<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□征都周辺・狩場
『…………?』
狼桜は、《モデル・チェンジ》というスキルに聞き覚えがなかった。
そもそも、彼女はアンダーマテリアルのビルドをまるで理解していない。
メインジョブの【生命王】をはじめ、彼女のジョブは基本的には西方のジョブ。
環境上、西方のビルドと戦う機会がまるでない狼桜にとって、彼女の使ってくるスキルはすべてが未知。
しいて言うなら、「おそらく魔法系のスキルだろう」程度の推測しかできない。
そんなスキルの発動直後、狼桜は、妙な違和感を覚えた。
ダメージが徹ったわけではない。
実のところ、彼女は全くダメージを受けていない。
それどころか、ステータスさえも変化していない。
いや、それは少し違う。
ステータスが変化した
『なんだい、これは?』
狼桜の
先ほどの女と同じ、赤い髪、魔法職のローブ、そして銀色の杖。
自分の、筋肉質な見た目とは明らかに違う。
ましてや、今の彼女は必殺スキルで人ならざる姿へと変貌している。
断じて、そんな女性らしい姿ではない。
咄嗟に自分の体に触れたところ、形までは変わっていない。
槍も、外骨格もそのまま。
あくまで見た目だけの変化。
どういうことなのかと思った瞬間。
『……っ!』
攻撃を喰らった。
それは、アンダーマテリアルによるものでも、キメラによるものでもない。
攻撃を加えたもの、それは
体高五メテル程度の大きさで、白銀一色の体。
そして、両腕にはブレードが付いている。
『おおお!』
混乱したまま、されど彼女は一級の戦士。
狼桜は、右腕の槍を眼前のゴーレムにたたきつける。
しかし、ゴーレムは、ブレードをたたきつけて防ぐ。
『……ほう?』
今の一合で、彼女が理解できたのは三つ。
一つは、相手の速度。
超音速機動で動いている狼桜に対応できる。
彼女と同等か、あるいは少し遅い程度。
二つは、相手の攻撃力。
彼女の攻撃を、ゴーレムは攻撃をぶつけることで相殺。
ゴーレムの攻撃力としての発揮値が、彼女の数万に達する攻撃力に匹敵するということ。
そして三つ目、武装の原理。
彼女の槍が熱を帯びている。
つまり、このブレードは炎熱による攻撃を行うためのもの。
赤熱していないあたり、熱量への耐性が相当高いらしいが、今の交錯で半ば割れている。
物理への耐性はそれほどでもない。
結論――今の彼女なら勝てる。
そう考えた。
『――《武装変更》』
『?』
ゴーレムから、音声が流れるまでは。
スキル宣言の音声と同時、ゴーレムの両腕が変形する。
熱を帯びたブレードから、回転する機械式の、全長5メテルほどのドリルに。
振り下ろしてくるドリルに対して、彼女は合わせようとしてーーいやな予感がして飛びのいた。
わずかにかすめたガシャドクロの外骨格をたやすく貫いた。
(物理防御無視!そういう手合いかい)
【機人変刃 ベビードール】という名の伝説級<UBM>。
それはもともと、とある超級職によって造られたゴーレムだった。
それはもともと天地にいた<UBM>であり、アンダーマテリアルによって討伐された。
その特性は、二つ。
一つは、武装変形。
腕の部分を自在に変形させて多種多様な武装を作り出す。
物理防御を無効化する貫通特化のドリル、炎熱で敵を断ち切るブレード、遠距離攻撃用の大砲など様々だ。
複数体の化身に対抗するための手段として、汎用性を求めた。
もう一つは、<エンブリオ>の探知。
なぜならこの<UBM>は元々化身ーー<無限エンブリオ>を倒すために先々期文明時代に造られたゴーレム。
化身とそうでない生物を見分け、化身だけを殺し続ける兵器。
当然、そういう機能を有している。
いろいろあった末、そのゴーレムは稼働せず、のちに<UBM>に認定され、たまたま近くを通ったアンダーマテリアルに討伐された。(余談だが、この戦闘で数億リルほど飛んでしまい、彼女は金策に奔走する羽目になり、脚が付いて指名手配された)
