<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□【修羅王】サンラク
「感謝してよねえ、私のモノをぶっかけてあげたんだからしっかりごっくんしてんぼああ!」
アンダーマテリアルがほざき始めたその瞬間に、《
第三者もいるような状況で下ネタを言うなよ。
迅羽が下ネタNGかもしれないだろうが。
いや、そもそも俺も下ネタはNGなんだよ。
なんでデンドロにおいてGMコールができないんだろうな。
自害システムはあるのに、通報システムがないのは本当に理不尽だと思う。
セクハラやらかしてくる相手にぶっ飛ばす以外の対抗手段がないのは本当にどうかしていると思う。
行動不能状態であっても、触手だけは使えるの地味にいいよな。
《暴徒の血潮》の効果でも、俺の体自体は動けないから、本当に助かる。
◇
それからしばらくして、俺たちはなぜか岩盤に座り込んだまま話していた。
いや、何でだろう。
別に、もう争う理由はないんだろうけど。
『あア、お前らは長城都市に行くのカ』
「そうだねえ。長くて太い街に興味があるんだねえ」
『…………』
判定は、セーフ。
というかスルーだな。
もういちいち反応するのも面倒になってきた。
ええい、ちらちらこっちを見るな気持ち悪い!
『というかもしかして、迅羽はその長城都市から来たのか?』
『そうだナ。ついさっきに出てきたところだゼ』
「……まだ千キロ近くあるはずなんだけどねえ」
千キロか。
確か、音の速さが秒速三百四十メートルで……。
千キロとなると……だいたい三千秒。
で、俺は音の五倍で動けるから十分程度でたどり着く計算になる。
何だ、すぐ着きそうだな。
あってるよな?
最近電卓アプリだよりであんまり計算してないんだが。
高校卒業すると、途端に使わなくなるよな。
昔ならいざ知らず、今は店でも計算を機械がやってくれるところが大半だし。
「私たち鈍足耐久型からするとちょっとそういう感覚は持てないかなあ。私はまだテイムモンスターがいるからいいけどね」
『そういうもんか』
『アー。まア、わからんでもないナ。オレも、テナガアシナガ抜きだと遅いシ』
俺と同じ、速度を<エンブリオ>に頼っているタイプか。
俺は、ジョブも含めて速度と機動力に特化しているが、迅羽は耐久力と魔法攻撃をジョブで得ることによって、弱点を補完する道を得た。
それは、確かに隙がないが、同時に器用貧乏になりえるということでもある。
だからこそ、<超級>でありながら、俺にさえも付け入る隙があったのだ。
『ちなみに、迅羽はどうするんだ?』
『それをお前が訊くのかヨ。もうここにいる意味がなくなったし、帝都に帰るゼ』
『あー』
そうか、そもそもここに迅羽は<UBM>を倒しに来たんだった。
よりによって、それを言われるのは煽りにしかならないだろう。
かつて、ソーシャルゲームというシステムと、ガチャというシステムがあったという。
そこで引いた奴が引けなかった奴にスクショを送り付けるという文明があったらしい。
いつの世も、人間は素晴らしいという話だよ、と憎悪に燃えた目でどこかを見つめる親せきのことが忘れられない。
あの人ーーかなり廃れたソシャゲにいまだに金銭をつぎ込み続けるらしいけど、大丈夫かしら。
いやまあ、俺の親戚は大なり小なりそんな感じだし大丈夫だと思うけど。
『まあ、煽りみたいですまんが、グッドゲームと言わせてくれ』
『あア、結果としては負けだが、楽しかったゼ』
二対一で、こちら側の札をほとんど切って、それでもなおギリギリだった。
アンダーマテリアルはともかく、俺は使える札はほぼ全て切った。
どちらが勝っても、別におかしくはなかった。
これは、そういう勝負だった。
それから、一言二言話して、迅羽は足を伸ばして、去っていった。
「じゃあ、サンラク君。行こうか、また抱いてもらって」
『オッケー、地獄まで連れてってやるぜ』
「あ、待ってお姫様抱っこにして引きずらないでええ!」
アンダーマテリアルを引きずりながら、俺は<長城都市>防覇に到達した。