6月21日、兵庫県尼崎市で全市民約46万人の個人情報が入ったUSBメモリーが一時“所在不明”になった問題。USBを紛失した40代男性Aさんは、市が作業を委託した大手情報システム企業「BIPROGY(旧・日本ユニシス)」が再委託した企業「アイフロント」が再々委託した“ひ孫請け”企業の社員だった。これに対し、尼崎市は「(BIPROGYが)再委託、再々委託に出していたことは把握していない」と“激怒”。稲村和美市長が「契約違反があった。様々な観点から損害賠償請求を検討する」と発言する事態に発展した。

【画像】最年少の38歳で市長になった稲村和美・尼崎市長

 そんな中、BIPROGYの在阪会社関係者X氏が「週刊文春」の取材に応じ、「『再委託されていることは知らなかった』という尼崎市の説明はウソです」と証言した。

“USB紛失”当日に何があったのか。

「BIPROGYの社員ら4名が午後5時から作業を行いました。尼崎市役所近くの市政情報センターでデータを抜き取ってUSBに格納。BIPROGYのコールセンターに持って行った」(全国紙記者)

 作業が終わった4人は「“打ち上げ”も兼ねた慰労の会」(前出・X氏)で大阪府吹田市内の居酒屋へ繰り出した。飲み会は3時間ほどで終了。だが、USBを所持していたAさんは泥酔してしまっていた。店を出て「お疲れ様です!」と解散した3人だったが、Aさんはそのまま路上で寝込んでしまう。翌朝、USBが入ったかばんをなくしたことに気づき、会社や警察も含む大人数で捜索が続けられた結果、USBは3日後の6月24日に発見。データ流出は今のところ確認されていない。ただ、Aさんは責任を感じて憔悴しきっているという。

「事情はまったく異なる」と反論

 尼崎市から業務の委託を受けたBIPROGYは24日に会見を開いて謝罪。その際、Aさんは自社の社員ではなく、業務を再委託したアイフロントの社員だと説明していた。ところが26日になり、BIPROGYは説明を翻す。Aさんはアイフロントがさらに外部発注した“再々委託先”の社員である、と訂正したのだった。これに“激怒”したのが、尼崎市側だった。「再委託、再々委託に出されていたことは知らなかった」とし、業務を行っていたのはあくまでBIPROGYの社員だと認識していた、と主張したのである。

 27日、報道陣の囲み取材に応じた稲村市長は、

「再委託、再々委託は把握していませんでした。マネジメント不足、危機管理にもつながる。様々な観点から損害賠償請求を検討する」

 と語気を強めた。

 だが、前出のX氏は「事情はまったく異なる」と反論する。

「Aさんは20年も尼崎市に出入りしており、長年、市の担当者とも深い付き合いがありました。にもかかわらず、Aさんの所属が“再々委託先”だったということを『把握していなかった』わけがありません。

 確かに、今回の件は尼崎市に対して再委託の事前届はしていません。ですが、これは裏を返せば『そもそも再委託はされていることを尼崎市の職員が当然認識していると考えていたから』という側面もあるのです。20年近く行われた慣例で、市と業者で馴れ合いが起こってしまっていました」

 当事者たちはどう答えるのか。

尼崎市担当者の回答は…

 BIPROGY広報部に「再委託が行われていることを市は把握していたのか」と聞くと、〈お問い合わせのような実態の有無も含めて、第三者委員会にて調査がされ、事実が判明すると考えております〉と回答。“再委託先”アイフロントの清水治社長は、小誌の取材に対し、「私からは何もお答えすることがありません。ただ、尼崎市役所様をはじめ関係各所に多大なご迷惑をおかけして申し訳ありません。今後はBIPROGYさんと共同で事故の原因究明と再発防止に努めていきます」と答えた。

 一方、尼崎市の担当者は、「今までの他の業務のことは(再委託されていたかどうかを)把握していませんが、今回の事案では再委託されていることは全く知りませんでした」と回答した。


尼崎市役所 ©︎共同通信

 市と委託業者で食い違う言い分。真相はどこにあるのか――。現在配信中の「週刊文春 電子版」では、尼崎市と業者の間で暗黙の了解として行われていた“名刺交換ルール”、Aさんが過去に起こしていたもう一つの“紛失事件”、当事者たちの言い分などを詳しく報じている。

(「週刊文春」編集部/週刊文春)