<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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竜と鳥、砂の海で漂う 其の八

 □ある<マスター>のプロローグ

 

 

 彼が、<Infinite Dendrogram>を始めた理由に、明確なものはない。

 なんとなく、自分の悪友二人が始めたり、別ゲー時代の他の知り合いが始めたことで後を追うように始めただけ。

 そのゲームの仕様上、おそらくこれで仕事(・・)をすることもないだろうし、

 キャラメイクをするときから、なんとなく自分のやり方は決めていた。

 「アバターはどれほど大きくしても小さくしても、ステータスとかスキルに変化はないよー」というチュートリアルを担当した猫の言うことを参考にしながらアバターを作る。

 「当たり判定小さくして、重量落とそう」と考えてアバターを幼女にした。

 なぜ幼()なのかは彼自身にもわからない。ただ、そのことで外道二人に煽られたことだけは事実である。

 

 

 そんな風に、なんとなくでスタートした<Infinite Dendrogram>ではあったが、彼がやりたいことだけは明確だった。

 管理AIから、この世界ではプレイヤーは自由であり、何をするのも自由だといわれた。

 だから、彼は訊いたのだ。

 

 

「PKってやっていいの?」

「いいよー。このゲームにおいて、PKのペナルティは特にないから」

「……マジで?」

「本当だよー。あ、ちなみにNPCの方は殺すと指名手配されるし、復活もしないからおすすめはしないかなー。別にそれでも運営によるアカウント停止とかはないし、あくまで君の自由だけどー」

 

 

 PKで報復されるリスクもあるしねー、とチェシャが付け加えるが、それは別にわかり切っていることだ。

 PKすれば、されるのは当たり前。

 それをデメリットとは言わない。

 PKにデメリットがないゲームなど、対人戦をメインでやるゲームくらいではないだろうか。

 説明を聞く限り、どうもそういうコンセプトではない。

 シンプルに、自由度に特化しているゲームというものだろうか、とカッツォは考えた。

 そういえば、行動が突飛な方の友人がそういう自由度の高いゲームをクソゲー判定して好んでいたような気がする。

 いや、発売一週間でここまでヒットしているのだ。

 クソゲーなわけがない。

 迷いを振り切り、カッツォはキャラメイクや国家選択を終えて、<Infinite Dendrogram>の世界に降り立った。

 

 

 ◇

 

 

 ペンシルゴンとの約束通り、騎士の国アルター王国をスタートに選んだ。

 その後、ペンシルゴンーーデンドロでもプレイヤーネームはアーサー・ペンシルゴンだったーーと合流しパーティーを組んだ彼は、最初は【騎士】のジョブについた。

 理由としては、王国で最もポピュラーな職業だったことと、万能寄りのジョブだったことがあげられる。

 さらに言えば、ペンシルゴンが後衛職についていたことも一因か。

 しかし、<エンブリオ>が孵化したことでジョブについて大幅な変更をせざるを得なくなった。

 <エンブリオ>とのシナジーを考慮して、隣国のドライフまで赴き【操縦士】、【高位操縦士】などについた。

 その過程で、リアルの知り合いでもあるAGAUやナツメグとひと悶着あったりもした。

 

 

 では、そんな<エンブリオ>に対して、彼がいい感情を持っていないかといえば、断じて否だ。

 むしろ彼のパーソナルから生まれただけあって、これ以上の<エンブリオ>はないだろうと断言できる。

 そしてその思いは、孵化した時から今日までまるで変わっていない。

 

 

 ◇

 

 

