<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
いつも励みになっております。
□■<修羅の谷底>
「……拘束する。《並列視》、《緊縛眼》」
トーサツの<エンブリオ>、【百目機 アルゴス】によって出力が通常の数十倍にもなった、『眼で見た相手を【拘束】する』スキル。
純竜クラスのモンスターならたやすく【拘束】できるし、伝説級<UBM>でも短時間なら動きを封じられる。
それほどのスキルでも、まだ【メテオストリーム】は動いている。
STRは四万オーバー、伝説級の四倍。
圧倒的なステータスで、拘束を振りほどく。
「ーー」
「?」
しかして、【メテオストリーム】の動きは、止まる。
それは、トーサツによるものだけではない。
しかして、彼以外の者でもない。
紅音はチャージの真っ最中であり、京極とダブルフェイスはけん制するために動き回っている。
「これは……?」
【メテオストリーム】の胴体や無数の足に何かが絡みついている。
それは、【
先端にドリルが取り付けられており、
百足とタコの足、そして機械を一つにまとめたような、異形。
そして、それが二十体以上、がっちりと【メテオストリーム】に絡みついている。
それらは、体の半分以上が地中に埋まっている。
どこから現れたのかまるで紅音たちにはわからなかったが、その目的は見れば明らかだ。
このワームたちも、【メテオストリーム】を足止めしようとしている。
それが倒したいからなのか、あるいは単にこの場にとどめておきたいだけなのかはわからない。
いずれにせよ、その狙いは成功している。
そしてこれならば、
「皆さん、退避してください!終わりました!」
紅音が、味方三人に声をかける。
スキル発動のための、チャージ。
その完了の合図。
そして、大火力攻撃の余波で三人がデスぺナになりかねないから、退避するようにという、警告。
「《起動》!」
彼女の宣言に呼応して、チャージされた彼女の膨大なMPが一つの魔法に変換される。
それは、一見すると花のように見えた。
五枚の紅い花弁を持つ、花。
花と違うのは、大きさが人間サイズであるということ。
その花弁は、高速で回転していること。
扇風機か、あるいは手裏剣のように。
そして何より――それが細胞ではなく炎熱で構成されているということだ。
それこそは、“無闇”安芸紅音が単独で使用可能な最大火力。
天属性攻撃魔法の使用に特化した、忍者系統派生超級職【火影】の奥義。
「はあああああああああ!《炎遁・桜花爛漫》!」
掛け声とともに、焔の花が、西方の《恒星》に相当する一撃が、放たれる。
《炎遁・桜花爛漫》は、自動追尾機能のついた超火力弾。
紅色の手裏剣は、【メテオストリーム】の頭部へと飛翔し。
「ーー!」
着弾、起爆。
コアがあると思われる、頭部を跡形もなく吹き飛ばした。
声にならない悲鳴を上げて、【メテオストリーム】は倒れ伏す。
「やったかな?」
「おい、その発言はダメじゃね?」
「……フラグ建築」
「え?どういうこと?」
そんなフラグ感満載の京極の発言が原因でもあるまいが。
瞬く間に、頭部が再生された。
内部にあるコアが、絡繰り仕掛けを動かす歯車が、内部機能を守るための装甲が、順番に修復されている。
やがて、完全に元に戻った。
傷どころか、焦げ跡すらない。
「いやいや、コア壊されてるのに何で倒れないの?」
「さっきのはコアじゃないとかかあ?そもそもコアがないタイプかもしれねえ」
京極の疑問はもっともである。
通常のモンスターであれば、コアが破壊されれば死ぬ。
しかし倒れないとなれば……何か仕掛けがあるはずだ。
「これ、《透視》で見えた。コアが複数ある。胴体のあちこちにね、後、移動してるね全部」
「つまり……結局丸ごと吹っ飛ばすことになるわけだ」
《看破》した限りでは、【メテオストリーム】のHPは数百万。
すべて削りつくそうと思えば、どれほどの火力が必要になるかわかったものではない。
少なくともこの場の四人だけは到底足りず……<超級>でも、ビルド次第では削り切れない。
「あと、機械っぽいのに再生するのは
「君、もうほんとに黙っててくれないかな」
「ゾンビというか、【絡繰人形】の類だろうなあ。道具でも怨念由来の物は<UBM>になったりするらしいぜ、妖刀とか」
「なるほど!」
怨念をコストによって、死んだはずの細胞を無理やり活性化させて修復している。
【フレッシュゴーレム】などに近い技術である。
元々、【絡繰人形】は木製のものが多かった。
