<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
三十万字突破してました。
これからも頑張ります。
□■<修羅の谷底>
馬車で、林道を走っている一組のパーティがいる。
金髪、金色の瞳の、忍者服をまとった少女、安芸紅音。
眼球の大量についたヘルメットを付けた青年、トーサツ。
ピエロメイクを施し、二丁拳銃を所持した鎧武者、ダブルフェイス。
狐耳を生やし、黒刀を装備した女性、京極。
彼らは、<修羅の谷底>周辺での調査と、そこで目撃情報のあった【生命王】の討伐を目的として動いている。
どうやって、本当にいるかもわからないものを探るのか。
その答えは、トーサツの<エンブリオ>、【百目機 アルゴス】による索敵能力にある。
【高位瞳術師】のスキルのみならず、《看破》や《鑑定眼》などといった、汎用スキルであっても目を使うスキルであれば強化される。
それによって、索敵能力に限れば、彼は超級職に片手をかけるほどになっている。
それゆえに。
「二時方向八メートルに一体、ダブルフェイスお願い」
「りょうかあい」
ダブルフェイスが、<エンブリオ>による銃撃を一発。
複数の動物を混ぜ合わせたような、子猫サイズのモンスターに被弾。
光の塵になる。
その正体は、超級職の作った潜伏と情報収集に特化したモンスターだ。
純竜クラスモンスターの索敵をかいくぐることもできる索敵能力があるが……「見たいものを見る」ことを目的としている彼の前には通用しなかった。
「だいたい、目標の位置がわかってきた」
「楽しみだねえ」
「はっはっはあ」
「行きましょう!」
一行が、彼女のもとにたどり着くまであと三十分。
――何事もなければ。
□■【アンダーワールド】内部
「あー、見つかっちゃったかあ」
深く暗い、そして狭い自らの<エンブリオ>の内部で、アンダーマテリアルは、嘆息する。
受信した情報から、監視カメラ代わりに仕掛けたキメラモンスターの存在が看破され、なおかつ自分の位置がおおよそ特定されていることを察したからだ。
追われる身でもある彼女は、あちこちに索敵用のキメラを配置する。
戦闘能力は皆無な代わりに、索敵と隠蔽、そして情報を送信するスキルを持っている。
上級職の探知スキル程度ではバレないはずだが……<エンブリオ>が絡むと話が変わってくる。
(多分、あの眼球すべてに【瞳術師】のスキルが乗ってる感じだろうな。スキルの効力が重複してるから、私の隠蔽が通用しない)
これはまずいことになっている。
本来であれば、彼女を守るための索敵用キメラ。
しかし、今はむしろ索敵どころか、モンスターの配置でアンダーマテリアル自身の位置が割れ始めている。
彼女を円の中心としておいた索敵モンスターは、結局中心を知らせるヒントになりえる。
もとより、見つかることなど想定していない隠蔽にリソースの大半を割いたモンスター。
移動してアンダーマテリアル自身の特定を妨げることも、ましてや彼女らの攻撃を耐えることもできない。
「面倒だねえ……」
アンダーマテリアルにとって、指名手配の自分を追ってくる、<マスター>やティアンは邪魔者でしかない。
天地のティアンは練磨された戦闘技術によって、<マスター>はオンリーワンの<エンブリオ>によって、自分の命に届きうる。
ましてや、それが“無闇”の安芸紅音となればなおさらだ。
彼女のスタイルは、<エンブリオ>による個人生存型。
どれほど攻撃を重ねても、止まらない不死身の準<超級>。
彼女は広域殲滅型の<超級>と交戦してもなお生き残っていたとか、幾度も<UBM>に遭遇し、一度も負けたことがないとかいう逸話を持っている。
生存力では、アンダーマテリアルを上回る。
加えて、彼女のメインジョブを考えれば、戦闘能力も決して低くはない。
さらにいえば、彼女の取り巻き三人も面倒な相手。
そこまで考えると……多くのキメラをサンラクのためにささげた今の彼女では太刀打ちできない。
《進撃の守護者》も無意味。
あれは何度殺しても立ち上がる怪物を殺せるような代物では断じてない。
あの伝説級のゴーレムを動かせるのは、
そしてそもそもの戦闘を避けるための潜伏も、現時点では難しい。
アンダーワールドのゲートは、一度マーキングを施して開けば、閉じるまでは空きっぱなしである。
魔術などによる隠蔽は可能であり、強制的にゲート周辺の生物を引きずり込む《
なお、件のゲートはサンラクをさらった直後にアンダーマテリアルの意思で解除されているので、どうしようもない。
しかしそれにしても、今はできない。
それをすれば、安全圏を失うかあるいはサンラクと合流できなくなる。
では、このまま甘んじて死ぬべきか。
仮に倒されても、彼女は監獄には入らない。
指名手配されているのは天地のみであり、なおかつ天地でもマーキングが消えない限り再び戻ることが可能となっている。
マーキングする際には、彼女自身が出向いてマーキングする必要こそあるものの、マーキングを一度してしまえば解除するかマーキングした地点が完全に破壊されるまでマーキングは消えない。
セーブポイントと転移ゲートという能力特性に特化し、キャッスル系列には珍しく大きささえも捨てきったアンダーワールドの強みである。
だが、彼女の心情合理とは異なる。
デスペナルティは、二十四時間のログイン制限。
すなわちーー二十四時間もリアルにいなくてはならない。
それは嫌だ。
絶対に嫌だ。
許容できない、許せない。
リアルを厭うからこそ、彼女はこの世界にいるのだから。
そこまで考えた時、彼女はふと思った。
今なのではないか?
もし、やるのであれば、今この時しかないのではないか?
躊躇いがないではない。
サンラクが今回、【修羅王】の転職クエストに失敗する可能性もある。
一秒後には、彼はデスペナルティになっているかもしれない。
そうすれば、今まで保存してきた意味がなくなる。
だが、うまくいけば。
「信じてるよ、サンラクくうん。ーー《喚起》」
アンダーマテリアルは、キメラモンスターを召喚する。
怪物を解き放つために。
◇
「さてと、どうにかできるかな。紅音、どうしたあ?」
「あの、あれは、何でしょう?」
ふと、紅音が見つけたもの。
言われて、他の三人もそれを見つけて。
「「「……何あれ?」」」
そうとしか、言えなかった。
ソレは、何とも形容しがたい見た目をしていた。
百足の胴体、龍の頭部。
胴体にも、龍を思わせる鱗が生えているので、一見ドラゴンにも見えるだろう。
しかして、そのいずれでもなかった。
その装甲は、どう見ても生物のそれではない。
塗装されたとしか思えない不自然で、鋼板を連想させる金色の体色。
極めつけは、竜頭の眼球も。
赤く瞬く水晶で構成されたそれは、作り物でしかありえない。
機械然とした、あるいは絡繰り仕掛けの怪物。
紅音たちは、知らない。
それがどういうものであるかを。
アンダーマテリアルのキメラモンスターによって、格納していた遺跡を
彼女が、サンラクにぶつけようと画策していたモノ。
それこそは、先々期文明に造られた対化身用兵器にして。
神話級の<UBM>。
ーーその名を、【鏖金大殲 メテオストリーム】。
厄災が、たった今解き放たれた。
To be continued
・遺跡
ベビードールとかいう門番がいたらしい。