食後に眠いと感じるのはなぜなのでしょうか? 昼休みにリフレッシュをして「さあ、午後も頑張ろう!」と思ったのに、いつの間にかボーッとしてパフォーマンスが落ちてしまう…。そんな経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は雨晴クリニック副院長の坪田聡先生に、食後の眠気の原因や対処法についてお話を伺いました。
目次
食後に眠いと感じる理由1:食べ過ぎを抑えるホルモンため
食事を摂ると、胃腸が働いて食べ物を消化・吸収し、脂肪細胞を含む身体の細胞にエネルギーが蓄えられます。「このとき、食べ過ぎによる身体への悪影響を防ぐために、満腹中枢を刺激して脳から食事をやめる指令を送るためのサインとして、脂肪細胞からレプチンというホルモンが分泌されます。このレプチンは覚醒を司るオレキシンの働きを抑制するなどして眠気を誘います」(坪田先生)
食後に眠いと感じる理由2:低血糖のため
食事を摂ったにもかかわらず低血糖になるというのは不思議に思われるかもしれませんが、白米や砂糖などを大量に短時間で摂ったときには血糖値が急上昇します。この血糖値の急上昇を防ぐため、糖を身体に吸収させるためにインスリンが多量に分泌され、一時的に低血糖になる場合があります。
「脳は糖をエネルギーとして大量に消費する臓器であり、低血糖によって脳の活動が鈍り、眠気などの症状がでることがあります。特に糖尿病患者さんに多く起こる症状です」(坪田先生)
食後の強烈な眠気は「隠れ糖尿病」のサイン?
健康な人の場合、食後の血糖値が140mg/dLを大幅に超えることはありません。しかし、「隠れ糖尿病」の人は、空腹時の血糖値は正常なのに、食後の血糖値が基準値の200mg/dLを超えるだけでなく、その後大幅に血糖値が下がります。この大幅な血糖値の低下により、強い眠気に悩まされることがあります。
食後に眠いと感じる理由3:食事とは無関係に眠くなるため
人間の身体には、睡眠と覚醒のリズムを決める“体内時計”という機能があり、一定の周期で眠気を感じますが、そのタイミングがたまたま食後である場合があります。
「体内時計のリズム にはいくつか種類があり、(1)約24時間周期の概日性リズム(サーカディアンリズム)(2)約12時間周期の半概日性リズム(サーカセミディアンリズム)(3)約2時間周期の超日リズムの3つがあり、(2)と(3)のリズムが食事以外で眠気を感じてしまうものです」(坪田先生)
半概日性リズム(サーカセミディアンリズム)
「半概日性リズム」は、約半日(12時間)周期で睡眠と覚醒のリズムをつくる体内リズムのことです。
「半概日性リズムは、『起きている間に疲れていく脳を、適度に小休止させるための身体機能』とも言われており、午前2〜4時とその半日後の午後2〜4時に強い眠気が訪れる特徴があります。昼食後に眠気が訪れやすいのは、この半概日性リズムによって眠気のピークが訪れていることが原因であることが多いといえます」(坪田先生)
超日リズム
半日より短い間隔で眠気をもたらす体内リズムを「超日リズム」と呼びます。
「眠気がくる時間の間隔は何パターンもあるため一概には言えませんが、1時間半〜2時間おきくらいのサイクルが多いといわれています。眠気の強度は弱いものの、半概日リズムの体内リズムと重なることで、より強い眠気に転じることもあります」(坪田先生)
食後に眠いと感じたときにすべきこと
食後の眠気を我慢していると、ボーッとしたりケアレスミスが増えたり、ちょっとしたことでイライラしたりと仕事のパフォーマンスにも影響が出てきます。
食後に眠気を感じたときの対処法は、朝・昼・夕で異なります。朝食後は長めの仮眠を取る、昼食後は15~20分程度の短い睡眠(パワーナップ)をとる、夕食後は眠気を抑えるために軽い運動をして身体をあたためる、というのがおすすめです。以下で時間帯別の対処法を詳しく説明します。
朝食後:仮眠で睡眠不足を補う
朝食後の眠気は、睡眠不足が影響している可能性があります。
「食後は消化吸収にカロリーが使われるので、体が温かくなり、通常は眠気が起こりません。そのような状況で眠気を感じてしまう人は、睡眠量が足りていないことがほとんどです。朝の仮眠は前日の睡眠不足を補う効果があるので、積極的にとるとよいでしょう」(坪田先生)
朝食後の仮眠は長時間でもOK
朝の仮眠は、少し長めの時間を確保することがポイントだと坪田先生は言います。
「朝の睡眠は夜に影響しないので、時間が許すなら朝食後に1〜2時間ほどの長めの仮眠をとって睡眠を補うとよいでしょう。通勤電車で短時間の仮眠をとるのも効果的です」(坪田先生)
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昼食後:パワーナップ(15~20分ほどの昼寝)を行う
坪田先生によると、「昼食後の眠気対策でおすすめしたいのが『パワーナップ』」だと言います。
「パワーナップとは、15〜20分ほどの短時間で行う昼寝のことです。深い眠りにつくことなく休息でき、脳の疲れが回復するほか、“浅い眠り”で目を覚ます仮眠法であるため、目覚めも良いおすすめの方法です。ただし、パワーナップで効果を得るためには、ただ眠るだけではいけません。オフィスで仮眠をとる場合は、最低でも次の3つのポイントを守るようにしましょう」(坪田先生)
睡眠時間は20分以内にする
パワーナップは、睡眠時間を「軽い睡眠」の範囲におさめましょう。
「30分以上寝ると深い眠りに入ってしまうため、目覚めても脳が眠っている『睡眠慣性』が働きやすくなります。それにより頭や身体が重くなるという症状が出やすくなるので、仮眠は15〜20分程度にしましょう」(坪田先生)