 ソウダカッツォの、TYPE:ギア・カリキュレーターの<エンブリオ>。

 その銘を、【学習機甲 ソウケツ】という。

 中国で、学問の神様と呼ばれた偉人をモチーフにした<エンブリオ>。

 プロゲーマーである魚臣慧にアジャストして、思考入力(・・・・)で動く特殊装備品(ロボット)だ。

 ロボゲーが苦手な彼も、ソウケツについては「ラグがないならいいや」と納得した。

 加えて、ソウダカッツォは特に意識していないが、マジンギアと違って彼自身のMPを使わなくても自力で動力を賄える。

 だが、ソウケツの本質はそこにはない。

 <エンブリオ>の本質は、固有スキルにある。

 ソウケツの能力特性は、分析と対策。

 第一のスキル、《四神慧眼》は相手のステータスやスキルをつまびらかにするスキルだ。

 欠点として、《看破》に比べて解析に時間がかかることがあげられるが……逆に言えば、時間さえかければ誰でも何でも解析できる。

 ただし、相手のレベルやステータス、、<エンブリオ>の到達形態、《偽装》スキルの有無などによって解析にかかる時間は左右される。同格以下なら、さほど時間はかからない。

 そして、解析できるのはジョブなどだけではなく、<エンブリオ>も含まれる。

 PKにとって大きな課題である、初見殺しの塊である<エンブリオ(固有スキル)>の対処法を持っているということだ。

 それによって今この瞬間も初見殺しを予見できる。

 第二のスキルは、《四神掌握》。

 《四神慧眼》によって分析した数多のジョブスキル(・・・・・・)をラーニングするスキルである。

 今この瞬間も、【炸裂銃士】の奥義である《トリガー・ハッピー》や、【装甲操縦士】、【疾風操縦士】の奥義を同時に使用している。

 もちろん、制限はある。

 同時に使用できるジョブスキルの数は四つしかないし、MPなどのスキルのコストは自前で用意する必要がある。

 逆に言えば、コストさえ用意すればどんなジョブスキルでも使えるということでもある。

 《慧眼》による分析と、《掌握》による無数の対策。

 それが、彼の戦術である。

 

 

 ◇

 

 

 『んー、もう使えなくなったか、次』

 

 

 両手に持ったオーダーメイドの【ケイズ・ハンドガン】を、否、ハンドガンだったものを捨てて、新しいハンドガンを《即時放出》によって取り出し装備する。

 これですでに七度目の交換である。

 

 

 製作者はナツメグという名前の【高位錬金術師】である。

 彼女の<エンブリオ>、TYPE:エルダーキャッスル、【巨報工房 キュクロプス】の能力特性は巨大武器製造(・・・・・・)

 基本スキルの《ウェポン・マス・プロダクション》を始めとしたすべてのスキルが巨大武器・兵器の製造に特化している。

 巨大にすればするほど、同体積当たりのコストを削減できる効果もある。

 そしてその極致である必殺スキル、《この小さな手、あなたの大きな手のために(キュクロプス)》も同様。

 必殺スキルで造られた製品は、巨大な物しか作れないことを除けば、超級職のオーダーメイド製品と遜色ない。

 それらのスキルを活かして、否、魚臣慧に活かされるためだけに(・・・・・・・・・・・・・・)生まれたスキルによって今ソウダカッツォは戦うことができている。

 

 

「おおおおおおおおおおお!」

 

 

 近接戦に特化したマスターが突っ込んでくる。

 <エンブリオ>の固有スキルで転移して肉薄するのが彼の戦闘スタイル。

 一見それは有効な戦術に見えるがそれは。

 

 

「ご、ぶ」

『ほい、いっちょ上がりっと』

 

 

 文字通り、致命的だった。

 いつの間にか《即時放出》した五メテル以上ある長大な【ケイズ・バトルナイフ】で、<マスター>を切断していた。

 ソウダカッツォにはわかっていたのだ。

 彼の、<エンブリオ>の転移スキルにあらかじめマーキングしなくてはならないという条件があったこと。

 そして、マーキングの位置。

 それらを《四神慧眼》で看破して転移する位置を予測し、【バトルナイフ】を合わせて真っ二つにした結果である。

 

 

 

『ここを通りたくば、俺を倒していけ、か。それはそうだね』

 

