<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
大変助かります。
□陽務楽郎
いや、やられた。
しまった。
本当に最悪だ。
あれは、何だ?
まるで意味が分からない。
バグかな?
超級職は、同系統でなければ使えないという縛りがある。
バグではなく仕様、というのなら可能性としてはいくつかある。
一つは、コピー。
誰かしらの能力をコピーして使う。
ラーニング系統の<エンブリオ>に心当たりはある。
奴がそれであっても何ら不思議はない。
二つ目は、サブに【抜刀神】が置かれている可能性。
これがシンプルで、なおかつ一番いやな可能性だ。
サブジョブの奥義も使えるのは、そういうスキルなのだとしたら。
あり得る。
キング・オブ・バトルなんて言われている以上、サブに置いた戦闘系のジョブスキルは全部使える、そんな仕様があってもまるでおかしくない。
<Infinite Dendrogram>は世界に寄り過ぎたゲームではあるが、逆に言えば、世界としては破綻がない。
いずれにしても、手段は問題ではない。
「百万か……」
奴のAGIはせいぜいで一万程度。
俺のほうが速いが、抜刀モーション時はその法則が覆る。
加えて、一太刀しのげば勝てるという話でもない。
奴の腕は、六本、三組ある。
一組で抜刀、もう一組で納刀、最後の一組は予備。
それが奴のスタイルであり、《三日月の舞》とやらの正体。
奴にしかできない、永遠に途切れぬ連続抜刀。
《剣速徹し》と奴のSTRを考慮すれば、防御も不可能。
道理で一度も負けないわけだ。
【杖神】もロウファンも、勝負にすらなっていなかったことだろう。
むしろ
噂の神話級や<イレギュラー>辺りにでも喧嘩売ったんか?
では、俺はこいつに勝てるのだろうか。
圧倒的理不尽、答えは決まっている。分かり切っている。
「ーー勝つさ」
これがもし、異世界であったなら。
俺は勝てないだろう。
実際もう一回負けてるし。
だが、これはゲームだ。
どれだけ理不尽であろうと、バランス調整をミスっていようと、それこそバグがあったとしても。
俺の中の熱が尽きない限り、俺には勝つ可能性がある。
だから後は、その可能性に追いつくだけ。
そのためには、まず。
俺のやるべきことは。
……メールします。
メールなんて高校以来だな。
いや、待ってほしい。
どうしてこんなことをするのか。
ちゃんと説明する。
俺も含めて普通はSNSでやりとりをするのが、ネット上の友人に対しては普通だと思う。
それこそ、メールでやり取りをするなんてのは高校時代の俺くらいのものではないだろうか。
しかし、今回は事情が異なる。
相手は友人ではない、下ネタ女だ。
この変態にSNSのIDを教えるのは、いろんな意味で危険すぎる。
何をしてくるか予想がつかない。
最悪……俺のアカウントが下ネタで汚染されてしまうだろう。
脳みそだけでも汚染がひどいのに、心の外にまで汚染をまき散らすわけにはいかない。
汚染物質は厳重に保管しなければならないのだ。
ミーム汚染も人に見せてはいけないのである。
だからこいつと連絡を取るためだけに、わざわざ捨て垢のメールアドレスを作ったのだ。
そんなに警戒せざるを得ない相手ならば、そもそも連絡先を教えるなという話なのだが、どうにもこの<Infinite Dendrogram>ではチャット機能が存在しない。
そのためこうやってメールなどでの連絡が必須なのだ。
それくらい実装してくれてもいいと思うんだけどな。一応手紙を出すことは出来るらしいが、それだと意味がないんだよな。
ちなみにそんな捨てメアドをデンドロ内部で受け取った本人は「それって都合のいい女、セフレってことお?」、「つまりこのメアド、私のためだけに作ってくれたわけか、愛人用みたいだねえ?」などと散々にほざいていた。
HP三割で許した。
オレ、ガマンデキル。
オレ、ジヒブカイ。
オレ、ヒトノココロアル。
閑話休題。
『件名:デスぺナった。
転職クエストにて先代【修羅王】と交戦。デスペナルティになった。
とりあえず丸一日ログインできないので連絡しておく。』
『件名:Re:もうイッちゃった。
イクの早すぎるよお。まあ了解したよ。
やっぱりお姉さんが手取り足取りナニ取りで教えてあげないとだめだよねえ。
とりあえず、また
件名が絶妙に腹立つせいで、本文の下ネタはそんなに腹が立たないのバグかよ。
いやこれあれじゃないか?詐欺のテクニック。
確か、えーと、ドア・イントゥ・ザ・シャドウテクニックだっけ?
