<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□【猛牛闘士】サンラク
なんやかんやで一日ぶりにログイン。
さーて、どうしたもんかね。
とりあえず、普通に色々調べたわけなんだけど、一日かけて色々天地に関して情報を集めた。
俺がアンダーマテリアルに飛ばされた場所についても調べたしな。
正直、ログインするのは気が進まなかった。
別に【修羅王】に恐れをなしたわけではない。
むしろ、戦いたい、勝ちたいという思いが強い。
有り体に言えば先日の俺は、試練を舐めていた。
無論本気ではあった。
一度使えば砕け散る【レッド・バースト】や必殺スキルまで使った。
手を抜いていたわけでは、決してない。
しかし、全力ではなかった。
ティアンならともかく、〈マスター〉である俺ならばどうにかなるクエストだと判断していた。
もっと言えば、俺はイオリ・アキツキを通過点としか見ていなかった。
一握りしか就けないユニークジョブである超級職。
単なるそれを手に入れる為の壁だと。
その結果がアレだ。
だから、次やる時は全力でやる。
超級職に至るためではなく、勝つために。
俺に出せる全ての力を、イオリ・アキツキを倒す為に使い切る。
そんな俺のモチベーションを下げるのは、俺が今いる場所と、その
関わりたくない変態がそばにいるというのは、どうにも落ち着かない。
そう、デスぺナが明けても俺は、黒くて小さい
厳密には、こいつの必殺スキルである、《去る者はおらず、来るものを拒まず《アンダーワールド》》の効果らしい。
セーブポイントが能力特性の
必殺スキルの効果は引きずり込んだ対象の
引き込んだ対象が今までのセーブポイントをどこに登録していようと関係なく、アンダーワールドをセーブポイントにする。
対象となったプレイヤーは<エンブリオ>と接触しているのでログアウトできず、なおかつ<自害>しても、アンダーマテリアルをデスぺナしても、このスキルからは絶対に逃れられない。
さらには、アンダーマテリアルがスキルを解除しない限り、セーブポイントは絶対に変更できない。
なので、転職クエストを受ける際に、隙をついて脱走……という手も使えない。
一度入ったが最後、どうあがいても離れられない最低最悪の檻。
冥界をモチーフにしているだけのことはあるというべきか。
別にいいけど、これ<マスター>以外に何の意味もないんだよな。
NPCやモンスターはリスポーンしない。
まあ、カッツォみたいに対人戦が好きな奴らが対<マスター>となるスキルを獲得するのはよくあることらしいが。
<エンブリオ>の性能も見通せるのやばいわ。
多分、こいつがNPCやモンスターを生き物として認識していないんだろうな。だから、プレイヤーを閉じ込めるなんて能力になる。
俺も似たようなものだと思うが。
だとしても、何でプレイヤーを閉鎖空間に閉じ込めるなんて<エンブリオ>になるのか。
こいつの内面はわからないしどうでもいいが、碌な性格してないことだけはわかる。
そんなイイ性格をした変態は、くるり、と満面の笑みでこちらを向く。
そして。
「そうろ」
『よし死ね』
「あひいん!」
とりあえず、下ネタへの制裁として、今日一発目の顔面パンチ。
早漏じゃねえんだわ。
克服したんだわ。
大丈夫だ、スキルの補正抜きの俺のパンチじゃこいつのHPは削り切れない。
というか、ENDもそれなりにあるせいでほとんどダメージが入らない。
何でか知らんが、こいつHP以外もやたらステータス高いんだよな。
《看破》によれば、ちょっとした因縁のある【生命王】という超級職に就いているらしい。
なんとなく、魔法職についているイメージがめちゃくちゃあったからそれ以外のジョブに就いているのはちょっと意外だった。
【賢者】とかについてそうなもんだが……そういえば賢者系統超級職は王国のティアンが持っているんだっけ。
フィガロやシュウがそんなこと言ってた気もする。
