<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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暁 其の十

 ■【鏖金大殲 メテオストリーム】について

 

 

 ーーダメージ過多。

 ーー怨念不足。

 ーー消滅の危機。

 

 

 【メテオストリーム】は、自らの状況を把握していた。

 端的に言えば、窮地、絶体絶命。

 その原因は、周辺の劣化“化身”。

 今自分の周囲を蠅のように飛び回る鳥頭。

 五桁のAGIでも捉えられず、範囲攻撃でも殺しきれない。

 そして、明確にこちらのHPだけが削られている。

 加えて、近くにいる狐面も厄介。

 なにやら、強力な攻撃の準備に入っているように見える。

 先ほどの攻撃でもかなりこちらのHPを削っていた。

 もう一度あれを喰らえば、危うい。

 

 

「ーー」

 

 

 【メテオストリーム】は、撤退の判断を下そうとしていた。

 仮にこれが、フラグマン製の兵器であれば、こうはならなかったかもしれない。

 だが、絡繰人形には、機械とは異なり魂が、自我が備わっている。

 

 

 絡繰の、機械とは違う点がそこだ。

 機械が、燃料(MP)を動力にし、プログラムや人の手で制御するのに対して、絡繰の基本はスタンドアローン。

 怨念を使う都合上、どうしても感情のようなものは生じる。

 そして、だからこそスタンドアローンでの運用が可能になる。

 絡繰の精神を目的に応じてどれだけ制御するかが、【絡繰士】の腕の見せ所である。

 元が絡繰りである以上、【メテオストリーム】にも、感情や思考はある。

 とはいえ、フラグマンの技術も取り入れられており、基本的にそれで何かが変わるわけでもない。

 ただ、在るだけだ。

 そも、【メテオストリーム】の唯一の目的は”化身”の殲滅。

 世界を滅ぼした、人類を虐げた絶対悪への報復。

 だから、自信の感情があっても、目的が揺らぐことはない。

 あったとしても、それは無数の怨念に押し潰されてしまうから。

 怨念が弱まれば消極的になるが、それでも彼自身の目的が揺らぐことなどありえない。

 何より、それが彼のたった一つだけの存在意義だから。

 だから、止まることはない。

 “化身”を滅ぼすために、いかなる残虐な行為にも躊躇はない。

 ただ、一つだけ、彼にも思うことがある。

 “化身”を滅ぼすという目的とは別に、彼が造られた時から、彼自身が願っていたこと。

 誰に言われたことでもなく、命令でもなく、彼の感情で感傷。

 もしも、世界が――。

 

 

 

『逃がすわけねえだろ!』

 

 

 サンラクには、止めるすべがない。

 STR幾万の進撃を止めることは出来ない。

 彼にできるのは、追いつくことだけだが……それではだめだ。

 おそらく、届かない。

 

 

「これは!」

 

 

 いつの間にか現れた、キメラモンスター。

 先ほどより小さい個体がほとんどだが、数は先ほどより多い。

 それが再び、【メテオストリーム】の動きを縛っている。

 

 

『でかしたアンダーマテリアル!安芸紅音いけるか!』

「いつでもいけます!」

『頼んだ!』

「はい!」

 

 

 紅音は、返事とともに。

 

 

「《炎遁・桜花爛漫ーー」

「ーー三連》」

 

 

彼女たちの、最大最強の奥義が放つ。

 

 

『変形』

 

 

 それと同時に。

 【双狼牙剣 ロウファン】が、条件を満たしてその形を変じる。

 黒い刃と、白い鞘の打刀。

 【双狼牙剣】は【吸命】と、【恐怖】の状態異常を付与する双剣。

 それを果たした時、【双狼一刀 ロウファン】へと変じる。

 そして、居合は放たれる。

 

 

『《餓狼顛征(ロウファン)》』

 

 

 紫電一閃。

 《餓狼顛征》は、斬った相手の細胞を全て停止させるサンラク最凶の切り札。

 植物性細胞で構築されている、【メテオストリーム】もまた例外ではない。

 決まれば、確実に再生が止まり、死に至る。

 

