<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
これからもよろしくお願いします。
□【修羅王】サンラク
『知らない天井だ……』
いや、知ってるわ。
普通に転職クエストの青い天井じゃねえか。
今の今まで【気絶】していたのである。
多分、【出血】していたことが原因かな?
ダメージが大きすぎたらしい。
この<Infinite Dendrogram>においては、アバターが気絶しても俺自身が気絶するわけではない。
暗い空間に閉じこめられているだけ、という情報は得ていた。
俺はこのゲームで気を失ったことはないので今まで知らなかった。
アンダーワールドにいるのと変わらないので、正直若干苛ついた。
下ネタをささやくな脳内ド変態。
デスボイスで鼓膜破壊してやるからな覚えとけ。
特典武具がなかったら死んでた説はある。
いやなんなら、普通に負けてたよな。
だが、それはそれとして。
『なった、か』
ウィンドウを見れば、メインジョブは【
いや本当にこれはやばい。
デンドロにおいて、超級職の存在は大きい。
とりあえず、出るか。
◇
「お帰り、おかずにする?ソープにする?それともわ・た・しるっぷああ!」
異空間からの帰還早々、飛んできたのは下ネタでした。
とりあえず、飛び膝蹴りで応じることにする。
ええい、下ネタうるせえ!
後真ん中のは公序良俗だろ最早。
いや全部駄目だわ。
どの選択肢を選んでも最低だよ。
もはや地獄でしかない。
□■<修羅の谷底>
サンラクと、【メテオストリーム】との戦い。
それと同時に、【メテオストリーム】が動いた。
敵を排しようとする……のではない。
遠くにいる劣化“化身”。
それらの障害となる羽虫を除くために、範囲攻撃を放つ。
「《竜征群》」
【メテオストリーム】の口から、機械音声が発せられて。
同時に、尾から、黒き雨がまき散らされる。
怨念を、闇属性広域殲滅攻撃魔法へと変換する技。
広域にまき散らされる魔法は防御も回避も不可能である。
純竜クラスのモンスターも、耐久に秀でたジョブの<マスター>も殺し尽くす殲滅魔法。
今まで、倒せなかった相手は不死身に限りなく近い安芸紅音のみ。
『悠長すぎるだろ』
否、ここに、もう一人いる。
放たれた黒い球、そしてえぐられた樹木を見て、上から降り注ぐ対生物特化の攻撃であると見抜いた。
黒い球を破壊するのは無理。
無数の雨のごとく飛来する攻撃をかわすのは無理。
さらに、サンラクはこちらに向かう際に【メテオストリーム】が再生する様子を確認している。
発射口を破壊しようとしても、攻撃は防げなかった。
であれば、どうするのが正解なのか。
『雲の上には、雨は来ない』
黒い球が射出されてから発動するまでのわずかな間に。
サンラクは、遥か高く。
黒球の上に、《配水の陣》を使って駆け上がる。
そして、雨が当たらない安全圏まで避難したのだ。
《竜征群》がやんだ後、生き残った者は二つ。
一つは、<エンブリオ>で完全回復を行った紅音。
そして、サンラク。
相手の大技を躱し、その勢いのまま【メテオストリーム】の胴体に飛び移る。
そして、そのまま【メテオストリーム】の上を走り回りながらその装甲を切り刻む。
両手には、伝説級特典武具の、【双狼牙剣 ロウファン】。
状態異常攻撃を駆使する特典武具だが、素の攻撃力も決して低くはない。
さらに、尋常ならざる速度までもが攻撃に乗り、
「ーー《逆鱗》」
自身の肉体を傷つけられることで発動するカウンタースキル。
怨念を膨大な物理的衝撃波に変換するスキル。
斬りつけながら、サンラクはこれを避けていく。
《脱装者》などの数多のスキルによってAGIが優に五桁に至っているサンラク。
