<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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暁 其の三

 □■【修羅王】転職クエスト用エリア

 

 

 厳密には、サンラクと刃を交えている【修羅王】は、【修羅王】ではない。

 サンラクの想定していた、AIに近い。

 この世界の言葉で言えば、インスタントモンスターなどが近い。

 そもそも、最初はインスタントモンスターそのものだった。

 戦闘能力は、純粋性能型伝説級<UBM>に匹敵するが。

 

 

 

 誰もそれを撃破できず、そもそも試練を受けたもの自体がごく少数だった。

 だが、イオリ・アキツキはその試練を突破しーー初代の【修羅王】となった。

 それによって、二代目以降の【修羅王】は先代の撃破が要求されるようになった。

 

 

 つまるところーー今サンラクと戦っているイオリ・アキツキは本物ではない。

 ジョブスキルや装備、ステータスこそ同一だが……中身は別物。

 そもそも、本人は十年以上前に、武者修行の過程で【海竜王】に挑んで死亡している。

 そうでなければ、サンラクは試練に挑めない。

 今ここにいる【修羅王】が本物の【修羅王】であるなら、この試練自体が成立していないのだから。

 

 

 だが、あえて言おう。 

 仮に、ソレが本物でなかったとしても。

 すべてが偽物だとは限らない。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 これで、勝勢に立った。

 手足を切り落とした直後、そうサンラクが判断したのは、何ら間違っていない。

 サンラクは【ブローチ】を砕かれ、《製複人形》と《豊穣なる伝い手》を破壊されたものの、彼本人は健在。

 HPは大半が失われているが、彼にとってはゼロか否かのみが重要なので特に気にする必要もない。

 一方、【修羅王】は重体だ。

 腕が二本絶たれたことで残り四本。

 そして、両足が断ち切られている。

 まさに満身創痍。

 むしろ生きていることの方が異常である。

 

 

 それは異様で、異形の在り方、歩き方。

 残った四本の腕のうち、二本を使ってサンラクの方を向く。

 そして、最後の二本は高く、高く、上段に構えている。

 その両手は、何も持っていない。

 完全に無手の状態では、《神域抜刀》の発動条件も満たせない。

 どうしようもないほど無防備だ。

 隙だらけのはずなのに。

 

 

 なぜか、サンラクは対処できない。

 

 

「秋月流、一の朔月、二の望月」

 

 

 ぽつり、と。

 声がした。

 それは、この男が初めて発した、スキル宣言以外の言葉。

 サンラクにとっては意味が分からないこと。

 されど、【修羅王】イオリ・アキツキにはわかっている。

 

 

 

「壱と弐、足せば即ち参となる」

 

 

 

「それを為したのは我が友、我が仲間」

 

 

 

「此れこそが、秋月流、参の型」

 

 

 

 何かが来る。

 今この場で、サンラク有利なはずの状況で。

 【修羅王】の勝利で、勝負を決められるような何かが。

 だが警戒も、思考も意味はない。

 それ(・・)はすでに、終わっている。

 サンラクの目に映ったのは。

 言葉を発するイオリと。

 

 

 

「――《暁》」

 

 

 既に振り下ろされていた(・・・・・・・・・・・)、一振りの太刀。

 奇妙な刀だった。

 赤い金属、神話級金属でできた刃は尋常ではないが、それ以上に柄が異様に長い。

 まるで、全ての手で振るうことを想定されたかのように。

 【修羅王】イオリ・アキツキ、彼の編み出した最大火力の攻撃が。

 サンラクにめがけて放たれていた。

 

 

 秋月流、参の型にして奥義、《暁》。

 

 

 それは、抜刀術とその後の二の太刀の合わせ技。

 すなわち、抜刀しながら上段からの振り下ろしを成立させるというもの。

 AGI百万に達する振り下ろしは誰も避けられないし、知覚できない。

 彼は、そのスキルをさらに改造していた。

 

 

 魔法、武技いずれの道を選んだものも、最終的に行きつく領域。

 すなわち、空間操作である。

 転移魔法が最もメジャーだが、【衝神】の奥義などのように武術を極めたものもそこに至ることがある。

 

 

 空間拡張という、もっとも空間操作の中でも多くのものが知っている技術がある。

 アイテムボックスにも使われている技術だ。

 空間を歪ませて、鞘とする技術。

 一歩間違えれば自分を中心に空間が裂けて死ぬ絶技だ。

 さらに、この技は、抜いたのちに真価を発揮する。

 空間の裂け目から抜刀することで……抜刀によって空間が裂ける。

 そして、その副次効果として、前方の空間を全て消し飛ばす(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 参の型は、彼の積み上げたすべての集大成。

 抜刀術の朔月()の型、抜刀後の二の太刀を司る望月()の型の融合。

 そして、それ以上にこれは多くの経験を積んで作ったものだ。

 幼少期から、多くの武芸者に襲われ、火の粉を振り払ってきた経験。

 成長したのち、超級職を求める者達にまたも襲われ、それらすべてを返り討ちにした経験。

 海上で、それまでとは勝手の違う水棲モンスターと戦った経験。

 レジェンダリアまでの道中で、一度も見たことないジョブに就いたティアンの野盗やモンスターに襲われた経験。

 そして、何よりもレジェンダリアにおける経験。

 

