<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
15万UAいってました。
ありがとうございます。
■【鏖金大殲 メテオストリーム】について
ーーダメージ過多。
ーー怨念不足。
ーー消滅の危機。
【メテオストリーム】は、自らの状況を把握していた。
端的に言えば、窮地、絶体絶命。
その原因は、周辺の劣化“化身”。
今自分の周囲を蠅のように飛び回る鳥頭。
五桁のAGIでも捉えられず、範囲攻撃でも殺しきれない。
そして、明確にこちらのHPだけが削られている。
加えて、近くにいる狐面も厄介。
なにやら、強力な攻撃の準備に入っているように見える。
先ほどの攻撃でもかなりこちらのHPを削っていた。
もう一度あれを喰らえば、危うい。
「ーー」
【メテオストリーム】は、撤退の判断を下そうとしていた。
仮にこれが、フラグマン製の兵器であれば、こうはならなかったかもしれない。
だが、絡繰人形には、機械とは異なり魂が、自我が備わっている。
絡繰の、機械とは違う点がそこだ。
機械が、
怨念を使う都合上、どうしても感情のようなものは生じる。
そして、だからこそスタンドアローンでの運用が可能になる。
絡繰の精神を目的に応じてどれだけ制御するかが、【絡繰士】の腕の見せ所である。
元が絡繰りである以上、【メテオストリーム】にも、感情や思考はある。
とはいえ、フラグマンの技術も取り入れられており、基本的にそれで何かが変わるわけでもない。
ただ、在るだけだ。
そも、【メテオストリーム】の唯一の目的は”化身”の殲滅。
世界を滅ぼした、人類を虐げた絶対悪への報復。
だから、自信の感情があっても、目的が揺らぐことはない。
あったとしても、それは無数の怨念に押し潰されてしまうから。
怨念が弱まれば消極的になるが、それでも彼自身の目的が揺らぐことなどありえない。
何より、それが彼のたった一つだけの存在意義だから。
だから、止まることはない。
“化身”を滅ぼすために、いかなる残虐な行為にも躊躇はない。
ただ、一つだけ、彼にも思うことがある。
“化身”を滅ぼすという目的とは別に、彼が造られた時から、彼自身が願っていたこと。
誰に言われたことでもなく、命令でもなく、彼の感情で感傷。
もしも、世界が――。
『逃がすわけねえだろ!』
サンラクには、止めるすべがない。
STR幾万の進撃を止めることは出来ない。
彼にできるのは、追いつくことだけだが……それではだめだ。
おそらく、届かない。
「これは!」
いつの間にか現れた、キメラモンスター。
先ほどより小さい個体がほとんどだが、数は先ほどより多い。
それが再び、【メテオストリーム】の動きを縛っている。
『でかしたアンダーマテリアル!安芸紅音いけるか!』
「いつでもいけます!」
『頼んだ!』
「はい!」
紅音は、返事とともに。
「《炎遁・桜花爛漫ーー」
「ーー三連》」
彼女たちの、最大最強の奥義が放つ。
『変形』
それと同時に。
【双狼牙剣 ロウファン】が、条件を満たしてその形を変じる。
黒い刃と、白い鞘の打刀。
【双狼牙剣】は【吸命】と、【恐怖】の状態異常を付与する双剣。
それを果たした時、【双狼一刀 ロウファン】へと変じる。
そして、居合は放たれる。
『《
紫電一閃。
《餓狼顛征》は、斬った相手の細胞を全て停止させるサンラク最凶の切り札。
植物性細胞で構築されている、【メテオストリーム】もまた例外ではない。
決まれば、確実に再生が止まり、死に至る。
ーーしかし、【メテオストリーム】はまだ止まらなかった。
胴の半分を切り離し、放棄。
切り離した箇所は死滅するが、もう半分は無事だ。
逆に言えば、今の攻撃で半身を失っている。
修復は、できていない。
《逆鱗・暴慢》、《竜征群》などの怨念を大量に消費する攻撃。
そうでなくとも、<デッド・ライン>のメンバーやサンラクの攻撃によってHPが削られており、余裕はまるで残っていない。
「そりゃあああああああああああ!」
そこに、炎の花が直撃する。
先ほども、【メテオストリーム】の頭部を吹き飛ばした《炎遁・桜花爛漫》。
炎熱で構成された桜の花弁は装甲を引き裂き、内部の歯車を焼き尽くす。
だが、それでも止まらない。
止まることなどできない。
“化身”を滅ぼす。
世界を滅ぼされた恨みを、晴らすため。
蓄積された怨念を移動のための動力と肉体の修復に回し、今は全力で退避せんとする。
だが、それはもうできない。
「二弾目、命中」
もう一つ、【メテオストリーム】の体に花が咲く。
「三弾目だ、絡繰」
「――」
さらに、もう一つ。
声を上げる隙もない。
完全に爆散した。
成したのは――ノワレナード。
そして、安芸紅音である。
《炎遁・桜花爛漫ーー三連》。
紅音とノワレナードにとっては最大最強の切り札である。
紅音が一つ。
そして、ノワレナードが二つ、《桜花爛漫》と飛ばすというもの。
奥義を同時に使うなど、普通の人間にはできない。
だが、長年魔力コントロールの修業を積んできたノワレナードにはそれができる。
ゆえに、最大火力を三連撃。
それが、彼女たちの積み上げた最大火力である。
サンラクも、紅音も、これ以上ない程に奥の手を出し切った。
彼ら彼女らの全力は。
■絡繰
【メテオストリーム】は、完全には滅ぼせていなかった。
火力が足りなかったのではない。
足り過ぎた。
【メテオストリーム】の本体は全身。
砕けた破片もまた本体。
飛散した破片の数は千を優に超える。
長い時間をかけてまた再構成すればいい。
爆炎で、たまたま眼球の一つが――特殊な光学センサーが、空へと飛ぶ。
そして、すでに間近に迫っていた街が見えた。
そこには。
(――――)
人が、いた。
武器を構える人。
逃げようとする人。
それらを逃がそうとする人。
神話級の知らせを受けて、今まさに狩りにいかんとする人。
爆炎でセンサーを失った【メテオストリーム】にはわからない。
彼らが、劣化”化身”なのかティアンか。
もはや判断する知性も残ってはいない。
けれども、確かに人がいる。
国がある。
世界が、ある。
ーーもしも、世界が滅びていないのならば。
ーーならば、よし。
そこまで認識して、感じて。
【メテオストリーム】は燃え尽きた。
再生力を、紅音の火力が上回ったか。
あるいは、怨念が尽きたのか。
世界が滅んだその後の報復として、作られた龍。
彼は、世界が滅ぼされていないがゆえに、人の手によって滅ぼされた。
怨念の一つも、遺さずに。
“化身”どころかティアン一人さえ殺すこともなく。
今度こそ完全に、消滅した。
To be continued
次回エピローグ。
・【メテオストリーム】
叶わないのは、与えられた使命。叶ったのは、小さな願い。
・要約
なんもかんも化身が悪い。