<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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今日で投稿はじめて一周年らしいです。
これからも頑張ります。

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活動報告上げました。


閑話・砂海の黒幕

□■【■■】■■■■■

 

 

 人が住めるとは思えない砂漠の上に、一人の男が立っていた。

 アラビア風のターバンを着ており、露出した肌は浅黒く、顔立ちは整っている。

 そんな男だった。

 男は、左手の甲に刺青があったが――それでも見た目ではわからなかったかもしれない。

 何しろ男の服装はカルディナでは普通そのもの。

 着ぐるみを着ていたり、ちぐはぐ装備だったり、十二単だったり、補助脚の着いた鎧だったり、覆面半裸だったりはしない。

 いい意味で、<マスター>らしくない格好だった。

 言動も、普通の<マスター>のソレのように、奇天烈だったりはしない。

 

 

 

「《魔法活動加速》――ノータイム、《魔法隠蔽》、《魔法発動隠蔽》、《魔法範囲拡大》、《魔法射程延長》に百五十万ずつ投入(・・・・・・・・)で」

 

 

 

 そう、普通の(・・・)マスター(・・・・)の言動ではない(・・・・・・・)し。

 普通の生物の言動でもない(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「《グランド・ホールダー》」

 

 

 男は、初級の地属性魔法を唱えた。

 とても、気軽に、本当に初級魔法を撃つように。

 

 

 ■カルディナ砂漠上

 

 

 カルディナの砂漠、<闘争都市>デリラから数十キロメテル離れた砂漠の上。

 そこに一体、人の女性に似た形の生き物がいた。

 されど、ソレは人とは根本的に異なっていた。

 蝙蝠のような翼をはやし、ねじれた山羊のような角を生やし、細く先のとがった尾がついている。

 何より、頭の上にはモンスターであることを示すネームが表示されていた。

 

 

「ハーッ、クソがよ、最悪最悪」

 

 

 ソレは、不機嫌そうに言葉を発する。

 ソレ自身の立てた計画が破綻したことを嘆いているからだ。

 ソレの名は、【搾生魔神 トップ・オブ・カースド】。

 淫魔を元として、ジャバウォックにデザインされた古代伝説級<UBM>である。

 【搾生魔神】の保有する固有スキルは、《絶対女王制(カースド・カースト)》。

 他者を【魅了】し、支配するスキル。

 加えて、魅了した配下から経験値やHPを搾取する効果もある。

 <UBM>担当管理AIであるジャバウォックからその性質上「神話級、いやその先にも至る可能性がある」とまで言われるほどのポテンシャルを秘めていた。

 そんな彼女だったが、昨日はじめて失敗という経験をした。

 たまたま彷徨っている<UBM>二体を配下に置いたはいいが、それで増長した。

 <UBM>二体を近くの都市ーーデリラに送り込んで経験値を稼ごうとしたのだ。

 結果は全滅。

 <UBM>二体がいればどうとでもなるだろう、と思ったがそうはならなかった。

 

 

「ま、いっか」

 

 

 とはいえ彼女は、そこまで堪えていない。

 少し苛立ったが、それだけだ。

 人間の感覚で言えば、「消しゴムなくしちゃった、まあまた買えばいいか」というもの。

 最強の手駒である<UBM>二体を失ったが、それでもまだ上位純竜クラスのモンスターは複数体いる。

 さらには、下は亜竜クラスまで含めれば軍団の数は一万に近い。

 バフスキルこそないが、単純な戦力で言えばそこらの【将軍】を優に凌駕する。

 

 

 そう思い、自分の下にいる配下を見下ろそうとした。

 そしてできなかった。

 彼女の身に何かあったから――ではない。

 彼女自身には何もない。

 何もなくなった(・・・・・・・)

 

 

 彼女の部下が、いつの間にやら砂の海に消えていた。

 一万を超えるモンスターがすべて、だ。

 従属キャパシティの状態から、全滅したと悟る。

 

 

「っ!」

 

 

 【トップ・オブ・カースド】は危機感を感じて翼で飛翔する。

 彼女は、気づく。

 地中から五本の柱が生えている。

 そして伸び続けている。

 【トップ・オブ・カースド】は直感する。

 あの柱に追い抜かれたら、死ぬ。

 しかし。

 

 

「抜かれっ」

 

 

 もとより、彼女のステータスは低い。

 あっさりと抜かれてしまう。

 そして、彼女は抜かれて気づく。

 柱だと思っていたものが、五本の柱だと思っていたものが……単なる五指(・・)でしかないということに。

 

 

「こ、これほどの地属性魔法、ま、まさか事前に調査した情報の中にあった【地」

 

 

 まるで、釈迦の手で弄ばれる孫悟空のごとく。

 古代伝説級最上位の怪物は、砂で造られた手の中で握りつぶされた。

 神によって作られた腕で。

 

 

□■【地神】ファトゥム

 

 

 

「特典武具は……まあ、やっぱり【魅了】の効果付きの武具だね。あまり使い道はなさそうかな」

 

 

 ターバンの男――【地神】ファトゥムはため息を吐くと特典武具をアイテムボックスにしまった。

 古代伝説級の特典武具など普通なら泣いて喜ぶはずのものだが、彼にとってはそう珍しいものでもない。

 

 

「あ、でもレベルは上がってるね。数が多くてよかったな」

「それにしても、今回は残念だったな。せっかく【搾生魔神】を神話級になるまで放置してきたのに、完全にご破算だ」

 

 

 当初の計画では、【搾生魔神】を放置し神話級あるいはその先まで至らせ、世界損害を増やす計画だった。

 成長性の高い<UBM>であり、なおかつ本人の戦闘能力は低いので、その気になればたやすく始末できる。

 彼等にとって利用し易い存在とファトゥムたちは踏んでいた。

 だが、ファトゥムの妻であるラ・プラス・ファンタズマの予測は外れた。

 【搾生魔神】はデリラ襲撃及びリソースの獲得に失敗し、遅かれ早かれ高確率で神話級に至る前にカルディナの<マスター>……<超級エンブリオ>の<マスター>によって討伐されるだろうと予測した。

 それゆえにファトゥムが「どうせなら討伐しよう」と考えて討伐した。

 魔女とも妖怪とも称されるほどの高度な予知能力を持つ彼女だが、欠点もある。

 演算開始以前に、この世界にいないものは予測できないうえに、ジョブに就いていないものも対象外だ。

 今回は、ジョブに就いていない(・・・・・・・・・・)シオンが予想外の行動をとってしまったがゆえに、結果が狂った。

 取るに足りないはずの子供が、一つの都市の命運を変えたのだ。

 そんな歯車の狂う過程を、彼女は少しだけ面白いと思った。

 それによって生み出された結果は少しも面白くなかったが。

 

 

「とはいえ、得たものも少なくはない」

 

 

 少なくとも、今回の件で完全にデリラは自分たちの手中に収まった。

 市長とその家族が不幸にも(・・・・)いつの間にか死んでいたからだ。

 元々彼らの計画が成功していれば確実に死んでいたので、不遇ではあるかもしれない。

 

 

「さて、そろそろ帰ろうかな。妻が待っているからね」

 

 

 そういって、“魔法最強”はゆっくりと歩きだす。

 彼の目に、彼等の目に何が見えているのかは、まだ彼等しか知らない。

 

 

 To be continued




四章も気長にお待ちください。



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