<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
とりあえず、もう少し頻度上げられたらいいなあと思っています。
頑張ります。
□【修羅王】サンラク
超音速機動での移動は、妙な感覚だ。
AGIはただ移動速度を引き上げるのみならず、体感時間さえも操作する。
体感時間に干渉するスキルがあるゲームは、デンドロ以外にもある。
だが、デンドロのすさまじい点は、これがステータスに組み込まれている点だ。
AGIが上がれば、その分主観時間も伸びる。
例えば超音速機動で食事をすれば、本人はじっくり味わっているつもりでも一瞬で食べ終わってしまうというわけだ。
最もいわゆる
とはいえ、一人の食事だとどうしても効率を求めてつい戦闘モードで食べてしまう。
何が言いたいかと言えば。
『暇だなあ……』
集合場所として指定された料理店で、ふかひれスープを飲みほし、杏仁豆腐を食べ終わった俺はそんな言葉を漏らしていた。
どうやら、少しトラブルで遅れるらしい。
なので、先に食事をとろうとして、注文してしまってそのまま食べ尽くしてしまったわけだが。
『やっぱり、待ってればよかったかな?』
一人で食べると、どうも味気なく感じる。
別に天地ではずっとそんな感じだったはずなんだが。
約一名、「私を食べて」とかほざいて毎日つるされているやつがいた気がするが気のせいだと思う。
ちなみに……アンダーマテリアルはここにはいない。
「面倒なことになる前に退散するよお」と言い残して、どこかに去っていった。
あいつ、どこに行った?
いやまあ、別に来て欲しいわけではないし、まあいいか。
「サンラク君、こちら
『ああ、うん。そうだね、レイ』
彼女の姿に変わりはない。
特典武具のパワードスーツは収納したまま。
銀髪の女性アバターのままであり、あくまでも威圧感などみじんもない普通のきれいな女性の姿だ。
だというのに、彼女からは膨大な威圧感が放たれていた。
おかしいなあ、天使のような笑顔なのに、目が全くと言っていい程笑っていない。
まあそうだよねえ。
恋人と一緒にプレイする前提のゲームだったのに、他のプレイヤーと別の国で一緒に行動しているわけで。
ついでに言えば、あいつは中身は知らんが見た目は女性なわけでありまして……それも火に油を注ぐ結果となってしまっているのだろう。
『ところで、何で遅れたの?』
こうなったら、もうカウンターしかない。
相手の罪悪感をついて、レイの追及をかわすということができるのである。
どこぞの外道鉛筆から学んできたテクニックの一つだ。
話を逸らすことで虚を突きつつ、相手にダメージを与えるのが交渉術である。
よく、討論などで使われるテクニックらしい。
コミュニケーションに関する手札はほぼすべてペンシルゴンから学んだ。
戦闘の駆け引きとかだと、また事情が変わってくるんだけどな。
「……遭遇。ペンシルゴンが知り合いと遭遇して、話をはじめた。それゆえに、遅れてしまった」
『久しぶりだな、キヨヒメ』
「……長期。本当に、久しぶりに会えてうれしい」
『あ、うんそれは本当に申し訳ない』
蛇を連想させる外見の、少女。
彼女の名は、キヨヒメ。
レイの<エンブリオ>であり、俺を父のように慕ってくる。
TYPE:メイデンーー人型であり、ティアンのように人間と変わらない言動をとってくる。
むしろ、リアルのことをある程度知っているあたり、彼ら以上かもしれない。
友軍NPCの好感度まで下げてしまっているのも、反省のしどころだ。
救いを求めて、鳥面を被ったまま視線を宙へと彷徨わせれば、ちょうど店の扉が開いて、人が入ってくるところだった。
俺は慌てて目を逸らした。
見覚えのない他人だからではなく、非常に見覚えのある人物だったから。
というか、できれば関わりを持ちたくない方の人間だったから。
が、俺の祈りは通じず、その人物は真っすぐかつ腹立つほど優雅に、俺の方へと向かってくる。
「やあやあ、お久しぶりだねえ。サンラク君」
『……随分なタイミングで現れたな、遅刻魔王』
「おやおや、【
『口の中にスキルのフルコースぶち込んでやろうか?』
「お、いいね。恋人ほっぽり出して獲得したスキルがどんなものか興味があるよ」
『…………それ言われたらなんも反論できないんだけど』
いやあの、本当に申し訳ないとは思ってます。
『結局、誰が来るんだっけ?』
「カッツォ君と
『ああうん、その三人で固まってるのね』
「あと、安芸紅音さんと京極ちゃんはまだ黄河の東部にいるみたいですよ」
「……追加。ステラは来ない。超級職に転職するために、現在進行形でレジェンダリアで修業中だから」
『ああ、なるほどね』
そういえば、そういうイベントもあった。
この<Infinite Dendrogram>は割と俺たちプレイヤー側の視点から離れたところで、物語が進むことが多い。
意外と、俺がレジェンダリアに戻る頃にはすでに超級職に就いているかもしれない。
どうにもならないんだよな。
とりあえず謝るしかない。
俺達の様子をじっと見ていた、ペンシルゴンが何か思いついたような顔で立ち上がった。
いやな予感がする。
「まあ、せっかくだしねえ。キヨヒメちゃん、私達はちょっと席をはずそうか」
『……疑問。どうして?」
「まあ、夫婦水入らずの時間も大事だってことさ」
「納得」
納得するなよ。
いや、待ってほしい。
本当に待ってほしい。
この状況で二人きりになるの?
リアルでは特に追及されなかっただけに、それが逆に怖い。
埋め合わせに、現実でデートはしてたけど、それは埋め合わせ関係なくいつもやってることだし……。
「楽郎君」
『は、はい』
レイは、こちらをまっすぐ見つめてくる。
面影を残しつつ、銀髪がよく似合うその顔でまっすぐ見つめてくる。
正直、スゴクコワイ。
何を言われるのか、何を要求されるのか。
状況次第で土下座するのか、抱きしめるのかの択を迫られている。
そんな彼女の提案は。
「今日一日、私とデートしましょう」
『……はい。……え?』
正直ちょっと、予想だにしていないものだった。
To be continued.