<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□■<闘争都市>デリラ
「《サプライズ――」
【杖神】ケイン・フルフルが初手で狙ったのはステラでも【ドラグライ】でもない。
彼らのすぐそばにいた、シオンだった。
彼女を狙えば、【ドラグライ】に隙ができることはすでに分かっている。
後は上級魔法職のステラだが、はっきり言って大したことはない。
そこまで考えての、彼の初手は。
「《アッシュ・ウィンド》」
ステラによって妨害された。
彼女のスキル宣言と同時、砂塵の竜巻がケインのいる場所を中心に巻き起こる。
【灰塵術師】の奥義であり、砂の竜巻で相手を拘束しつつダメージを与える魔法だ。
今までついてきた、【高位幻術師】とはまるで違うジョブ。
しかしそれでも、今の彼女のメインジョブである。
【
同格の【黒土術師】などには汎用性で劣るが、精緻性でいえば、他の魔法職に引けを取らない。
彼女は、魔法における細かい調整を得手としており、それを活かせるジョブに就いた。
元々幻術に特化していた【
彼女が伸び悩んでいたのは、幻術師系統にこだわっていたというのも大きかった。
しかし、万能の適性を持ち、自由奔放にふるまう
母親に憧れて、ただそれを追い求めていた。
だが、そもそも強くならなければ届かないという当たり前の事実に気づいた。
より強くなるために、さらなる飛躍を求めて転職を決めたのだ。
そしてデリラで転職し、レベル上げを重ねた。
カルディナは砂が多い、もっと言えば砂とそこに棲むワームくらいしかいない国だ。
それこそ、グランバロアで【蒼海術師】のレベル上げが楽なのと同じで、<闘争都市>デリラにてレベル上げを楽に行うことができた。
今の彼女のレベルは、すでにカンストしている。
上級職一人と、伝説級<UBM>。
対するは、超級職。
その戦いは……互角だった。
「クソッ!」
今【ドラグライ】は人の姿でケインと殴り合っている。
その動きは、【杖神】よりはいささか速い。
いくらケインが特化していない【神】とはいえ、亜音速。
本来は、そうはならない。
《人化の術》などで人の姿を取るモンスターは多くいるが、基本的には本来の姿よりステータスを大幅に落とす。
彼らは基本的に本体を別空間に格納して、人間としての脆弱な肉体を作り出すことで人化しているからだ。
しかし、彼の固有スキルである《偽身暗擬》は違う。
己を偽り歪めるスキルであり、本来の姿の形を変えているだけ。
だから、ステータスもそのまま。
まして、この姿の方がシオンとともに過ごし、戦ってきた時間が長い。
だから、この姿の方が竜の姿よりよほど戦いなれている。
とはいえ、それだけならばケインには勝てないだろう。
彼には、特典武具やジョブのスキルに加えて、積み上げた技量がある。
しかし。
「《サンド・バインド》」
「邪魔を……っ!」
【ドラグライ】は一人ではない。
ステラの拘束魔法によって、一瞬ケインの動きが止まる。
魔法職である彼女には、亜音速で動き回る彼らを完全には目でとらえられない。
しかし、超音速で動き回る”怪鳥”の動きを見続けてきた経験から予測は可能であり、拘束魔法を置くことが可能である。
連携が取れているのも、サンラクにステラが合わせていた経験によるものだ。
彼に比べれば、むしろよほど楽だ。
【ドラグライ】がケインの動きを縛っているのだから、なおさらだ。
しかし、互角でしかない。
伝説級の怪物が、ティアンの手を借りてもなお、超級職は倒しきれない。
むしろ、《竜王気》に使っているMPやステラの残りMPを考えれば、こちらが不利だ。
このままでは、いずれ負ける。
ーーだから、ここで【ドラグライ】は詰めに行く。
「《幻鳥生成》」
【ドラグライ】の姿が五体に増える。
その中の一体が本物で、四体は幻影。
しかし、それは。
「無駄だ」
ケインには幻影が通じない。
なぜなら、彼の腕には腕時計型の特典武具がはまっている。
その効果は、モンスターの位置を探るレーダー。
それを見れば、幻影には意味がない。
確実に、杖が本体を捕らえた。
そしてーー【ドラグライ】の攻撃が、ケインに命中した。
「……は?」
攻撃でHPを減らしながら、バランスを崩しながら、ケインはどうにか状況を理解しようとする。
杖で殴ったと同時に、幻影に殴られた。
その正体が、少し遅れて理解する。
「《竜王気》……っ!」
幻影で飛ばした《竜王気》を隠して攻撃した。
戦いの中で、新たに成長した。
幻影を消し、【ドラグライ】は《竜王気》で包んだ拳を振りかぶる。
一万を超えるSTR、それを《竜王気》でさらに攻撃力を強化した乾坤一擲の一撃。
耐久に特化している超級職でなければ、耐えられるものではない。
つまり……ケインの耐久力では耐えきれない。
「……っ」
拳が胴にめり込み。
はるか遠くへと吹き飛んでいった。
それが、決着だった。
彼らに立ちはだかる、人はすべて倒した。
ーーしかして、未だ脅威は天上と地下に残る。
空にいる鯨は、大火力の砲撃を放ち、どれほど傷を負おうともすぐさま再生する。
地を泳ぐ海竜は、超音速でデリラ中を動き回りながら、人を食わんとして隙をうかがう。
だが、それに立ち向かうものが二人。
『鯨肉って結構うまいんだよな。独特で』
天上の鯨に怪鳥が迫り。
「もう、私たちだけでも行けそうだねー」
『サイガ‐0さん、準備できた?』
『大丈夫です、いつでも行けます』
『……完了。
地下の海竜に蛇が牙を剝き、熱視線を向ける。
<闘争都市>デリラを舞台にした、最後の戦いが始まろうとしていた。
To be continued