぼ間違いなく中国服だし、<マスター>でさえも半分くらいはそうだ。

 まあ、カルディナなどからの客や、そもそもキテレツな恰好をしている<マスター>がいる以上、百パーセントではありえないが。

 彼女(・・)もまた、そのそぐわない恰好の一人。

 

 

「うーん、どこでしょうかね。ペンシルゴンさん」

 

 

 女性は、黒いパンツスーツを着て、ヒールのついた靴を履き、黒縁のやぼったい眼鏡をかけている。

 背丈は、百五十センチほどだろうか。

 現実世界にならいくらでもいそうな格好だが、この<Infinite Dendrogram>においては逆に奇異にも映る。

 だが、周りの人はあまり気にしない。

 理由は二つある。

 一つは、彼女の左手の甲に”暴れる虎”の紋章がついているーー彼女が<マスター>ということ――だから。

 <マスター>の格好が珍妙であることなどいつものこと。

 討伐トップランカーである【総司令官】をはじめ、それは常識であり、今更<マスター>の服装にとやかく言うものはいない。

 もう一つは、彼女の背後にあるモノが、彼女よりもはるかに目立っているから。

 少しだけ黒ずんだ、白を基調とした鎧であった。

 鎧は、縞模様の彫刻がなされており、まるで虎のようにも見える。

 紅いネイルを指の腹でいじりながら、ペタペタと歩いていく。

 

 

 まるで、ソレの、鎧の存在に気付いていない(・・・・・・・)かのように、彼女は振舞っている。

 

 

「うーん、黄河は人が多いですねえ。それはとてもいいことです」

 

 

 人が多い、と彼女が言うが、正確ではない。むしろ多すぎる。

 そこがたまたま人通りの多い場所であるということもあり、通勤電車に近い状態だった。

 少しだけ、彼女に押し連れられるように触れていた、じんわりと鎧が黒く滲む(・・・・)

 まるで、道行く人の内心を反映するかのように。

 あるいは彼女をか。

 

 

 

「……ペンシルゴンさん、本当にどこに行かれたんでしょう?」

 

 

 

 彼女は、まるで気づいていなかった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

『トゥー、トゥー、トゥ―』

 

 

 

 一人の人物が、建物の屋根の上から民衆を見下ろしていた。

 全身に【符】を張り付けており、容姿も性別もわからない。

 眼さえも見えておらず、何一つ外見的特徴はわからない。

 が、顔の方向からちゃんと見えていることはわかる。

 ふと、顔を上げた。

 まるで、「下の光景をみるのには飽きた」とでも言わんばかりに。

 

 

 ばさりと、符が体から一枚、二枚とはがれ始める。

 魔法系スキルを使っているわけでもないのに。

 そうして、符が全部はがれた時、そこには何もなかった。

 ただ、符が風に吹かれて舞っていた。

 

 

 高度三千メテルほどの上空。

 とあるモンスターが空中にいた。

 それは、【ワイヤレス・スパイダー】。

 文字通り、糸を飛ばさずしての機動が可能であり、それは空中にも及ぶ。

 そして、上空から飛び掛かって獲物を捕食するというわけだ。

 火力と耐久力では【タ―ミネイション・センチピード】や【ロックライク・スコーピオン】に劣るが、速度と機動力ははるかに上回る奇襲特化の純竜級。

 

 

 

「WIIIIIIIIIIIIII!」

 

 

 

 まず、八本の足が全て落ちた。

 どこからともなく現れた魔法が、切り落とした。

 次に、首が落ちた。

 そしてさらに八つに切り分けられる。

 

 

「WI」

 

 

 

 その直後、【ワイヤレス・スパイダー】は光の塵になった。

 そこには、【符】だけが舞っていた。

 

 

 ◇

 

 

 

「キリューちゃん、京極ちゃん、エッグマン、それにアノニマス。全員揃ったね」

 

 

 敵も、味方も、駒が集まり始めた。

 賽は投げられている。

 だから、もはや止まる道理はない。

 どんな結果になったとしても。




次回は明日更新します。

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