なんか違うというか、混ざった気がしないでもない。
まあなんでもいいや。
なんにせよ、こういう悪意ある件名はやめていただきたい。
これだと俺が下ネタ言ったみたいになるからやめろ。
次あったらしばく。
二十四時間後が楽しみだなあ。
後、一応こっちでも言っとくか。
【旅狼】
サンラク:デスぺナったわ
サイガ‐0:お疲れさまです
サンラク:ありがとう、レイ
鉛筆騎士王:確か、超級職への転職クエストだったっけ?
サンラク:そう
オイカッツォ:どんな感じなの?
サンラク:先代【修羅王】とのタイマン
サンラク:倒すか、死ぬか
オイカッツォ:どんな性能してるの?
サンラク:AGIとSTRが五桁
京極:うわきっつ
サンラク:後、他の超級職のスキルも使えるっぽい
サンラク:【抜刀神】の奥義使ってきた
オイカッツォ:ラーニングかな?
京極:【抜刀神】のスキルって確かさあ、AGI百倍
サンラク:うん
サンラク:なんも見えねえ
秋津茜:わあ
鉛筆騎士王:速度特化ビルドかつ、君の技量でも対処できないのクソゲー過ぎない?
サイガ‐0:ほかの超級職に就いているのが前提なのかもしれませんね
サンラク:あー
【サイガ‐0】
サイガ‐0:ところで、デスぺナしたということは
サイガ‐0:今日は一日暇ということでしょうか
サンラク:あ、うん
サイガ‐0:すぐに家に戻ります
【旅狼】
サンラク:わかった、ご飯何か作ろうか?
オイカッツォ:え?
鉛筆騎士王:お?
サンラク:あ
サンラク:戦略的撤退!
鉛筆騎士王:囲め!
撤退撤退!
ええい!通知音がうるさい!
とりあえず、【修羅王】のことを考える。
そもそも他の超級職に就くことが前提ではあるのかもしれない。
あの時は何とも思わなかったが、そもそもタイマンで超級職に勝たなくてはならないという条件がそもそもおかしい。
俺達プレイヤー、<マスター>はいいだろう。
<エンブリオ>のスキルや補正があるからステータスの差がそこまで脅威にならない。
何より、プレイヤーは不死身だ。
相打ちになったとしても、一応【修羅王】への条件は達成できる。
だが、ティアンはどうか。
<エンブリオ>もなければ、リスポーンもしない。
超級職でもなければ、超級職に対してどうすればいいというのだろうか。
そう考えると、設定的に超級職の取得が前提と考えた方が無理がない。
まあ、それについては考えても仕方ない。
俺はプレイヤーで、<マスター>なのだから。
「さて、塩焼きでもつくるか」
その日は、デンドロ以外の雑事にいそしみ、玲と一緒に課題をやったりなどしました、丸。
リアルを置き去りにしてゲームをすることは出来ない。
大学があり、仕事があり、家族がある。
ゲームが現実逃避できる素晴らしいツールではあっても、現実と自分を切り離してくれるわけではない。
一時的に現実を忘れられる、打ち込めるものがゲームだと思っている。
それができたとしても……俺はたぶんそれを選ばない。
異世界のようなゲームを遊ぶのはいい。
けれども、異世界に行きたいとは思わない。
それは、家族がいるからだったり、親せきがいるからだったり、友人がいるからだったり、悪友がいるからだったりーー恋人がいるからだったりする。
何のことはない。
俺は、
だからもし、現実が嫌いで、避難の手段としてゲームをしているのだとしたら、それは楽しいのだろうか。
例えば、異空間を作って、そこに自分と人を閉じ込めるような。
そんなシェルターのような<エンブリオ>を生んだプレイヤーがいるとしたら、どうか。
……まあいいか、別に。
To be continued
エミリーちゃんかわいいなあ。
・余談
【修羅王】の試練。
初代修羅王さんの相手は、伝説級悪魔だったらしい。
ツイッターやってます。
https://mobile.twitter.com/orihonsouchi