 

『ただし、気を付けることだね。プロの壁は、そう簡単には通れないよ?』

 

 

 <エンブリオ>のコクピットで不敵に笑い、ソウダカッツォは蹂躙を継続する。

 制圧と殲滅に長けた自爆PK、すべてが高水準の個人戦闘型、そして、あらゆる状況に対応できる万能の者。

 それがもたらす結果は、一方的な蹂躙。

 そのすべてが終わるのには、それほど時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 ■【杖神】ケイン・フルフル

 

 

 

 俺にとって、強くなることは人生の意味だ。

 強くなるためには、何でもするべきだ。

 レジェンダリアで、国に仕官して生産系超級職とのコネを作り、【賢者擬装】などといった装備を作ってもらった。

 レジェンダリアを出奔した後は、天地にわたって修行を積み、レベルを上げつつスキルを開発した。

 魔法職のような恰好をして、ステータスを弱く偽装して油断させ、近接戦を挑んでくるティアンを殺してレベルを上げた。

 特典武具を得るために、パーティーを組んで<UBM>を討伐した直後、MVPの判定が出るまでに他のパーティーメンバーを皆殺しにして特典武具を得た。

 すべて、強くなるためだ。

 そして、今日もそうだ。

 <闘争都市>デリラが滅ぼうと、どれだけ犠牲が出ようと知ったことではない。

 俺が特典武具を得て、更に強くなれればそれでいい。

 とりあえず、速すぎるドラゴンと再生能力が高すぎる鯨はどうしようもないから、最後の一体を引き続き狙うしかない。

 

  

「見つけた」

 

 

 特典武具のレーダーがあるからすぐわかる。

 あの男と、ティアンの子供。

 移動しているようだが、子供を抱えて走っているらしく、全速力ではない。

 気づかれていないようだし、このまま奇襲を仕掛けるしかない。

 

 

「《サンド・ホールド》」

 

 

 それは、予見できなかった。

 足元の砂が蠢き、彼の足に絡まる。動きが止まる。

 これはまずい。

 

 

 

「――《斥力掌》!」

 

 

 【一握掌 バリスケ】の特典武具のスキルを使用して、拘束から逃れる。

 だが、それであの【ドラグライ】には気づかれたらしい。

 その時点で奇襲は失敗だ。

 

 

「やってくれたね、ルナティックの娘」

「あっさり足元掬われたのね、”神殺の六”」

 

 

 奇襲を仕掛けた張本人、《看破》ではステラ・ラクイラと出ている少女は、俺を見下ろしていた。

 ジョブは、親とは違う……【灰塵術師】になっている。

 もともとそうなのか、あるいは最近取り直したのかどうかは知らないが、大した腕前だ。

 ただ、そんな彼女はどこか冷めた目をしていた。

 まるで、期待外れだ、と言いたげな目。

 どうにも、嫌なことを思い出して苛立つ目だ。

 魔法職にその目で見られるのは、どうにも嫌だ。苛立つ。

 ーー殺したくなる。

 

 

「《ロンゲスト・ステッキ》」

「《竜王気》!」

 

 

 

 また、邪魔が入る。

 いや、今度はありがたい。

 獲物が自ら突っ込んできた。

 逃げられないから、共闘するつもりのようだ。

 ならば、まとめて殺すだけ。

 まとめて、俺の糧にするだけだ。

 

 

 

「”愚者”【杖神】ケイン・フルフル」

「【灰塵術師】ステラ・ラクイラ」

「……【偽竜王 ドラグライ】」

 

 

 

 

「「「勝負!」」」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 今日、<闘争都市>デリラで行われる戦いの中で、決して目立つものではない。

 されど、唯一<マスター>のいない戦いが。

 今、始まった。

 

 

 To be continued




ソウケツ……さすがにこれはマイナー過ぎましたかね?
知ってる人いるんでしょうか。

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