<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
リアルの用事や他作品の執筆などで、本当に久々になってしまって大変申し訳ありません。
これからもまったり更新になってしまいますが、良ければよろしくお願いします。
□■黄河西部・岩盤
【赤星回蠍 リボルブランタン】との戦いは、迅羽の当初の想定とはまるで異なった様相を呈していた。
対モンスター戦ではなく、一つの特典武具を三人で奪い合う
それ自体を予想していなかったわけではない。
この【リボルブランタン】の情報は、ある程度の金銭やパイプを持っていれば手に入れられる。
犬猿の中である<輝麗愚民軍>や、広域殲滅特化の【総司令官】、あるいは自由人の権化たる【武神】と遭遇し、奪い合いになる可能性も危惧していた。
さらに、迅羽の眼中にもない有象無象が来る可能性もないとは思っていなかった。
いずれの可能性も、とれる対策はしたつもりだった。
だが、問題なのはどの想定にもない展開が来たこと。
魔法の余波や爪でやすやすと殺せるような無名の有象無象ではなく。
しかして、事前に情報を得ていたランカーや<超級>でもない。
無理もない。
方や、複数の<UBM>を討伐したもの。
レジェンダリアを中心に、世界を飛び回る準<超級>。
”怪鳥”【修羅王】サンラク。
方や、修羅の国で超級職多数を殺して指名手配になり、なおかつ追手の追撃を全て逃れた曲者。
さらに戦闘のみならず、生産や商業でも結果を残してきた万能の実力者。
”所在不定”【生命王】アンダーマテリアル。
いずれも知名度の割には情報が少ない猛者であり、対策をとることが難しい。
そもそも黄河にいること自体、知っているのは本人とその関係者のみ。
迅羽が対策を考えていたのは黄河で活動しているものたちのみで、本来はそれで充分であるはずだった。
対策などとれるはずがない。
迅羽は黄河の中でも最強の一角ではあるが、それでも準<超級>二人を倒しつつ、古代伝説級も撃破できるかと言われればそれは難しい。
相性次第では負けることもある古代伝説級相手に、そこまでの余裕はなく、ふたりと競争しながら出し抜くのを狙うのが最善手だった。
彼女には特典武具などの札は他にもあるが、【リボルブランタン】の《回蠍転環》のストックを消費できるほどの威力を持ったものはない。
決闘が彼女の主戦場ということもあり、彼女の特典武具獲得数は<超級>の中では少ない方だというのもある。
ストックを消費できるのは、二つ。
いまだクールタイムが空けていない必殺スキルと、奥義である《真火真灯爆龍覇》ならストックを削り、致命傷を与えることができる。
だが、これは難しい。
必殺スキルのクールタイムが空けるのにはいまだ時間を要するし、《爆龍覇》も撃つのに時間がかかる。
ゆえに、彼女は《爆龍覇》の準備をしながら、休むことなく攻撃を続けている。
甲殻の隙間を狙って魔法を集中させ、ダメージを与える。
幾度となく両手両足の爪をぶつけて、甲殻を傷つけて穴を穿つ。
的確に、彼女の攻撃は【リボルブランタン】の身を削るが。
『――』
「ちィ!」
それらは、元々素体が【ロックライク・スコーピオン】であったことによる再生能力によって再生してしまう。
(これが厄介だ。加えて、もともと再生能力に優れてるモンスターなら、ストックがかなり早く回復してもおかしくない。どれくらいのペースで回復する?)
