<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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追記
3/23
大幅に修正。
申し訳ありません。




竜と鳥、砂の海で漂う 其の五

 □■二体の<UBM>達について

 

 

 【潜回竜 ミーヌス・ドラコーン】という名の<UBM>は、元々地竜と水棲モンスターの混血種だった。

 基本的に、表には出ない。

 リスクは侵さない。

生存競争においてそのほうが有利だからだ。

 異母兄弟である、【保鯨仙雲 プリュース・モーリ】とともに、海や陸を渡って生き抜いてきた。

 今回は、とある事情から、仕方なくリスクを冒しているが、そうでなければ人里には入らなかっただろう。

 人間はモンスターと違ってジョブで強化される仕様上、見た目で強さがわかりづらいために襲撃にはリスクが付きまとっているのだ。

 

 

「GUUUUUUAAAAAAAA!」

 

 

 超音速機動で、地中を動き回る。

 通常なら不可能なことだが、伝説級<UBM>としてのステータスと固有スキルである《地中潜入》はそれを可能にしている。

 自分周辺の土のみを液状化させる法則(ルール)を適用して、水中を泳ぐかのように遊泳する。

 加えて、地上の生体反応を探るスキルもある。

 だから、安全と判断して上に脱出しようとして。

 

 

『どうした?』

「GUA?」

 

 

 【偽竜王】が鉤爪の生えた腕を振り下ろす。

 《竜王気》の込められた爪で鱗を引き裂き、明確なダメージを与える。

 

 

『GYAAAAAAAAA!』

「GUUUUUUAAAAAAAAAAA!」

 

 

 【潜回竜】はまた地中に潜り、逃走。

 しかし、また上にいる。

 再度潜行、そしてまた地上に顔を出す。

 

 

 しかし、【ドラグライ】が出た瞬間、目の前に出現する。

 すぐさま潜るが、また出待ちしている。

 同じ伝説級<UBM>である、【偽竜王 ドラグライ】の超音速機動を振り切れないから、ではない。

 たしかに彼は超音速起動は可能だが、比較的脚は遅い。

 さらに、【潜回竜】の移動速度は伝説級<UBM>の中では、最上位といってもいい。

 AGIが高いことに加えて、《地中潜入》で抵抗を消しているのでAGI以上の速度が出る。

 

 

 しかし、それを翻弄しているのが、【ドラグライ】の第二の固有スキルーー自身の幻影を作り出す、《幻鳥生成》である。

 親である【ファントム・イーグル】から受け継いだ幻術の素養。

 それが発露した固有スキルで生成したホログラムの分身。

 実態こそないが、看破などでも見破れない。

 多数の幻影で広範囲をカバーして追い詰める。

 それが【ドラグライ】の狙いであり、戦術である。

 

 

 さらに言えば、【潜回竜】には致命的な欠陥がある。

 地中を潜入するスキルはあり、強力な奇襲性能を誇っているが、地中で呼吸(・・・・・)することは出来ない。

 だから体を地上に出して、定期的に呼吸する必要がある。

 だから、この戦術が通用している。

 

 

 またしても出てきた、【潜回竜】を、幻影で追い立てて。

 直後。

 彼の体を、爆撃が襲った。

 

 

『GYA?』

 

 

 咄嗟に《竜王気》を纏うことで防いだが、防ぎきれずにダメージを受けている。

 直後、幻術で構成された分身がすべて霧散する。

 それは、【潜回竜】からの攻撃によるものではない。

 下からではなく、上から(・・・)の攻撃。

 何による攻撃かと上を見上げて、気づく。

 攻撃してきたのは、一頭の白い鯨。

 だがそれを鯨といってもいいのだろうか。

 胴体から、数多の大砲(・・・・・)が出現している。

 戦艦といっても違和感はない。

 

 

「KYUUUUHUUUUUUUU!」

『……厄介だな』

 

 

 <闘争都市>デリラ。

 海竜が地下をうごめき、鯨が天上で嗤う。

 

 

 そして――もう一つ。

 さらなる悪意が、彼を襲った。

 

 

 ◇

 

 

 □【猛牛闘士】サンラク

 

 

『いやいや、あれヤバいだろ……』

「すさまじいな」

 

 

 何あれ。

 鯨じゃないじゃん。

 空中戦艦じゃん。 

 ひどすぎるだろ。

 

 

 さっきから本当にひどい。

 鯨戦艦の爆撃であたりが燃えに燃えている。

 これ、<UBM>を倒したとして、その後この町大丈夫なのか?

 復興できるとは思えんのだけど。

 

 

 まあ、それは心配することでもないか。

 問題は【杖神】をどうするか。

 そして、上にいる鯨戦艦をどうやってぶっ壊すか、だな。

 都市がぶっ壊れた場合、トーナメントどころかセーブポイントがどうなるのかさえもわからん。

 完全に壊れる前に俺も壊しにいかねえと。

 

 

「ーー《斥力掌》」

『っ!』

 

 

 とっさに衝撃に備え、躱そうとして、違うと気づく。

 ケインが右手袋のスキルを使用したのは、自分自身!

 俺から離脱する気か。

 逃がすわけ、いや、待てよ。

 飛んだ方向が、まるきりレイ達と真逆、都市の外側だ。

 グライを狙う心算なら、そちらに行く道理がないので、そこから考えられることは。

 

 

『あいつも、タゲが鯨に移ったか』

 

 

 俺との戦闘が長引いているからと、別の<UBM>の方に逃げやがった。

 とはいえ、グライを襲う気がないなら、俺の方にはあの魔法職もどきとやりあう気はない。

 思うに、あの恰好、魔法職と思わせて油断を誘って近接戦闘してくるタイプだ。

 GH:Cでそんな奴いたんだよな。

 ティンキー☆!

