<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□陽務楽郎・前日
「まあ、こんなもんだよな」
このゲームの裏ボスをクリアした、感想がこれである。
高校生の時、一度クリアしたゲームだ。
ゲーム、というのは少しおかしいか。
厳密には、VRの教材だからな。
その裏ボス、龍宮院富岳に挑むのが俺にとっての一時の目標となっていたわけだ。
そういえば、京ティメットも挑んでたらしいけど、クリアできたんかね。
知らんけど。
とにもかくにも、クリアは出来た。
いやまあ、前回同様完全にルール無視の反則技で勝っただけなんだがな。
とはいえ、今日この教材をデスペナルティを喰らっている二十四時間の間にやるのは、あくまで確認のためだ。
明日受ける試練のためには、この確認が欠かせないのだ。
□【猛牛闘士】サンラク
【修羅王】への転職クエスト。
この試練について俺は、一つ疑問があった。
先代の【修羅王】を倒す。
それがクエストの内容。
なるほど、一見当然に見えるかもしれない。
殺しあいと内乱が絶えない修羅の国天地、
難易度としては高いものの、字面だけ見ればまだ納得できる領域だ。
だが、その字面に対してどうにも
昔は、どうだったのだろうかという疑問だ。
少し補足しよう。
初代【修羅王】の時は、どうだったのだろうか、という疑問だ。
初代【修羅王】がクエストに挑む時点では、今まで一人もいなかったはずである。
では、初代の試練とは何か。
おそらく、その代わりに何かしらを撃破する必要があったのだろう。
この閉ざされた空間の中で。
まあそれはいい。
そして、もう一つの疑問が生じた。
それは、俺が戦った【修羅王】は本当に【修羅王】だったのか、という疑問だ。
最初の転職クエスト時点で【修羅王】でなかったのであれば、今回のクエストにおいても、撃破すべき対象は【修羅王】ではなく……それに
例えば。
スペックだけをコピーしたAIとか、な。
そもそも、【修羅王】イオリ・アキツキについては最初からおかしかった。
カシミヤとやりあった時……あいつは初手で居合を放ってきた。
それは、奴にとってそれが最強の型であり……なおかつそれをするデメリットがなかったからだ。
通常、
こいつもカシミヤも、居合を放ってもなお隙を作らないようなバトルスタイルを確立している。
だからこいつも、初手で居合を使ってくるのが最善の行動のはずだ。
だというのに、それをしない。
あえてそれをせずに、《神域抜刀》の恩恵を受けずに戦っている。
そして追い詰められたときになって、初めて抜刀の構えをとる。
これはおかしい。
舐めプが過ぎる。
少なくとも、最善の手ではない。
というか無駄の極みではなかろうか。
無駄無駄無駄あ!とか叫びながら盆栽している親せきを思い出した。
庭一つ全部そのためだけに使っているのはやばいだろ。
それこそ無駄な気がしないでもない。
さて閑話休題。
このリアルなゲームで、それでティアンは生き残れるのか?
恐らく無理だ。
言い方はアレだが、まるでゲームのボスキャラのように目の前のこいつは悠長が過ぎる。
あるいは、それは当然のことなのかもしれない。
だが、この<Infinite Dendrogram>においては別だ。
リアリティを追求しているこの<Infinite Dendrogram>ではモンスターなどもまた生態系の一部。
彼らもそう設定されたからではなく、生存手段として他のモンスターを攻撃している。
普通に負けそうになると逃げたりするので、やはりそこに追いついてとどめを刺せる速度型は神。
耐久型で遠距離攻撃手段がないと、結構狩りの効率悪くなると思われる。
<墓標迷宮>などの神造ダンジョンは例外らしいけどな。
基本的に、モンスター無限にリポップするらしいし。
ああでも<UBM>だけはさすがに例外らしいな。
倒した後、同じ<UBM>は再び出てくることはなかったらしい。
いや……国内に<UBM>潜伏してるの怖すぎない?
まあ、要するにだ。
つまるところ、本気を出す前に仕留めればいい。
俺は、前回の挑戦よりも速い。
アンダーマテリアルの協力の下、《詠唱》付きのバフスキルを掛けられなおかつ、自分自身でのバフもかけている。
闘牛士系統のスキルに、回避成功に応じてステータスを向上させるバフスキルがある。
強化に上限はあるものの、スキルレベルは最大値まで上げているうえに、かなりの時間避け続けたので強化は十分。
AGIに限っては、前回の三倍、三万オーバーにも達する。
必殺スキル抜きにしても俺は速度でこいつを圧倒できている。
そこに必殺スキルや《回遊する蛇神》による戦闘時間比例速度強化によって速度を大幅に引き上げることで…… その速度は、AGIに換算すれば
速度だけなら
だから、こいつもそれに対抗するには、居合の構えをとるしかない。
「ーー《叢雲》」
『もう遅えよ!』
居合が放たれる。
速度こそ俺と大差はないが、俺の目ではとらえられない。
今の俺のAGIは三万
当然、俺には追いきれないし、追いつけない。
俺の限界は、五十万。
速度と機動力に特化したビルドを組み、時間をかけて準備を重ね、
これが今の俺の限界。
上級職のバフも、<上級エンブリオ>にも明確な上限が存在する。
速度を一度逆転されれば、もうこいつに追いつくことは出来ない。
だから、超えられる前に勝負を決める。
<エンブリオ>の触手を纏い、武器を構える。
「ーー秋月流・弐の型・《月影》」
未知の攻撃によって、俺の【救命のブローチ】が砕け散る。
俺を守っていた触手も全て切り落とされている。
さらに言えば、起動していた切り札も崩された。
奴の命は、まだ健在。
俺の全力、全作戦を足してもなお、奴の首には届いていない。
しかし……それで十分。
『……剪定って言葉があってな、余計なもんを取り払って綺麗にするのさ』
奴の腕が二本俺の攻撃で斬り飛ばされ、宙を舞う。
そして。
「ーー」
『これで、お互い四本ずつだ』
既に断たれた《製複人形》の斬撃が決まる。
奴の両足が、ボトリと体から離れて落ちる。
さあ、いよいよ王手だ。
To be continued