あらゆるダメージを一度限り防げるスキル。
普通に考えれば、【救命のブローチ】同様、24時間かそれ以上の時間をかけてストックが回復すると考えるのが自然だ。
だが、相手は古代伝説級。
常識の埒外にいる存在であり、そこまで考慮すれば今この瞬間にストックが回復する可能性もゼロではない。
再生力に秀でた個体であればなおさらだ。
だが、今の迅羽にはもうこれ以上削るすべがない。
ゆえに、ここで彼女に出来ることは、可能性を探りながらサンラク達の攻撃を待つようなことであった。
そして、サンラクもそれに気づいている。
だから、彼はここで動いた。
『《
サンラクのスキル宣言と同時、紅き巨人が起動する。
伝説級特典武具、【甲剥機甲 プリズンブレイカー】の名を冠したスキル。
彼のAGIを基準に速度と攻撃力を引き上げるスキル。
超級職に転職し、彼のAGIは<エンブリオ>の補正やスキルも込みで三万オーバー。
ゆえに、攻撃力も三万を超える。
さらには、それだけでは終わらない。
『《
それは、【闘士】系統のレベルを上げる過程で習得したスキル。
《フィジカル・バーサーク》は肉体の制御を失い代わりにステータスを大幅に引き上げる。
これにより、更に速度と攻撃力が上がり、【リボルブランタン】は完全にサンラクを見失う。
『――』
毒液を《回蠍調合》で作りだし、ばらまく。
毒物は鉱石や金属なども溶かせる溶解毒。
正体不明の巨人に対して、生物用の毒では効き目が弱いと判断した結果である。
強度はさほどではない【プリズンブレイカー】では、当然耐えられない。
だが、耐えきる必要もない。
『全速前進!猪突猛進!』
端的に言えば、ただの突進である。
だが、たかが突進ということなかれ。
攻撃力がただでさえ数万。
加えて、音の数倍の速度と、人の百倍以上の重量が乗った一撃。
それは超級職の奥義にさえも匹敵する。
衝撃に耐えきれず、【プリズンブレイカー】は崩壊をはじめ。
【リボルブランタン】はストックを一つだけ消費して耐える。
『《ファイア》』
カウンターの光線が【プリズンブレイカー】に命中する。
『《
【猛牛闘士】の奥義。
【修羅王】のスキルにより、戦闘系のスキルであればすべて使える。
ゆえに、これも使うことができる。
『もう一発!』
《逃非行》というスキルは、空間転移だ。
相手の背後に転移して隙をつくことができるため、間違いなく驚異的なスキルではある。
転移したからと言って、それまでのことがなかったことになるわけではない。
転移直前に獲得した速度は、リセットされない。
そこに《回遊》の効果も加われば、彼は超超音速を体現できる。
「ーー」
全速力で、返す刀で斬りつける。
その一撃は、超級職の奥義にすら匹敵する威力であり。
また、紅い発光体が砕け散る。
『《ファイア》』
光線が発射されて、
《製複人形》が発動し、光線から盾となってサンラクを守る。
HPの大半を失い、更にスリップダメージでも削れていく。
サンラクのHPが、一になり。
そこで止まる。
最終奥義、《修羅場》の効果だ。
『ファイア』
そしてさらにもう一つ。
「やれやれ、相打ちかな。一緒に果てるってエロいよね」
どうやってたどり着いたのか、【リボルブランタン】の足元にはいつくばっているアンダーマテリアルがいた。
彼女は、自らの肉体を囮にして、【リボルブランタン】と銀色の巨人ーー【機人変刃】をぶつけたのだ。
毒が彼女の体を侵すが、それも《ライフリンク》で凌いでいる。
これで、ついに発光体は、ストックはひとつ残らずなくなった。
ここから、さらに手を打つつもりだろうか。
だが。
『これで終わりダーー《真火真灯爆龍覇》』
ストックもなくなり、今度こそ致命傷となる一撃を、迅羽が発動して。
今度こそ、【リボルブランタン】は、光の塵になる。
『よシ!』
迅羽は、確信する。
自分が致命傷を与えたと。
MVP特典を手にするのは自分だと。
『ア?』
だが、彼女が目にしたのは思いもよらないものだった。
◇
爆炎が晴れると、そこには二人がいた。
一人は、アンダーマテリアル。地面にはいつくばっている。
《ライフリンク》で防いだのだろうか。
もう一人は、サンラク。
白と黒で形作られた【双狼一刀 ロウファン】という、対生物即死特化の伝説級特典武具。
それを振るった後だった。
だが、どうやって近づいたのか。
確かに、奴の速度は見切っていたはずなのに。
そこまで考えて、迅羽は、その絡繰りに気付く。
――サンラクが、アンダーマテリアルを
『さっきの転移スキルカ!』
《逃非行》をアンダーマテリアルを対象に使用。
迅羽が魔法を発動させるより速く、致命の一撃を叩き込んだ。
つまり。
『ーー俺達の勝ちだ、残念ながらな』
こんどこそ、獲物の取り合いは決着した。
【<UBM>【赤星回蠍 リボルブランタン】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【サンラク】がMVPに選出されました】
【【サンラク】にMVP特典【冥鏡死錐 リボルブランタン】を贈与します】
To be continued