 

 闘技場で、【杖神】や【超騎兵】たちと戦うことで得られた経験。

 エキシビジョンマッチとして、【妖精女王】と戦った経験。

 ”神殺の六”の一員として、犯罪組織や神話級<UBM>を討伐した経験。

 

 

 

 

 彼は思ったのだ。

 これを、完成させたいと。

 彼の武術は、ひとえに人との関わりの中で生み出されたもの。

 人に疎まれ、襲われ、人と戦い、心を通わせながら作り上げてきたもの。

 

 

 

 だから、彼は居心地のいいレジェンダリアを去ってまで修行を続けたのだ。

 

 

 自身の剣術を完成させないことは、彼にとって人とのつながりを蔑ろにすることと同義だったから。

 

 

 自身の完成した剣術を【海竜王】にぶつけ……敗れた。

 そして、今この瞬間にも彼は《暁》を放つ。

 

 

 

 

『やばすぎるだろ……』

 

 

 サンラクは、後ろにある空間を見て言葉を失う。

 いや、その説明は適切ではない。

 彼の後ろの、消失した空間を見てといったほうが正しいだろう。

 《暁》は、イオリ・アキツキ最強の技にして切り札。

 斬っても殺せない相手を、確実に仕留めるための広域殲滅の技である。

 現にサンラクも、体の四割を消し飛ばされている。

 彼が死んでいないのは、《ラスト・スタンド》があるからだ。

 

 

 

 そして《ラスト・スタンド》で生き延びているのは、彼だけではない。

 【修羅王】も同様だった。

 

 

 逆に言えば、【修羅王】もまた、満身創痍。

 《ラスト・スタンド》が発動せざるを得ないほど追い込まれている。

 それは、サンラクにて足を落とされたから――だけではない。

 それらは直接的な原因ではない。

 

 

 根本の原因は、《暁》の反動、制御不全である。

 

 

 《暁》は本来、空間の鞘を支えとして、六本の腕で上段から振り下ろしながら抜刀する(・・・・・・・・・・・・)技。

 二本の腕では、空間のゆがみを制御しきれず、結果として自身も空間の崩壊に巻き込まれた。

 

 

 

 ほんのコンマ一秒、先に《ラスト・スタンド》の効果がきれたのはサンラクだった。

 だがーー彼は死ななかった。

 HP回復アイテムと――伝説級特典武具【修業帯 プリュース・モーリ】。

 その効果は、HP回復を伴わない肉体の修復。

 これと《ラスト・スタンド》の三つによるコンボで、条件付きの復活がかなう。

 前回は使う前に、【頸部切断】で死んだが、今回は使える。

 

 

 イオリ・アキツキはそれができない。

 回復アイテムを彼はもっていない。

 生前の彼なら持っていただろうが、再現されるのは装備のみなのでどうしようもない。

 またおり悪く回復系の特典武具もない。

 

 

 だから、もう何もしなくても勝てる盤面で。

 

 

 

『まだだあ!』

 

 

 

 それでも――サンラクはここでは終わらない。

 その終わり方は、格好がつかないと思うから。

 全力で、本気で、勝ちに行く。

 そうしなくては、彼にとってゲームをする意味がなくなるから。

 

 

 

 彼が構えるのは、赤色の打刀、【レッド・バースト】。

 一度振るえば、それだけで砕け散る、【神器造】ルナティック謹製の最大火力の兵器。

 それでも、今これを使うことにためらいはない。

 

 

 

 サンラクは《瞬間装着》を発動。

 鞘を打刀に取り付ける。

 

 

 

『――見様見真似(なんちゃって)、《叢雲》!』

 

 

 それは、《瞬間装着》を使うことで、いかなる体制でも抜刀できるようにと開発された技。

 一度見たことで、サンラクにはそれがコピーできる。

 

 

『剣道は二本先取だからなーー勝負あり』

 

 

 紅蓮一閃。

 赤刀は、【修羅王】の首を切り落として、耐久限界を超えて砕け散る。

 

 

「――見事」

 

 

 それは、彼の口から発せられた言葉、ではない。

 ルナティックによって造られた、発声機構付きの兜。

 口下手で、言葉が出てこないイオリ・アキツキを心配した彼が少しでも助けになればいいと考えて作ったもの。

 

 

 ゆえに、今この瞬間も言葉を発することができた。

 無論、そんな仕組みなど、サンラクにはわからない。

 彼の《鑑定眼》では、そこまでの詳細は見えないから。

 何に見事だと言ったのかもわからない。

 手足を奇襲で斬り落としたことか。

 最後の一撃を耐えきったことか。

 最後の最後で首を切り落としたことか。

 あるいは、そのすべてか。

 答えはわからない。

 

 

 わからないまま、【修羅王】は、光の塵になって消えていった。

 次代の【王】を祝福するために。

 

 

 

 けれど。

 確かにわかることもある。

 

 

 

『俺の、完全勝利だ』

 

 

 

 “怪鳥”サンラク。

 【修羅王(キング・オブ・バトル)】に転職成功。

 

 

 To be continued


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