<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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四章完結です。


エピローグ 夜明け

 □■征都近辺

 

 

【<UBM>【鏖金大殲 メテオストリーム】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【安芸紅音】がMVPに選出されました】

【【安芸紅音】にMVP特典【黄金龍面 メテオストリーム】を贈与します】

 

 

 【メテオストリーム】が消滅すると同時に、討伐完了のアナウンスが紅音の脳内に鳴り響く。

 

 

「サンラクさん!ノワレナードさん!やりました!」

 

 

 紅音が、両手を上にあげて、満面の笑みで跳びあがる。

 

 

『落ち着け、紅音。まずは体力の回復が先であろう。貴様の不死身は制限付きのはず、宝物を手に入れたとて、そこで死んでは台無しであろう』

「は、そうでした!」

 

 

 慌てて紅音はポーションを取り出して口を付け、一気に飲み干す。

 そのまま、残りを頭からかける。

 その様は体育会系のそれであり……実際のところ体育会系である彼女にはよく似あっている。

 

 

 

『まったく戯けが……私まで濡れたぞ』

「は!すいません!」

 

 

 どこか、呆れたようにため息を吐いた。

 否、ため息のような音声を発したノワレナード。

 【ノワレナード】は、狐面型の特典武具である。

 そして、世にも珍しい意思が残った特典武具でもある。

 それは、紅音にアジャストしたもの。

 紅音には、生成した分身をアシスト抜きのマニュアルで操作する技術はない。

 それ故に、アジャストしている特典武具である。

 お面にある、【ノワレナード】の意識が《黒白分命》によって作られた分体を操作する。

 そして、それゆえに、【黒召妖狐 ノワレナード】時代の魔力操作技術もそのまま使える。

 そうでなくては、《炎遁・桜花爛漫ーー三連》は使えなかっただろう。

 二連すら、紅音一人ではできない。

 最も、気難しいノワレナードを御せるのは紅音のみであり、彼女でなければ扱えなかっただろうが。

 

 

 

「あれ?」

『どうした、安芸紅音』

「あの……サンラクさんは?」

 

 

 

 いつの間にか、サンラクがいない。

 煙のように、全く痕跡を遺さず消えている。

 

 

『……死んだのではないか?』

「それはないです、ドロップアイテムがないので」

 

 

 サンラクは見た目こそ人外であるものの、れっきとした人間であり、<マスター>である。

 死ねば、世界の法則に従いドロップアイテムをまき散らすはずだが、周囲にそれはない。

 

 

 紅音も、ノワレナードも失念していた。

 この事件には、もう一つ。

 重要な駒が隠れ潜んでいたということに。

 

 

 □■【耽殉冥界 アンダーワールド】内部

 

 

『それで、どういう心算だ?』

「どうするつもりって、それはもちろんナニをするつもりですねえ」

 

 

 あの後、俺は【呪縛】の状態異常になっていた。

 スキルの反動である。

 そのままま死ぬかと思ったが、いつの間にかここにいた。

 多分、カルディナで使ったスキルだな。

 お、時間経過で呪いが解けた。

 

 

『訊いていいか?』

「スリーサイズはねえ」

 

 

 訊いてねえよ。

 さて、どっから追求しようか。

 俺と安芸紅音に任せっきりでほとんど自分は出てこなかったことか。

 それとも今吐いた下ネタについてか……それはいったん置いておこう。

 それより訊きたいことがある。

 

 

『お前、あの<UBM>について知ってたよな?』

「うん、知ってたよ」

『なんで言わなかった?』

「訊かれなかったからねえ」

 

 

 なるほど。

 確かに訊きはしなかった。

 俺は、超級職になるために注力してきた。

 だから、それ以外には興味を向けていなかった。

 

『伏せていた理由はわかった。じゃあ……倒そうとしなかった理由は?』

「観たかったからねえ」

『なるほど』

 

 

 俺が苦戦する所でも見たかったのか?

 だとしたら残念だったといわせてもらおう。

 俺は勝った。

 まあ特典武具は手に入らなかったが……仕方ない。

 せめて、《餓狼顛征》がもう少し入ってれば結果も違ったんだろうが、俺より秋津茜たちの方が相当長く戦っていたのだろうしまあいいだろう。

 

 

『直接は言えないけど、ありがとう』

「え、なになになになになになになにい!なんかいった?」

『何も』

 

 

 大したことじゃない。

 あのドラゴンもどきと戦うまでに、たまたま見ただけ。

 奴の攻撃の結果と思われる破壊の跡を。

 デスペナルティを示す、三人分のドロップアイテムを。

 彼らの頑張りを知っていた。

 正直特典武具を手に入れられなかったのは残念だが、まあ悪くはない。

 

 

 とりあえず、あとで京ティメットには「デスぺナお疲れさまです!」ってメッセージ送ろう。

 デンドロか幕末か、どっちでも果たし状は受け付けております。

 

 

「さあて、これでサンラク君的には、もう天地に来た目的は果たせたかなあ?満足した?」

『まあな』

 

 

 連れてきたのがこいつであるということだけが難点ではあったが、それによる結果が最上であることだけは認めなくてはなるまい。

 

 

「つまり、もうカルディナに戻りたい?」

『まあそうだな。お前の<エンブリオ>でさっさと戻してくれ』

 

 

 正直、天地は楽しかったが……さっさとレイと合流したいのも本心だ。

 なので、約束通り連れ帰ってもらおう。

 事が済めば、俺たちの関係性は終わりのはずだ。

 

 

 

「いや、それは無理だよ」

『――は?』

 

 

 

 あ、やべ反射で拳が出た。

 ごろごろ転がるのはなんでなんだ。

 とりあえず恍惚とした顔はやめてくれ気持ちが悪い。

 

 

「あの時さあ、君の仲間は私達を取り返そうとしていただろう?」

『そうだな』

「私の<エンブリオ>は逃がさないことに特化していてね、招かれざるものを拒む力はそんなにないんだ」

『確かに、今ここにお前がいるもんな』

「きっついねえ。で、ここからが本題なんだけど」

『?』

「君の仲間にビビって、カルディナのゲートをリセットしちゃった」

『おい』

 

 

 とはいえわかった。

 そういう話なら理解はできる。

 納得はできないが。

 

 

「ま、他にまだゲートが大陸に残ってるからね、そこから移動すればいいんだよ」

『なるほど』

 

 

『それで、どこに行くんだよ?』

 

「残ったセーブポイントで、最もカルディナに近いところ」

 

「つまり、ーー黄河帝国さ」

 

 

 

「もう少しだけ、ご一緒させてもらうよサンラクくうん?」

『…………いいだろう』

 

 

 悪魔からの提案。

 俺は、承諾せざるを、得なかった。

 

 

 

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五章はちょっと待ってください。

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