 

 ーーしかし、【メテオストリーム】はまだ止まらなかった。

 胴の半分を切り離し、放棄。

 切り離した箇所は死滅するが、もう半分は無事だ。

 逆に言えば、今の攻撃で半身を失っている。

 修復は、できていない。

 《逆鱗・暴慢》、《竜征群》などの怨念を大量に消費する攻撃。

 そうでなくとも、<デッド・ライン>のメンバーやサンラクの攻撃によってHPが削られており、余裕はまるで残っていない。

 

 

「そりゃあああああああああああ!」

 

 

 そこに、炎の花が直撃する。

 

 

 先ほども、【メテオストリーム】の頭部を吹き飛ばした《炎遁・桜花爛漫》。

 炎熱で構成された桜の花弁は装甲を引き裂き、内部の歯車を焼き尽くす。

 

 

 だが、それでも止まらない。

 止まることなどできない。

 “化身”を滅ぼす。

 世界を滅ぼされた恨みを、晴らすため。

 蓄積された怨念を移動のための動力と肉体の修復に回し、今は全力で退避せんとする。

 

 

 だが、それはもうできない。

 

 

「二弾目、命中」

 

 

 もう一つ、【メテオストリーム】の体に花が咲く。

 

 

「三弾目だ、絡繰」

「――」

 

 

 さらに、もう一つ。

 声を上げる隙もない。

 完全に爆散した。

  

 

 成したのは――ノワレナード。

 そして、安芸紅音である。

 

 

 《炎遁・桜花爛漫ーー三連》。

 紅音とノワレナードにとっては最大最強の切り札である。

 紅音が一つ。

 そして、ノワレナードが二つ、《桜花爛漫》と飛ばすというもの。

 奥義を同時に使うなど、普通の人間にはできない。

 だが、長年魔力コントロールの修業を積んできたノワレナードにはそれができる。

 ゆえに、最大火力を三連撃。

 それが、彼女たちの積み上げた最大火力である。

 

 

 サンラクも、紅音も、これ以上ない程に奥の手を出し切った。

 彼ら彼女らの全力は。

 

 

 ■絡繰

 

 

 【メテオストリーム】は、完全には滅ぼせていなかった。

 火力が足りなかったのではない。

 足り過ぎた。

 【メテオストリーム】の本体は全身。

 砕けた破片もまた本体。

 飛散した破片の数は千を優に超える。

 長い時間をかけてまた再構成すればいい。

 爆炎で、たまたま眼球の一つが――特殊な光学センサーが、空へと飛ぶ。

 そして、すでに間近に迫っていた街が見えた。

 そこには。

 

 

(――――)

 

 

 人が、いた。

 

 

 武器を構える人。

 逃げようとする人。

 それらを逃がそうとする人。

 神話級の知らせを受けて、今まさに狩りにいかんとする人。

 爆炎でセンサーを失った【メテオストリーム】にはわからない。

 彼らが、劣化”化身”なのかティアンか。

 もはや判断する知性も残ってはいない。

 けれども、確かに人がいる。

 国がある。

 世界が、ある。

 

 

 ーーもしも、世界が滅びていないのならば。

 

 

 ーーならば、よし。

 

 

 そこまで認識して、感じて。

 【メテオストリーム】は燃え尽きた。

 再生力を、紅音の火力が上回ったか。

 あるいは、怨念が尽きたのか。

 世界が滅んだその後の報復として、作られた龍。

 彼は、世界が滅ぼされていないがゆえに、人の手によって滅ぼされた。

 怨念の一つも、遺さずに。

 “化身”どころかティアン一人さえ殺すこともなく。

 今度こそ完全に、消滅した。

 

 

 To be continued




次回エピローグ。

・【メテオストリーム】
叶わないのは、与えられた使命。叶ったのは、小さな願い。


・要約
 なんもかんも化身が悪い。

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