いずれにせよ正直どういうギミックでこいつの肉体ステータスが上がっているのか全く分からない。
「どうしたの、私の顔を見て。今夜のオカズのことでも考えてたのかな?」
『多分カレーじゃないかな』
冷蔵庫の中身的に多分そうだ。
今日は玲の当番だから正確なことはわからんけど。
あー、でも玲は結構凝るからな。
冷蔵庫の中身では決まらないか。
正直家事は玲の方が完全上位互換だからな。
見ただけで魚の捌き方体得した時はリアクションに困った。
できる方に任せると全部玲の仕事になるので、非効率と知りつつも俺が半分担当しているのだ。
なるほど、これが社会か。
「それでえ、負けちゃったけどどうするんだい?二回戦する?一発抜く?」
『まあ、もちろん挑みはするんだけど、その前にちょっとトレーニングだな』
「トレーニングなら、前みたいに俺の
判定は、ギリギリ、ギリギリセーフ。
いや残念そうな顔してんじゃねえよお前な。
グレーゾーンな部分にまで反応してられんのよ。
MPやSPも無尽蔵じゃないし。
あんまり殴りすぎるとデスぺナになっていろいろ面倒だし。
こいつがいないと、アンダーワールドの出口を開けないんだよな。
それはともかく、だ。
言い方と人間性の最低さはさておき、こいつの提案は、まあわかるのだ。
【生命王】は錬金術師から派生したジョブであり、その中でもモンスター製造に特化したジョブらしい。
モンスター製造に特化した超級職が造るモンスター、決してバカにならない。
普段生産系超級職のお世話になりっぱなしだから、超級職の偉大さは身に染みている。
キメラとかホムンクラスとかいろいろ作っており、それを売ったりして生計を立てているんだとか。
戦闘特化のものは超級職と同等かそれ以上。
それは練習台としては悪くない。
ーー悪くはないが、ぶっちゃけ多分、その程度じゃ足りない。
あれは、超級職だと思わない方がいい。
今まで出会った超級職などのティアン、<UBM>をはじめとするモンスター。
それらすべてを天秤の片方においても、釣り合うことはないだろう。
それほどまでに、格が違う。
<マスター>を天秤の乗せれば、結果が違うんだろうが。
それこそ、正面から勝てるのは音に聞く<超級>くらいではないだろうか。
それこそ、地形変えるとかザラらしいからね。
シュウとかフィガロが言ってた。
どんだけだよ。
とりあえず、やれることを全部やらなければならない。
そのために、やるべきこととは。
『“断頭台”【抜刀神】カシミヤと戦いに行く』
「うん?」
あの技、《三日月の舞》は一度見ただけでは対応できない。
何度か見る必要がある。
音速の先、超音速の先のさらに先。
AGI数十万オーバーの領域。
その世界に対抗するには、二つの手順がある。
一つ、俺がその領域に至ること。
二つ、俺がその速度に慣れること。
それを鍛えようと思ったら、本人に挑むか、【抜刀神】に挑むほかない。
「つまるところ、私は君の逢瀬の邪魔が入らないようにすればいいんだよね?」
『そうだな』
「浮気を許す恋人感がすごいねえひおん!」
ハイ、首筋に一発。
おい、くねくねすんな。
ええい、頬を染めるな!
顔色変わって、くねくね蠢くって化け物の絵面なんだよな。
こいつを雑に使うことには、正直一切心が痛まない。
何しろそもそもここにいること自体元はと言えば、完全にこいつの都合だし。
脱出できない空間に引きずり込んでくるとか、クソゲーのバグなんだよ。
もはやクソゲーだと仕様みたいなとこあるけど。
中ボス倒した後も閉じ込められて、そこから先に進めないとかな。
『さっさと行くぞ』
「はいはーい」
「ああ、ちなみに焦る必要はないよ。誰も気づかないように証拠は隠滅してるし、試練に挑もうとするやつは全部殺すからねえ」
とかアンダーマテリアルは言っていたが、どこまであてになるかは未知数だ。
少なくとも、ぼろを出して
To be continued