<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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壁の向こう側を見て、何を思わん

 □【修羅王】サンラク

 

 

 

 レイとデートして、仲直りとも違う、しいて言うならぎくしゃくの解消というべきか。

 いずれにせよ、話したことで雰囲気がよくなった気がする。

 

 

 

『人が多いよな』

「そうですねえ」

「……同感」

 

 

 

 

 黄河は他の国よりも土地が広いというのは聞いていたが、ここまで人口密度が高いとは知らなかった。

 目を凝らさずとも、視力が上がっているので街並みを歩く人が見える。

 中華服を着た人間が多い。

 多分ティアンだろう。

 その一方で、中華的な装いからほど遠い身なりのものも多い。

 こっちは<マスター>だろうか。

 全身に【符】を張り付けて顔も服も一切見えない人物や、RPGで見るような鎧や武具を身に着けた、王国やレジェンダリアでよく見るような服装。

 天地で見るような和装を着たパーティ……あれ、もしかして安芸紅音と京極では?

 まあ、いったん放置でいいかな。

 レイと過ごす時間が最優先だし。

 

 

 

 

「普段はここまで多くないはずだよ。資料によれば、これの半分程度のはずだ」

『……じゃあ何でこんなことになってるんだ?』

「軍事演習だね、端的に言えば」

 

 

 

 言われて、思い出した。

 そういえば、地球でも国防のために万里の長城というのが築かれたんだっけ。

 その当時ではほかに類を見ないほどの大規模な工事であり、犠牲者も多数出たのだとか。

 つまり、この長城都市とやらも本来は国防のために造られたものということか。

 あるいは、この都市自体が万里の長城をモチーフに造られたのだろうか。

 

 

 

『というか、なんでここにいるんだよ』

「あ、バレた」

「……説明。ずっとつけてた。私は反対した」

「いやキヨヒメちゃんもノリノリだったよ?」

 

 

 

 ペンシルゴンは、ごまかすように何やら地図を引っ張り出してきた。

 まあいいだろう。

 多分、キヨヒメが割り込んだからペンシルゴンも潜伏は不可能であると考えて、割り込んだんだろうしな。

 ドヤ顔でこちらを心底馬鹿にしたような声音の厭味ったらしい説明を簡略化すると、こうだ。

 元々、この街はアドラスターという国家との境界に置かれていた守りの要であったという。

 故に、アドラスターが滅んだ今も、軍事演習は恒例行事なのだとか。

 加えて、防覇はカルディナと現在進行形で隣接しているという事情もある。

 で、それ故に人通りが多いんだとか。

 物資や武器防具が大量に運び込まれているらしい。

 

 

「といっても、少し事情が異なるかな」

『?』

「彼らの、そして私たちの目的は軍事演習後の後夜祭だからね」

『後夜祭?』

「……知らなかったのかい?」

 

 

 そもそも、防覇についての情報とか一切なかったし。

 アンダーマテリアルもそこらへん話してなかったし。

 あと、レイと合流出来たらこの街をすぐに去るつもりだったのもある。

 さっさとアンダーマテリアルを振り切って、後顧の憂いを断っておきたい。

 ……BANシステムが実装されてれば、物理的に振り切る必要性はないのになあ。

 実装はよ。

 このゲームは複数アカウントの製作ができないので、そこだけが救いではある。

 

 

 

「それで、軍事演習がいつのまにやらパレードとかもあるお祭りみたいになってるらしくてさ、カルディナと一番近い都市だからってことで交易も盛んだから一大イベントになるらしい」

『ああそうか、最西端だからカルディナの傍になるんだな』

 

 

 

 カルディナは商業大国であり、金と商品が大量に集まる場所。

 そこに近い防覇は、現在外交や交易の窓口になっているらしい。

 時代の流れによって、オブジェクトの在り方が変わるのはゲームでも現実でもよくあることだろう。

 万里の長城も今は完全に観光資源だし。

 あるいは、今後情勢が変われば、ここはまた要塞と化すのかもしれない。 

 <戦争イベント>というのが一応存在はするらしいけど、まだ起こってはないんだよな。

 あるいは、これから起こるのだろうか。

 ここの運営、なんだかんだイベントはちゃんとあるからね。

 

 

『うーん、レイはどうしたい?』

「ええと、できればしばらくとどまりたいですね」

『ふーん、それはどうして?』

「ええと……」

 

 

 レイは少しだけ、口ごもっていたが口をもごもごさせたのちはっきり答える。

 

 

「楽郎君と、一緒にお祭りを楽しみたくて……」

『…………』

 

 

 

 どうしよう、俺の彼女可愛すぎるな。

 ぱしゃり、という音が聞こえた。

 ふと音の方向へ視線を向けると、なにやら水晶玉を持ったペンシルゴンが。

 本人の人柄も相まって、インチキ占い師感が半端ない。

 

