<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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今回短めです。

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暁 其の七

 □■<修羅の谷底>

 

 

 

「持久戦は無理だあ、となると火力をぶつけざるを得ない」

「だからぶつける必要があるってことだね、全身全霊の火力を今ここで」

「京極、どれくらいかかりそう?」

「そうだね、五分くらいはかかるかなあ」

「やりましょう!全員で、力を合わせましょう!」

 

 

 彼らの意思は一つ。

 

 

「それと、もう一つ」

 

 

 京極は、人差し指をピンと立てて、言った。

  

 

 

「僕の名前は京極じゃなくて、京(アルティメット)だ、間違えないように」

「「…………」」

 

 

 目の前には神話級の怪物。

 にもかかわらず、いつもと変わらない、京極。

 その様子に、二人はそろってため息を吐いた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 既に、ワームの拘束もなくなったことで、【メテオストリーム】は前進を始める。

 それは、超音速機動の類ではない。

 ゆったりとした歩みだ。

 征都には、複数の<超級エンブリオ>が存在する。

 それらは、強力な存在ではあるが……“化身”と比べて反応は薄い。

 なので、特別に急ぐ必要はない。

 そう判断していた。

 さらに、周囲にも微弱な“化身”反応は探知できるが、戦闘能力はともかく反応は薄いのでそこまで真剣に対応する必要性はない。

 

 

 

「《片割れ、片割る(ポルクス・カストル)》」

 

 

 ダブルフェイスは、自身の<エンブリオ>の必殺スキルを起動。

 直後、彼の持つ二丁拳銃。

 その片方が、砕け散る。

 【双星器 ポルクス・カストル】はTYPE:ウェポンの<エンブリオ>。

 右手の銃で、固定ダメージを与える光弾を放ち、左手の銃でレーザーを放つ。

 速度型、耐久型のいずれにも通用する攻撃手段を持ち、加えて彼のようにMPの比較的少ないビルドでも問題なく運用できるほどにコスパもいい。

 矛として、かなり強力な<エンブリオ>だが、当然デメリットもある。

 それは、二丁のうち、同時に使えるのは一つのみということである。

 あたかも、同時にこの世に存在できないがゆえに、片方のみが交代でこの世に存在する双子のごとく。

 そんなポルクス・カストルの能力特性は二者択一(・・・・)

 どちらかの能力しか使えない。

 そういう制限だ。

 ちなみに、装備スロットは両方消費する仕様となっている。

 

 

 そして、必殺スキルの方向性も、その能力特性と違いはない。

 スキル宣言と同時に、片方が破損する。

 そしてそれを代償として……もう片方の銃の出力を一分間だけ大幅に引き上げる。

 今、彼の手にあるのは固定ダメージを放つための銃。

 一分間、ただひたすらに光弾を放つ。

 相手が神話級の<UBM>であろうとも関係がない。

 銃弾が当たった傍から頭部が、胴体が、まるで紙細工のように吹き飛び、崩れていく。

 

 表面の装甲が剥離し、内部の無数の歯車で構築された機構がのぞく。

 さらに、銃弾は止まらず、歯車も破壊していく。

 そして、もう一つ。

 

 

 

「《百眼視(アルゴス)》」

 

 

 

 トーサツの必殺スキルが、起動する。

 その効果は、百ある【百目機 アルゴス】の眼球(ドローン)の一斉起動。

 加えて、必殺スキルが発動している時間にして一分。

 その間のみ、眼に関するスキルのコストを無視できる。

 それと同時に、スキルを起動。

 

 

 

「《灼眼》」

 

 

 それは、【高位瞳術士】の奥義。

 視線に入ったものを、灼熱の炎で燃やすスキル。

 それらすべてが、ドローンから発動され、一点に集中。

 【メテオストリーム】を焼き焦がす。

 

 

 そんな二人の、攻撃に、京極もまた続く。

 

 

 

「チャージ完了、だね」

 

 

 【戦黒武装 ダーウィンスレイブ】の基本スキル、《吸血の牙》。

 一定時間以内の殺害数に応じて武装攻撃力が高まるスキル。

 周囲に転がる【触手百足】と、それらに生えた無数のアンデッド。

 それらを殺して回ったことで、攻撃力は望外の上昇がある。

 ワームはもはや機能していないので、殺しても支障はない。

 それと、奇襲特化ジョブの野伏系統のスキルを組み合わせることによってさらに破壊力は上がる。

 その攻撃力は、<エンブリオ>の必殺スキルにも匹敵する。

 

 

 三人の<上級>による攻撃。

 それは、【メテオストリーム】の装甲を破壊し。

 内部の歯車を燃やし。

 コアを破砕する。

 

 

 

 彼らに会わせて、紅音もまた、最後の切り札を切ろうとする。

 制御が難しく、暴発の危険もある。

 それゆえに使わなかった鬼札。

 だが、この時は使うべき。

 

 

「《黒白ーー」

 

 

 それを使うための準備を整えようとした時。

 

 

「《竜征群》」

 

 

 

 機械音声とともに、【メテオストリーム】が持ち上がる。

 持ち上がる、と言っても竜の頭部ではない。

 百足の尾部のほうだ。

 それが、真上を向いている。

 尾部から、何かが射出される。

 

 

 漆黒の球体だった。

 ダブルフェイスが、固定ダメージ弾を打つも、すり抜けた。

 

 

「これは……」

「こりゃ、まず」

 

 

 どういうものか察して、ダブルフェイスが撤退しようとする。

 だが、わかったところで、全てが遅い。

 黒い球から、小さな黒い球が四方八方にばらまかれる。

 黒い球は、地面や岩、防具には何ら影響を及ぼさない。

 それが及ぼすのは、生物だけ。

 その場にいた人間を、ハチの巣にした。

 

 

 ◇

 

 

 《竜征群》。

 【メテオストリーム】の持つスキルの一つであり、広域殲滅スキル。

 怨念を闇属性攻撃魔法に変換し、尾部から発射。

 球体は空中で飛散し、闇属性魔法を広範囲にばらまく。

 純粋な物理攻撃やエネルギー攻撃の一切効かない“黒渦の化身”対策として作られたスキルであり、今この場でもその恐ろしさを存分に発揮する。

 無数の魔弾は、紅音を、ダブルフェイスを、京極を、トーサツを、貫いていた。

 全損させても、あまりある無数の黒き雨。

 紅音は<エンブリオ>で命をつないだが、スキルはキャンセルされてしまっている。

 

 

 それが降り注いだ後……その場に生き残っているのは、【メテオストリーム】と紅音だけだった。

 他には、誰もいなかった。

 何も、いなかった。

 

 

 To be continued


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