さて、《進撃の守護者》は、その伝説級<UBM>【機人変刃】のスペックを完全に再現した召喚スキルである。
それもそのはず。
この《進撃の守護者》には致命的な欠点がある。
この召喚された【機人変刃】は、コントロールができない。
通常の召喚モンスターとは異なり、一切の操作を受け付けない。
そして、所有者であるはずの
それ以外の行動は一切取らない。
あまりにもどうしようもないデメリットだ。
《モデル・チェンジ》とは、幻術師系統などが使う魔法スキルである。
その効果は、見た目を入れ替える,ただそれだけ。
だが、それが《進撃の守護者》との間にシナジーを生む。
【機人変刃】は元々、<エンブリオ>を探知する力を持っている。
逆に言えば、それ以外の探知能力はそれほど優れていない。
光学センサーがあるだけだ。
だから、アンダーマテリアルの見た目をして、<
【ベビードール】は、それをアンダーマテリアルであると認定し。
――殺しにかかる。
『くおおおおおおおお!』
『《武装変更》』
”骨喰”狼桜と【機人変刃】との戦いは互角だった。
それは至極当然だ。
基本的に、準<超級>と伝説級<UBM>は互角。
むしろ、アンダーマテリアルの援護射撃があるにもかかわらずいまだに互角を保てている狼桜が異常なのである。
対カシミヤ用に耐久特化上位純竜の髑髏を用意し、必殺スキルを切った。
速度特化の髑髏を用いてもなお、カシミヤには追い付けないことは、今までの経験則からわかっている。
それならば、耐久と火力に特化した髑髏を使って衝撃波による
彼女には、味方の状況を完全に把握するすべはない。
彼女は単独での奇襲を役割としているため通信機の類を使わない。
しかし、先ほどまで暴れていた気味の悪いモンスターによって多くのメンバーが討たれたのは察していた。
だからこそ、狼桜はカシミヤではなく、モンスターが出たと思われる場所を先に襲撃したのだ。
ちなみに……問題のモンスター二体は、戦闘開始早々にHPの大半を失ってしてジュエルに帰還している。
有利なはずのアンダーマテリアル、その顔色は良くない。
それは眼前の光景が理由。
求めるものに向かって、全力であがく
それを客観的に見るのはーー彼女にとってはどうにも不快だった。
ゆえに、彼女はここでさらに詰めていく。
持っていた杖を足元に置き、両手を広げ、両手の内部の口も広げる。
そして、顔にある口を開き、《詠唱》を始める。
「「「我は、求めるもの」」」
「「「それは、遠くにありてされど近く」」」
「「「望んで、欲して、されど何処にあるのかもわからず」」」
「「「ああ、それでも求めずには居られない」」」
《詠唱》は言葉を発した時間によるものでありその内容はまるで問われない。
ゆえに、彼女の言葉はただ彼女の赤心を現しただけのもの。
「「「何処にあるのかわからない、されどその何処かが此処であって欲しい。此処であってはくれまいか」」」
「どおおおおおらああああああ!」
一か八かと狼桜の投げた、アイテムボックスから出した予備の槍。
それを彼女は、すんでのところで体をひねって回避する。
それはわずかに服を割き。
腹部にある、4つ目の口が露出する。
そして、最後の口が宣言する。
それこそは、彼女だけが使える、彼女だけの魔法スキル、否、魔法体系。
《
「《ピアッシング・オーバーヒート》」
従来の魔法を、本来の《詠唱》とは比べ物にならないほどの自由度で改ざんする魔法。
加えて、彼女のMPは超級職のそれに匹敵する。
「「「「輪姦モノみたいだねえ」」」」
アンダーマテリアルの放った
「さて、あちらはどうなってるかな?」
光の塵になって消えたことを確認した後、アンダーマテリアルは遠くを見る。
そこには、二人の生命反応。
【生命王】のスキル、《生命掌握》で、おおよその反応が感じ取れる。
そして、反応が一人になった。
To be continued