それゆえに、フラグマンの魔導工学を取り入れつつも、【絡繰王】は木材を原材料に制作している。
通常の絡繰人形には再生能力などないが……【メテオストリーム】は別だ。
使用する燃料が膨大であり……それゆえにありうべからざる修復が可能である。
さて、そんな怪物への対処法だが……。
「……このままでもいいかもしれない」
「といいますと?」
「怨念が弱まってる」
トーサツのジョブは、サブも含めてほとんど視覚系のスキルで埋まっている。
紅音たちと行動するにあたって、中途半端な戦闘能力は不要と判断した彼はビルドのほとんどを索敵に割いている。
そしてそんな視覚系のスキルの中には怨念を見るものもある。
なので怨念が弱まっていることも察知できた。
無理もない。
頭部を二度も破壊されている。
超級職の奥義クラスの攻撃を二度も喰らえば、流石の神話級といえども疲弊する。
さらに傷口から怨念を物理的な衝撃波に変換し、カウンターとして放つ、《逆鱗》も使用している。
これはいわば誤爆に近いスキルであるため、消耗が激しい。
もとより、世界が滅ぶことと、それによって全人類の発した怨念をコストにすることを前提とした絡繰仕掛け。
莫大なステータスを誇る巨体も相まって【メテオストリーム】の燃費は悪く、周囲にある怨念だけではそこまで長く稼働できない。
「とりあえず、足止めに切り替えて……」
トーサツは足止めによるガス欠を狙おうとした。
それが、普通の判断だ。
現時点でわかっている範囲ではそれが間違いようのない最善手。
だが、それは。
ーー普通ではない相手には通じない。
「ーー《呪慌生誕》」
機械音声のスキル宣言。
それは、【メテオストリーム】から発せられた音声。
同時に、竜麟が爆ぜ、飛び散る。
「え?」
「うわ」
トーサツは硬直し。
京極は咄嗟に後ろに下がり。
「《炎遁・赤屏風》!」
「《石垣》!」
ダブルフェイスと紅音は広範囲に及ぶ防御用のジョブスキルを展開して味方を守った。
炎の壁と、タンク特有の海属性結界によって、彼等は無傷でしのぎ切った。
【触手百足】に被弾したが、こちらの被害も軽微。
極々軽症であった。
むしろ、【メテオストリーム】の方が重傷であり、寿命がさらに縮まった。
これはもはや紅音たちの勝勢である。
ーーかに思われた。
「「「「「「「「「「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」」」」」」」」」」」」
「……え?」
喧しい音だった。
赤子の鳴き声の不快さだけを抽出して、圧縮したような声。
それが、何柔軟百と同時に響く。
音の発生源は、今もなお【メテオストリーム】にしがみついている【触手百足】だ。
だが、【触手百足】が叫んでいるわけではない。
地中穿孔と死角からの奇襲をコンセプトとして
いや、していなかった。
傷口に、顔があった。
人の顔を無理やり溶かして、紫色に染めたような歪な無数の貌。
顔の大きさは一つ一つはイチゴほどの大きさしかないが、それらがすべて一斉に喚いている。
それは、【メテオストリーム】の固有スキルの一つ、《呪慌生誕》の効果。
飛散させた竜鱗による攻撃を受けると、その部分が、極小のアンデッドに変じる。
そしてそれらは少しずつ本体からHPを吸い取っていく。
さらに、その貌は、本体が死ぬまで拡大を続ける。
それこそが、【メテオストリーム】第一の恐ろしさ。
存在変質の呪いである。
「そんな……」
「どうしたあ?」
だが、それだけが恐ろしさではない。
このスキルは、矛ではなく盾。
【メテオストリーム】を守るためのスキルである。
「怨念が、回復してる……」
《呪慌生誕》によって生み出されたアンデッドは、寄生している本体以外には何もしない。
攻撃する手段がない。
ただ、泣きわめくだけ。
それらは喚き、泣き、怨念を生産し、吐き出す
それこそが【メテオストリーム】の第二の恐ろしさ。
周囲に生物が存在する限り、動力である怨念が尽きない。
怨念を強制的に発生させ、無尽蔵の体力を盾に敵を蹂躙する。
仮に周囲に生物がいなくても、それならば問題はない。
外敵がいなければ使う怨念の量など、たかが知れている。
“化身”を滅ぼすため、止まることはなく進み続ける、古龍級の厄災。
「ーー進撃再開」
瞬く間に鱗を修復したメテオストリームは、弱くなった拘束をほどいて進み始める。
竜を模した災害は、未だ止まない。
To be continued
・《桜花爛漫》
ざっくりいうと火遁・螺旋手裏剣です。
火力と範囲は《爆龍覇》と《恒星》の中間。
・【メテオストリーム】
広域制圧型で、個人戦闘型でーー広域殲滅型。