<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□■<闘争都市>デリラ
「やってくれるじゃねえか、先にお前からやるか、モンスターもどき!」
『ハッ、子供をいきなり襲ってくるやつに言われたくねえよ!』
別ゲーで似たようなことは俺もやったけどな!とサンラクは内心でつぶやくながらも攻撃の手を緩めない。
先ほど以上の速度とキレ、何より文字通り異常な
「《ロンゲスト・ステッキ》」
スキル宣言、サンラクは回避行動をとろうとして、違うと気づく。
動こうとするも、間に合わない。
杖の先端が向いたのはサンラクではなく、地面。
如意棒のように推進力として、距離を離した。
『させるかよ!』
「《引力掌》」
続いてケインは、最近獲得した特典武具である、【一握掌 バリスケ】のスキルを発動する。
もととなった<UBM>【一攫獣 バリスケ】は、引力と斥力を自在に操って人を手玉に取る<UBM>だった。
それに由来する《引力掌》は、左手のひらを向けた生物を引き寄せるスキル。
直接ダメージを与えるわけでもないが、隙は作れる。
「《サプライズ・イン》」
『させるかよお!』
サンラクは《
先に人形が突っ込んだことで、わずかながら、杖先がぶれて狙いがそれる。
ケインも杖で人形を叩き割るが、サンラクはその隙をついて、そのまま攻撃を仕掛ける。
『その技のネタは読めてるぜ、杖による攻撃の当たり判定をズラすバグ技なんだろ?』
「…………?」
『え、違うの?』
ケイン自身はサンラクの言葉の意味が分かっておらず困惑している。
だが、サンラクの指摘はおおむね正しい。
《サプライズ・インパクト》はケインの装備した杖の起こす衝撃を転移させる、空間操作系のスキル。
(随分、あっさりと対処してきた。<マスター>としては技巧が高いとは思っていたが)
サンラクは、<Infinite Dendrogram>において、空間系スキルを使えるわけではないし、見たこともない。
しかし、便秘を始めとした数多のクソゲーでバグ技になじんでいるサンラクにとって、ある意味でそういうたぐいの技は慣れ親しんだものである。
現状、彼が使える空間系スキルはほとんどないが……使えないにしても対処はできる。
「圧倒的速度、ティックお手製の武器、なにより
『はっ、こっちのほうが速けりゃ対処はできるんだよ!』
ステータス、AGIという一点においてサンラクは【杖神】を上回る。
未だ上級職とはいえ、彼には<エンブリオ>のステータス補正や、スキルによる速度強化がある。
もはやアクティブスキルを使わずとも超音速機動ができるサンラクは、見方によってはすでに準<超級>の域に達していた。
対して、ケインのAGIは5000程度。
長年超級職として鍛え上げてきた彼の合計レベルは1400近い。
しかし、【杖神】がまんべんなくステータスが低く伸びるタイプのジョブであったため、レベルほど肉体ステータスは高くはない。
『っ!』
「誰が、俺より速けりゃ対処できるって?」
サンラクの左腕が、肩口から吹き飛ばされる。
「あいにく、俺は俺より速い奴の対処にも慣れてるぜ?」
『上等!』
そうして彼らの戦いは続く。
◇
【エンネア・タンク】には四本のサブアームがついている。
それらが、ステラをキヨヒメ、そしてグライを掴んでいた。
彼女は、そのまま
グライは、運ばれていることとは別の、一種の気まずさを感じていた。
「その」
『ひとまず、シオンさんを避難させます。……あなたのことはそれから考えましょう』
「……わかった」
レイとしては、積極的に<UBM>を狩るつもりはなかった。
サンラクがそうしたいならば、共闘して特典武具を狙うのもやぶさかではなかったが、そうでないならば特に心惹かれるコンテンツでもない。
そして、レイ個人としても、争わないほう方がいい。
メイデンの<マスター>として、なにより恋する乙女を応援する一人の人間として、シオンやグライと争いたくはなかったのだ。
しかし、争う必要はなくなり安堵しており。
--その隙を突かれた。
『レイ!』
『っ!』
彼女もサンラク同様【ブローチ】を付けているので無傷だったが、逆を言えば襲われたのにもかかわらずノーダメージなのは【ブローチ】が壊れたからだろう。
ちなみにステラとシオンは地面に転がった衝撃でブローチが割れて助かった。
「GUUUUUUAAAAAA!」
『土の中を泳いで?』
それを見てレイが真っ先に連想するのは二つの事柄。
一つは、サンラクから聞いた壁抜けなどのバグ。もう一つは、そういうモンスター、シャンフロで出会ったマッドディグというモンスター。
あれは沼地を泳ぐモンスターだったはずだが、水のない砂海さえもまるで沼のように泳いでいる。
