<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

98 / 117
感想、評価、ここ好き、誤字報告、お気に入り登録、ご愛読ありがとうございます。

四章ももうすぐ終わります。


暁 其の五

 □■2000年前

 

 

 2000年前、先々期文明時代。

 一人の天才によって世界は大きく変わった。

 土壌を改良し、死んだ土地を豊饒の土地へと変えるナノマシン。

 どこからエネルギーを得るでもない、無限に稼働し続ける永久機関の動力炉。

 さらには、竜を象った古龍にすら届きうる過剰戦力の兵器。

 そんなものが当然のように世界にはびこっていた、魔導工学時代。

 それから二千年たつにもかかわらず、その時代が最もこの世界において文明が発達していた時代であるほどだ。

 

 

 

 ーーしかし、そんな先々期文明はあまりにもあっさりと滅びる。

“異大陸船”、そして“化身”の襲撃。

 多くの国が滅ぼされ、また大勢という言葉では足りないほどのティアンが死んだ。

 その中には、超級職という超人の中の超人も含まれている。

 本来ならば、それこそ文字通り伝説に残るような怪物たち。

 さらには、神話クラスの特殊超級職はそれこそ世界を滅ぼしうるほどの化け物だ。

 そんな者達さえもが、瞬く間に死んでいく。

 たかが十三体の”化身”を前に。

 どれほどの攻撃でも殺しきれない、無尽の増殖を繰り返す「獣」がいた。

 神話級金属の防御も貫く、無数の矛をばらまく「帽子」がいた。

 物理攻撃もエネルギー攻撃もきかない、全てを虚無に吸い込む「黒渦」がいた。

 誰よりも速く、その姿を捕らえられるのが皆無の、「秒針」がいた。

 それこそ、人類が滅亡しかねないほどの存在だった。

 

 

 

 とはいえそんな”化身”に対して、人類もただ指をくわえて滅びを待っていたわけではない。

 とある【大賢者】は、自身の記憶の保全と、神話を超える決戦兵器の開発を始めた。

 かつての神から世界を託されていたはずの古龍は、ジョブに紛れて存在を保全することを選び。

 そして、他にも動いたものがいた。

 その人物は、一人の超級職だった。

 その超級職の名は、【絡繰王】。

 絡繰人形を扱う超級職である。

 絡繰人形は、西方の機械や、魔法によるゴーレムとは似ているようだがまるで違う。

 その動力は、怨念(・・)

 それゆえに意思を持つこともある。

 彼は、特に歴代でも指折りの【絡繰王】であった。

 かのフラグマンの技術も取り入れたこともあって、彼は歴代最高の【絡繰王】へと至った。

 特に、【ベビードール】と名付けたゴーレムは、伝説級の戦闘能力を持っている。

 彼は、その技巧を使い、対”化身”用決戦絡繰兵器を作ろうとしていた。

 

 

 

 しかし、絡繰にはどうしようもない欠点があった。

 端的に言えば、制御しきれないことだ。

 怨念が集合すれば、統制を失い、結局のところ怨念の総意として暴走と破壊を始める。

 機構で制御しようにも、怨念が多すぎると超級職でも制御は困難である。

 ましてや……今は化身が暴れており、死者生者共に大量の怨念がまき散らされている。

 これをどうやって制御しろというのか。

 死者の総意として暴れまわるだけの怪物など、制御できるはずもない。

 そして制御に注力すればその分戦闘能力は低くなり、神のごとき力を持った”化身”を倒せない。

 フラグマンの広めた魔導工学を取り入れて作った自在変形兵装機能を持った【ベビードール】でさえ、あくまで伝説級。(加えて、プログラムや魔術で制御を試みたにもかかわらず結局暴走されてしまい、<UBM>に認定されている)

 

 

 

 

 

 ーーならば、それ(・・)を制御する必要はない、とその時の【絡繰王】は考えた。

 なぜならば、怨念が集まったとしても起きるのは、怨念の総意による暴走。

 “化身(・・)によって滅ぼされた者たち(・・・・・・・・・・・・)の、怨念の総意である。

 当然、怨念の源は“化身”に対する恨みと恐怖。

 であるならば、たとえ暴走したとしてもその怨念の矛先は“化身”に向けられる。

 つまり、怨念ある限り、ただ化身を壊すだけの兵器が完成する。

 無論暴走状態にあるために多くの犠牲を出すだろうが、構わない。

 【大賢者】フラグマンの作るような、暴走しない精密で正確な魔導機械ではない。

 暴走することさえも前提とした、爆弾といってもいい最悪の兵器。

 この世界において、基本的にはいかなるものであれ制御を撤廃すると出力が上がる。

 ましてや、<超級職>に至ったものの作品。

 果たして、それがどれほどのものになるのか。

ましてや、その時代は、数多という言葉でも足りないほどの犠牲者を出している最中である。

 それによってどれほどの化け物が生まれるだろうか。 

 