音よりも、神話の怪物よりも速い域にいるサンラクを捕らえることは、【メテオストリーム】と言えどもできない。
「――《逆鱗・暴慢》」
だが、神話の怪物は、それでは終わらない。
姿を捕らえられずとも、攻撃を当てる方法はある。
《逆鱗》をさらに発展させたスキル。
《逆鱗》は、【メテオストリーム】の装甲がはがれた箇所から衝撃波を放つというスキル。
だが、これにはその先がある。
《逆鱗》による衝撃波によってもとより装甲には亀裂が入る。
そこをさらに発展させる。
全身の装甲を砕けさせて、全方位に衝撃波をまき散らす。
それこそが、《逆鱗・暴慢》である。
これを防ぐには、尋常ならざる物理攻撃耐性が必要であり、直撃を至近距離で喰らったサンラクにはそれはない。
サンラクは、
だがしかし。
それは。
『隙ありなんだよなあ!』
サンラクのスキル補正も何もない拳。
それが、装甲を完全に放棄した【メテオストリーム】の内部機構へと刺さり、ダメージを与える。
サンラクはそこで止まらず、耐久の落ちた【メテオストリーム】に対して攻撃を継続する。
だが、それは今までのサンラクを考えればあり得ない。
《ラスト・スタンド》によって五秒間は耐えられるものの、ただそれだけだ。
だが、《ラスト・スタンド》にはさらにその先がある。
もとより、【殿兵】というジョブは、倒れないことに特化したジョブ。
致命のダメージを受けてもなお、倒れないスキル。
死してなお、目的を果たすために突撃する【死兵】とは違う。
目的を果たすまで、倒れることができない、死ぬことができない兵たち。
それが【殿兵】の本質であり、それは殿兵系統超級職の、スキルにも表れている。
【修羅王】の最終奥義、《修羅場》。
【修羅王】への転職と同時に習得するこの最終奥義は、一体、相手を敵と指定して使用するスキルである。
効果は、指定した
本来ならば、どうということはない。
HPが一ならば、当然傷痍系状態異常になっており、戦闘ができなくなる。
そして《修羅場》は解除され、死に至る。
普通に考えれば、何の役にも立たないスキル。
先代の【修羅王】も、一度として最終奥義を有効活用したことはなくーー【海竜王】との決戦や死後、サンラクとの戦闘でも用いられることはなかった。
一般的なオンラインゲームでは、いわゆる死にスキルと言われるものである。
だが、サンラクに限ってはその話は当てはまらない。
実際、神話級<UBM>の捨て身の一撃を《修羅場》によって防いでいる。
その種は、彼の装備品との組み合わせ。
【修業帯 プリュース・モーリ】による、HPを伴わない肉体のみの修復。
HPが残り一になっても、傷痍系や制限系の状態異常を気にせず行動できる。
加えて、HPが残り一しかないことで、《呪慌生誕》の効果も受けない。
あれは、
因みに、紅音は攻撃を喰らうたびに《再始動》で全快しているため彼女に対しても《呪慌生誕》はさほど問題ではなかったりする。
『秋津茜!』
「はい!今は安芸紅音です!」
『そうか!大火力攻撃、何かあるか?あったら頼む!』
「あります!やります!」
先ほど体勢を崩された時に防がれた切り札をーー黒狐のお面に触れる。
「《
紅音は、彼女の持ちうる最大最強の切り札を切る。
【黒召妖狐 ノワレナード】の能力特性である分体召喚、その集大成であり、安芸紅音と同等の性能の分身を召喚する。
これで、彼女の準備は整った。
ーーそして。
『こんだけ斬れば、準備は万端ってなあ』
それは、サンラクもまた同じ。
【双狼牙剣 ロウファン】を構える。
既にもう、準備は終わっている。
『おもちゃはそろそろお片付けの時間だぜ?ガラクタ』
二匹の狐が叫び、一羽の鳥が笑う。
To be continued