仮眠は午後4時までにとる
半概日性リズムによる眠気のピークは午前2~4時と午後2〜4時です。日中の眠気対策としては、午後4時よりも前に仮眠をとることで、脳に溜まった疲労物質(睡眠物質)が解消されて目覚めた後も脳がすっきりします。
「眠気が強い午後2〜4時に仮眠をとるのがベストですが、仕事をしていたり学校へ行っていたりするとこの時間に休憩できないという人も多いでしょう。そういう場合は、午後2時より前に仮眠してもOK。お昼の休憩中に睡眠を先取りしましょう。ただし、夜の睡眠に影響がでないように午後4時までには起きることが重要です」(坪田先生)
横にならない
昼寝の効果を存分に発揮するためには、「眠る姿勢」も重要です。
「寝過ぎてしまう恐れがあるので、横になるのはNGです。昼寝は、デスクに突っ伏すスタイルか、座ったままなどでとるようにしましょう。また“安定した姿勢”をキープできる寝姿勢であることも重要です。姿勢を崩したまま仮眠に入ると、起きたときに転んだり、身体の節々を痛めたりしてしまう可能性があるので注意してください。服装面では、腕時計を外す、靴を脱ぐ、ネクタイやベルトをゆるめるなど、身体を締め付けているアイテムを外すと、昼寝のパフォーマンスが上がりますよ」(坪田先生)
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夕食後:できれば寝ない
夕食をとった後は、できれば寝ない方がよいと坪田先生は言います。
「夕食直後は体温が下がりにくく、睡眠の質が悪くなりやすい時間帯なので、寝ないようにしたいところです。ただ、どうしても眠い場合は無理せず寝てしまってもよいでしょう。夜中に目が覚めてしまったときは、家事をするなど少し身体を動かしてからまた寝る、という“分割睡眠”をとることをおすすめします」(坪田先生)
体温を上げて眠気を解消する
坪田先生によれば、夕食後は意図的に体温を上げることで、眠気を解消することができといいます。
「体温が下がると眠気が強くなるので、どうしても寝てはいけないときは体温を上げることで眠気をとることができます。短時間でも眠気を飛ばしたいという場合は、食後の満腹感が落ち着いたころに、お風呂に入ったり、ストレッチなどで体を動かしたりするとよいでしょう。体温が上がり、眠気を解消することができます。また唐辛子など辛いものは体温を上げるので、そういった食べ物をとるというのも一つの手です」(坪田先生)
食後に眠くならないためにすべきこと
悪習慣によって襲ってくる食後の眠気は、食生活と生活習慣の改善によって予防することができます。眠気の原因を断ち、覚醒を司るアミノ酸である「セロトニン」をしっかり分泌させて、睡魔を退治しましょう。
食事内容と食べる順番を変える
食生活の改善は、次のポイントを意識して内容と順番を変えてみましょう。
炭水化物を摂りすぎない
米やパン、麺などの炭水化物には糖質が多く含まれており、糖質を過剰に摂取すると、インスリンの大量分泌による一時的な低血糖状態を招き、食後に強い眠気が生じる可能性があります。
「食後の眠気は、炭水化物の摂取量と食べる早さをセーブすることで予防することができます。仕事の合間のランチは時間がないからと、菓子パン、うどんなどの麺類、丼など炭水化物中心の単品メニューを選んで急いで食べがちですが、それは避けましょう。菓子パンを野菜入りのサンドイッチに、うどんには玉子や海藻をトッピング、丼にはみそ汁やサラダをプラスするなど、なるべく炭水化物だけにならないような工夫をし、ゆっくり食べてみましょう」(坪田先生)
野菜を最初に食べる
食事の順番を変えることでも、食後の眠気を予防することができます。
「ポイントは食物繊維を多く含む“野菜”を最初に食べる“ベジファースト”です。食物繊維は、糖質の吸収を抑えることができるため、血糖値の急激な上昇を抑えることができるといわれています。食物繊維には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維がありますが、ベジファーストで積極的に取り入れたいのは水溶性食物繊維。アボカド、オクラ、きのこ類、ごぼう、いんげん豆、モロヘイヤなどなどの野菜、果物、海藻類やこんにゃくなどに多く含まれているので、積極的に摂取してみましょう。ちなみに、食物繊維は加熱しても壊れない栄養素なので、生野菜でも温野菜でもOKです。しっかり噛んでゆっくりと食べることで血糖値の上昇も緩やかになりますよ」(坪田先生)
朝食に大豆製品や乳製品を入れてみる
覚醒に働きかけるセロトニンをつくるために、その原料となるトリプトファンを取り入れましょう。
「トリプトファンというアミノ酸は、セロトニンという物質の原料になります。炭水化物を中心に食事を摂っている人は、セロトニンが不足しないようにトリプトファンが豊富に含まれる大豆製品や乳製品を取り入れましょう。また、セロトニンは、夜に分泌されて眠りを誘うホルモンであるメラトニンの原料にもなるため、ぐっすり眠れる効果もあります」(坪田先生)
日光を浴びる
眠気のコントロールで大切なのは「光(ブルーライト)」です。眠気を予防するには、先に説明した覚醒に働きかけるセロトニンを増やすことが効果的です。
「セロトニンは日光(ブルーライト)を浴びることで分泌されます。また、活動時に優位になる交感神経を活発にし、眠くならないようにするため、食後に日光の下を散歩することは効果的です」(坪田先生)
Photo: Getty imagaes
<参照>
『パワーナップ仮眠法』坪田聡(フォレスト出版)
『朝5時起きが習慣になる5時間快眠法』坪田聡(ダイヤモンド社)