<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
多分明日上げます。
□【猛牛闘士】サンラク
転職の試練を受けるべくジョブクリスタルに触れて。
俺がたどり着いたのは、端的に言えば
すべてが青い結界で覆われた空間。
何というのだろうか、ぶっちゃけ青いガラス張りの部屋の中にいるというのが一番正解だと思う。
お、何か空中に文字が浮かんでる。
通常のウィンドウとも違う。
ゲーム的なサイバー感あふれるウィンドウではない。
石板に彫られるような武骨な文字だけが浮かんでいる。
まるで、別ゲーであるかのように世界観が分かれている。
ふと思ったんだけど、デンドロって世界観担当とゲームシステムの担当が違うんじゃないか?
前者は緻密なのに後者は通報やチャット、垢BANシステムがなかったりとガバが多い気がする。
特に面倒なのはチャットだ。
わざわざSNS使わざるを得ないからね。
さて、書かれている文字は。
よく考えると、日本語でもない文字を翻訳して読めるようにするっていうシステムなんだけど、普通に考えて気持ち悪くね?
どんだけ設定練ってるんだよ。
その割に言語はどこでも同じらしいけど。
どこかの何かが、言語を統一したのか?
デンドロにもバベルの塔はあったのか?
最近はクソゲーで海外ニキを煽るため、割と真面目に英会話の勉強をしているんだが……ここまで技術が進んじゃうとなんだかなと思う。
まあ、俺のやるようなクソゲーでは、今後も決してバベルシステムが搭載されることがないだろうけどね。
さてさて、内容は、と。
【【修羅王】転職への試練】
【先代の【修羅王】を撃破せよ。貴殿が死ぬか、先代が死ぬか、二つに一つである】
【いずれかの条件が達成されるまで、この空間は解放されない】
【試練を開始しますか?YES or NO】
思ったより、シンプルな内容だな。
他の条件がちょっと複雑だっただけに、とてもありがたい。
とはいえ、ある種納得はできる。
【修羅王】は、天地に根差した超級職である。
そしてその天地の特色は、内乱。
日々ティアン同士での超級職を取り合う争いが絶えなかったと聞く。
むしろ、他の国ではそこまで争いがなかったって言うのは
多分、撃破対象は……
この空間には、二人の人物がいる。
一人は俺であり、もう一人はーー俺が来る前からこの空間にいた。
着物を着崩しており、たくましい上半身が露出している……つまりは半裸、変態である。
さらに、何故か頭部だけを兜で覆っており、その容貌は見えない。
兜の正面は、金属の板で覆われており顔が一切見えない状態だ。
つまりは、不審者である。
お前が言うなって?
いやいや俺はあくまで<エンブリオ>のせいだし、そもそも仮に俺が変質者だったとしてもそれがあいつが変質者じゃないことにはならないし、糾弾する権利がなくなるわけでもないと思うんだよ。
さらに、奇妙なことに和風の和の字もない金属板で覆われたブーツを履いており、その腕の半数には、刀が握られていた。
もう少し、わかりやすく言い換えてみよう。
刀を
腕は、
レジェンダリアの亜人に、似たようなやつがいたのは知っているが、ここまで珍妙な恰好はしていなかったと思う。
他の手には、斧が握られていたり、爪が取り付けられていたり、短刀が握られていたりと様々だ。
俺と同等か、あるいはそれ以上の異形。
それが未知のものだったからではない。
別ゲーで見た、とかでもない。
いや、6本腕のキャラクターとかは別ゲーでも普通にみるんだけど、そう言うことではない。
<Infinite Dendrogram>内において、既知のものだったということだ。
俺は、そいつのことをよく知っている。
ルナティックから聞いていた。
ステラからよく聞かされていた。
レジェンダリアでは、伝説に近い存在となっていた。
知っている。
そいつの名前を。
そいつの強さを。
やってきたことを。
曰く、神話級〈UBM〉討伐における最大の功労者。
曰く、犯罪結社との抗争において超級職を一人で何人も斬りふせた。
曰く、かつての闘技場における絶対王者。
曰くーー"魔境最強"。
『【修羅王】イオリ・アキツキ』
「…………」
反応は、無い。
どういう仕様なのか、《看破》でも反応しない。
レジェンダリアを去ったのち、行方不明になったとは聞いていたが、死んでいたか。
ゲームで行方不明のキャラクターって割と死んでる率が高かったりする。
特に「最強」とか呼ばれてたりしたら、もう役満である。
死んでいても不思議ではないが……死後にこうして相まみえることになるとは予想だにしなかった。
だがまあ。
『それと戦えるなら、面白い』
戦闘系超級職の技量が、ステータスが尋常でないのは知っている。
技量は、【杖神】ケイン・フルフルとの戦闘で。
ステータスは、同等といわれる伝説級<UBM>との何度かの戦いで。
ある程度知ってはいる。
だが、目の前の相手はそれ以上。
同じプレイヤーでも、センスやモチベーション、積み重ねてきたものによって差が生まれるように。
戦闘系超級職も同じく、差がある。
先日やりあった【杖神】に一度も負けなかった男。
数多の<UBM>や超級職を単独で斬ってきた者。
それが、どれほどのやつなのか。
挑んでみたい。
だから。
『ーーやろうぜ』
「ーー勝負」
俺の言葉が皮切りになったか、奴の様子が変わる。
やろうぜ最強。
俺の最速はちょっとばかしーー
To be continued