 

『それ、何だ?』

「魔導カメラだよ」

 

 

 

 ああ、そういえばそんなのもあったな。

 というか、以前それで一瞬修羅場になりかけたような気もする。

 あまりに怖すぎて記憶から消していたらしい。

リアルで関節を外されるかどうかの瀬戸際だったので、無理もない。

 というか今撮ってたんじゃねえか。

 何てことすんだやめろ。

 

 

「カッツォ君あたりに見せようと思ってね」

『よう、カッツォ。ついさっきまた特典武具ゲットしたんだけど質問ある?』

「じゃあ聞かせてもらおうかな。デスぺナか<自害>、好きな方を選んでよ」

 

 

 

 おいおいカッツォ、お前らしくもないミスだな。

 お前がデスぺナする、という選択肢が抜けてるぞ。

 

 

「また特典武具ゲットしたの?というかこれで何個目だっけ?」

『うーん、何個目だったかなあ。複数取得すると意外と覚えてられないよな』

「……コロス、コロシテヤル」

「ショックでしゃべり方がロボみたいになってない?」

 

 

 

 ええと、あれ何個だったっけ。

 いやいやそんなマジで忘れてるわけが……。

 【ロウファン】、【プリズンブレイカー】、【プリュース・モーリ】、【リボルブランタン】の四つか。

 良かったちゃんと覚えてた。

 いや改めて考えると多いな?

 流石にフィガロやシュウには及ばないけど、それでも多い方のはず。

 そもそも、運がよくないと出会えないし、出会えても一人しか<MVP>になれない。

 <エンブリオ>も進化するごとに装備枠が増えていったし、これは装備枠が足りなくなる時代も近いかもしれない。

 第七形態になれるのかどうかはわからないけどな。

 なにせ、未だに進化条件は不明だし、そもそも<超級エンブリオ>に至ったもの事態が百に満たない。

 何十万というプレイヤーがいる中で、だ。

 

 

 サンプルとしては少なすぎる。

 シュウやフィガロ、【呪術王(HENTAI)】にも聞いてみたけど、共通するトリガーのようなものはわからなかった。

 あるいは……<エンブリオ>ごとに進化条件すらも異なるのかもしれない。

 自由と多様性こそが、この<Infinite Dendrogram>だから。

 

 

 

 それにしてもカッツォも来てたわけか。

 ということは、夏目氏や全一も来てるわけで。

 結局、誰が来てるんだっけ?

 

 

「サンラク君」

『うん?』

「サンラク君は……デンドロをやってみてどう思う?楽しい」

『どうって……』

 

 

 それはさっきも訊かれた質問だけど。

 

 

『楽しいだろ。当たり前じゃん』

 

 

 そりゃあ、運営は放置しかしないし、デスペナルティのログイン制限24時間はいくらなんでも長すぎるし、理不尽なランダムエンカウントはままあるけど。

 リアリティを追求した異世界と見紛うシステムだったり、オンリーワンを叶えてくれる〈エンブリオ〉だったり、次々現れる強敵だったり。

 欠点を加味してもなお、まだ長所が混ざっていると思う。

 頼む、迷惑プレイヤーを垢BANする措置をとってくれとは思う。

 PKや初心者狩りはともかく、セクシャルハラスメントとチートはありとあらゆるゲームで許されてはいけないと思う。

 まあ、ここの運営チート対策だけは完璧らしいけどな。

 或いは、ペンシルゴンもそういうことで悩んでいるのかもしれない。

 こいつ例によって例の如く顔はリアルそのまんまだからなあ。

 白いお面付けてるからぱっと見だとわからないけど。

 その辺踏み込むのも躊躇われるから、あんまり強く言わないけど。

 

 

 ◇

 

 

 

 足元に移る、無数の人だかりを見ながら彼女は考える。

 このティアンと呼ばれるものたちは、プログラムの域を超えている。

 今も、一人一人が思考して、行動することで日常を送っている。

 ゲームとして必要のない程の、AIを無数の重要でもないNPCに搭載している。

 本来なら、ゲームの製作者たちはそこまではしない。

 する必要がないから。

 彼らは最初から決められた道筋に従って、動くだけのコマ。

 世界が求めるが故に、或いはクエストを進めるのに必要だから存在するのがNPCだ。

 だから、ここに降り立ったその日、自分は戸惑ったのだ。

 だから、彼女は決めたのだ。

 この街で、彼女が全力を発揮できるこの瞬間に

 

 

 

「決行は、3日後だよ」

『……なんか言ったか?』

「いや、何も?」

 

 

 

 彼女のつぶやきは、彼女以外のだれにも届かなかった。

 けれど、その意味を彼女以外が理解するときは、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 To be continued

 




そろそろ状況が動きます。


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