 

 

 怨念を動力とした、数多の兵装。

 さらに、複数のコアの設置と、加えて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その答えこそが、今解き放たれた神話の怪物。

 神話級<UBM>ーー【鏖金大殲 メテオストリーム】。

 ”化身”を滅ぼすために、作られた代物。

 対“化身”用、古龍級(・・・)決戦兵器である。

 

 

 

□■<修羅の谷底>

 

 

 突如現れた、神話級<UBM>、【鏖金大殲 メテオストリーム】。

 その全長は百メートルを超えており、胴幅も五メートルは越えている。

 はっきり言って、どこにいたのか、どうして誰も今の今まで気づかなかったのか不思議なほどである。

 それも仕方がないこと。

 元々、”化身”に破壊されないようにティアンが全霊を尽くして隠蔽し、地下遺跡に隠してあったもの。

 常人には、常人でなくとも気づくのは困難だったはずだ。

 ーーもっとも、その隠したかった相手の“化身”にはあっさりと隠蔽を看破され、<UBM>に認定されてしまっているのだが。

 アンダーマテリアルが発見できたのも、門番である【機人変刃 ベビードール】に偶然遭遇し、周囲が崩壊したからで。

 

 

 

「あいつ、街に向かってない?」

「……同意。間違いない」

「やべえなあ。あんなの、<超級>でもきついかもしれねえ」

 

 

 

 挑まずともわかる。

 規格外に過ぎる。

 今まで彼らが相手をしてきた<UBM>を含めるすべてのモンスター。

 それらを天秤の片方に乗せても、なお釣り合うかどうか。

 それほどまでに、格の差が存在している。

 ゆえに、三人は動けず。

 

 

 

「《炎遁・火炎刃》!」

 

 

 

 ーーだからこそ、一人は動いた。

 

 

 安芸紅音のMPをスキル宣言によって炎熱の刃に変換。

 それで、神話の龍の首に斬りつける。

 直後。

  

 

 

『《逆鱗》』

 

 

 

 反撃が、紅音を襲い彼女のアバターが砕け散る。

HPが削れ、致命傷を負う。

 それと同時に。

 

 

『《再始動(リスタート)》』

 

 

 紅音の<エンブリオ>であるエルドラドの完全回復スキルによって、彼女のHPは全快する。

 このスキルと《ラスト・スタンド》によって、彼女は天地有数の個人生存型として活動できる。

 そんな彼女を見て、首が半ば取れかけた龍は。

 特に何の反応も見せず、進撃を続けた。

 ーー瞬く間に、首の傷を治して。

 

 

 

「……《自動修復》」

「そういうタイプかー」

 

 

 再生能力に秀でた<UBM>、殺そうと思えば、基本的にはHPを削りきらないと殺せない。

 それを為せるのは、ごく限られている。

 例えば、ーー火力に秀でた超級職だとか。

 

 

「私に任せてください!」

 

 

 

 彼女は、“無闇”安芸紅音。

 <エンブリオ>に攻撃力は一切ない。

 加えて、特典武具も一つ残らずお面ーーアクセサリーであり、同じく攻撃力は全くない。

 だが、問題はない。

 ジョブと<エンブリオ>のシナジーで、超級職並みの物理攻撃力を出せる京極と、必殺スキルによって望外の攻撃力を見せるダブルフェイスやトーサツ。

 彼等より、紅音の方が攻撃力で優っている。

 火力が欲しいというのなら、ジョブ一つで彼女は完結している。

 

 

 

「頼りにしてるよ、超級職の火力」

「はい!粉骨砕身頑張ります!」

「もう粉骨砕身してるんだよなあ……」

 

 

 

 

「《炎遁・火災龍》!」

 

 

 彼女のスキル宣言と同時に、赤い炎で構成された龍が、【メテオストリーム】の頭部に食いつき、爆発。

 装甲が、無数の歯車が、そして鈍く輝く動力炉が。

 彼ら四人の目にもはっきりと映った。

 

 

 

 彼女は、“無闇”の安芸紅音。

 一点の曇りもない、まっすぐでひたむきな諦めない在り方こそが、諦めない限り突き進める彼女の本質(<エンブリオ>)こそが、その理由。

 これ以上ない程に、彼女にピッタリの名前。

 だがもう一つ、この<Infinite Dendrogram>においては、彼女を示す名がある。

 

 

 それは、彼女の、彼女だけが就いているジョブの名前。

 

 

 忍者系統から派生した、炎忍系統超級職(スペリオルジョブ)

 

 

 ーー【火影(ブレイズ・ライト)】の安芸紅音。

 

 

 To be continued


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。