さらに一瞬見えた名前。
『【潜回竜 ミーヌス・ドラコーン】、こいつも<UBM>、どうなって』
町の外にいた<UBM>は一体だけではない、二体いるのだ。
空を泳ぐクジラ、【保鯨仙雲 プリュース・モーリ】
そして地を泳ぐ海竜、【潜回竜 ミーヌス・ドラコーン】。
それら二体が全く同じタイミングでこの<闘争都市>デリラに攻めてきたということだ。
おまけに厄介なこともある。
地中にいるモンスターへの対抗策がまずないことだ。
せいぜいで地上に出てきた瞬間を狙ってカウンターすることぐらいだが……超音速で動く生き物を相手にカウンターができるのかどうかは不明。
ここで、レイはミスをした。
次々と湧き出る<UBM>や超級職ティアンといった敵を前にして、「どうやって倒すか」に思考が偏っていた。
それ自体は間違いではないが、正解でもない。
<UBM>自身には闘争する気がない。
だから、何を狙うのか、把握していなかった。
捕食者は、一番弱いものを狙うことを失念していた。
地を進む海竜がその口を開けて、シオンに迫る。
「シオン!」
「GUA!」
「ぶごっ」
とっさにグライが割り込んで【潜回竜】を阻む。
超音速の動きに、
わずかに体勢を崩され、結果として竜のアギトは彼女を食い損ねた。
だがグライも無傷ではない。純粋なパワーで押し負けたことに加えて質量に差があったこともあり見てすぐにわかる傷を負っていた。
「あ、あのグライさ」
「すまない、シオン」
戸惑いながらも、彼女を助けてくれたことに礼を言おうとしたシオンを遮って、グライは謝罪する。
「約束は、守れなくなった」
「っ」
約束、それはかつて、初めて会った時に交わした、約束。
彼女を守りドラグノマドの孤児院に送り届けること。
それを守れなくて済まない、と。
「GUUUUUUUAAAAAAAA!」
『おい、後ろお!』
隙があると見て取ったか、【潜回竜】がシオンとグライのほうめがけて突撃してくる。
超音速の突撃は、たまたままぐれ当たりでもなければ何も対処できない。
そのはずだ。
仮に運よく反応できても、どうにもならない。
伝説級<UBM>のSTRは五桁にいたる。
並大抵の防御力では防げず、攻撃力でも打ち勝てず押し負けるのがおちだ。
実際、グライも先程たやすく力負けしていたではないか。
だがしかし、それは。
「《偽身暗技》――解除」
彼が<UBM>としての全力を出していないからに他ならない。
自身のステータスを制限する代わりに、自身の肉体を変貌させるスキルを解除する。
瞬間、爆発的に腕が膨張する。
彼の腕は爬虫類を思わせる鱗と、鳥を連想させる羽毛で覆われていた。
何よりその腕は竜や巨人のように太く、大きかった。
その腕で、突進する竜を受け止めた。
今度は、押し負けなかった。
「GU、GUUUUUAAAAAAAA」
「逃がさねえよ」
【潜回竜】も、今度は危機感を感じたのか彼の元を離れようと、地中に逃げようとする。
だが逃げられない。
【潜回竜】の《地中潜入》は、何者かと接触状態にある場合は使用できず、グライが彼をつかんでいるため機能しない。
振りほどこうにも、彼と同等の筋力しかない以上は逃げられない。
じたばたと暴れることによって、グライの体にはいくつも傷ができているが……それでもしっかりつかんで離さない。
『シオン、俺は、人間じゃない』
「……はい」
それはもう彼女にもわかり切っていた。
彼女のようなティアンの子供でも、いやティアンの子供だからこそ《真偽判定》の重要性と信頼性を知っていたから。
そして、目の前で変貌していくグライが見えているから。
変形は彼の腕だけにとどまらない。
足が、胴が肥大化していく。
頭部も卵型――人間のソレから、本来の形へと変じていく。
顔の形が人のソレから離れたせいか、声さえもくぐもったように変わっていく。
あるいは変じていくという表現も適切ではないかもしれない。
ーー本来の姿に戻っているだけなのだから。
『ましてや、お前を救う神鳥でもない、その逆だ』
「……?」
その様を一言で説明するならば、
四肢は鱗と羽毛で覆われ、強靭な鉤爪が生えている。
骨格は人と比べて猫背気味であり、鞭のような尾が飛び出している。
頭部は、肉食恐竜のソレになっている。
何よりそれらすべてが赤いオーラ――《竜王気》に覆われている。
そう、グライ・ドーラというのは偽名である。
少し補足しよう。
彼が、彼の
そう、彼の真名こそは。
「【偽竜王 ドラグライ】――お前の村を滅ぼした元凶だ」
To be continued
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