 懐かしいんだよな。

 あれでカッツォをはめて煽り散らかしたのは、いい思い出である。

 割とすぐに対策されたりしたのは、いやな思い出なんだけどな。

 

 

 じゃあとりあえず、レイのところに戻って。

 とりあえず、ステータスを確認しないと。

 

 

 え、あれ何?

 なんで町中に恐竜がいるの?

 

 

 あれは、羽毛恐竜?ディノニクスとかラプトル系の恐竜をそのままでかくした感じ。

 昔やったクソゲーで、恐竜は散々見たから知ってるんだよな。

 ネズミーー厳密にはネズミではないかもしれんが知らんーーネズミのアバターで恐竜世界を生き抜くというリアルすぎるクソゲーだった。

 恐ろしいのは、バグやラグといった技術的な問題がまずなかったくせに、仕様がゴミだったことなんだよな。

 強いて言うなら捕食されるシーンだけカットされてリスボンする仕様だが、あれは仕方ない。

 多分倫理的にじゃなくて技術的に足りなかったんだな。

 あまりにリアルすぎる割にゴールが隕石が落ちるまで耐えるっていう耐久ゲー。

 しかも隕石が落ちるまでのスパンも乱数というのが、このゲームの一番クソなところだ。

 いつになっても、いつまでやってもまるで終わらない。

 やっと隕石が落ちたと思ったら、隕石衝突から生き残れるのも確率判定があるんだよな。

 それで死んだときは、丸一日何もする気が起きなかった。

 後で聞いた話だと、隕石が落ちても八割の確率で耐えるらしいんだが……リアルによせすぎてひたすら確率を導入してくるのはホントにクソ。

 デンドロにしても「ぞうもり」にしてもそうなんだが、技術的には不満がないのに、リアルによせすぎた結果、「ゲームとしては問題がある」ゲームができてしまうことはままある。

 まあデンドロの場合は、一応表面上はゲームゲームしてるからそこまで評価はひどくない。

 ゴア対策もあるしな。

 

 

 

 閑話休題。

 あれはまずグライだな。

 とりあえず合流すべき、で。

 

 

『やばくね?』

 

 

 《看破》して、気づいた。

 ーーあいつのHP、二割も残ってない。 

 

 

 □■ある<マスター>について

 

 

 とある<マスター>がいた。

 彼は、特に目立つ容姿をしているわけではない。

 戦闘用の服装は街中では奇妙かもしれないが、<マスター>の中では特に目立たない。

 まして、今は街に<UBM>に出現している非常事態。

 戦闘態勢に入っていない者の方が、かえって非常識といえるだろう。

 

 

「はあ、どうしようかな」

 

 

 <UBM>の攻撃で町が崩壊しているが、彼は、特に取り乱しはしない。

 暑さは不快ではあるが、積み上げたステータスもあってそこまで問題にはならない。

 彼は遊戯派であり、特に町が壊れても思うところはなかった。

 せいぜいで、セーブポイントがなくなったらどうしよう、どうなるんだろう、くらいのもの。 

 では、遊戯派らしく、<UBM>の討伐に挑むのかといえば、そうでもない。

 理由は明白、勝てるビジョンがわかないからだ。

 一体は、空の上にいる白鯨。

 彼は高所に移動するすべも、遠距離攻撃手段も持たないビルドであり、文字通り手も足も出ない。

 

 

「ま、攻撃できても意味なさそうだけど」

 

 

 《望遠》で見れば、攻撃を鯨に浴びせている<マスター>らしき者達もいる。

 赤い機械鳥は、鯨の周囲を飛び回りながらミサイルやレーザを打ち込んでいる。

 奇妙なゴーグルをかけた、アメコミヒーロー風の男は脚部のブースターを吹かせて蹴撃を見舞った。

 一髪一発が上級奥義を上回る連撃で、鯨の白い体が綿あめのようにちぎれ飛ぶ。

 ーーそして、すぐ再生する。

 【保鯨仙雲】は、火力と再生能力のみに特化した<UBM>である。

 

 

 

「そして、もう一体もどうしようもない、と」

 

 

 【潜回竜】に至っては、攻撃する手段がほぼない。

 時々、地上に出てくるが、超音速で動き回るモンスターをどうやってとらえればいいのか。

 超音速で追いつけるもので、なおかつ伝説級<UBM>の防御力を突破して満足なダメージを与えられるものはほぼいない。

 地下にいるときを狙えればいいのかもしれないが、地下深くに届く攻撃手段を持つものがどれだけいるというのか。

 例えば、デリラにいる中でトップクラスの戦闘能力を持っている元【旅狼】メンバーでも、それができるのは、ディストピアの地下穿孔特化弾頭を使えるアーサー・ペンシルゴンと、もう一人(・・・・)くらいのものである。

 

 

 

 つまり、どうしようもない。

 彼も含めて多くの<マスター>にとっては、できることはない。

 

 

「あれ?」

 

 

 ーーそのはずだった。

 何度かの爆炎で、それに気づいた。

 

 

「お、おい、あれ」

 

 

 彼も、彼の周りの<マスター>も、周りではない<マスター>も、一斉にそれ(・・)を見る。

 【偽竜王 ドラグライ】の姿を、見た。

 それは、翼を持ちながら、空にはいない。

 それは、地下の海竜とは異なり、地中には逃げない。

 それは、無傷ではない、手負いだ。重症だ。

 

 

「「「「「――殺せえ!」」」」」

 

 

 それが、その場にいた大多数の<マスター>の総意だった。

 直後、何十何百の攻撃が、斬撃が、投擲が、矢が、魔法が。

 たった一体の<UBM>に殺到した。

 

 

 To be continued 




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