<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
今後ともよろしくお願いします。
■???
ソレらは、街の外にいた。
ソレらには、街の中に狙っているものがあった。
ソレらは、本来ターゲットが街の外に出てから狙うこともできたはずだった。
されどソレらには、そういった手段を選ぶ権利はなかった。
だから……ソレらは街に攻め入らなくてはならなかった。
□【猛牛闘士】サンラク
『何でだ?』
おかしい。あまりにもこの状況はおかしい。
疑問が声に出てしまう程度には、奇妙だ。
それは、グライに対してのものではないし、【杖神】に対してのものでもない。
この場にいるものに対しての疑問ではない。
『何で誰も来ない?』
「同感だ」
いきなり襲ってきた奴に共感されるのは不服だが、それはいいだろう。
そう、【杖神】も疑問に感じている通り、誰も来ないのだ。
それなりの声量で、こいつの言葉ーー真実の証言が響き渡った。
ここに<UBM>がいるという情報が響き渡った。
なのに、誰も来ない。
普通に考えれば、ありえない。
<UBM>はゲームとして考えれば、倒すべきコンテンツだ。
それは倒して特典武具を得るべき、という一人のゲーマーとしての意見であり、同時に、街中に潜伏するモンスターがいたら、倒すのが自然なんじゃないか?という一人のMMOプレイヤーとしての思考だ。
だが実際は誰も現れない。
<UBM>を殺そうとする者も、特典武具争いにおいて、邪魔者である俺やレイを排除しようとする者も、事態を傍観しようとするやじ馬も、ティアンを守ろうとする介護勢も、誰も来ない。
【杖神】が何かした、ということはないと思う。
こいつの狙いは、おそらく不特定多数を呼び込むことによる攪乱、そして
俺たちがその言葉を聞いて、<UBM>を守る意思を失えば、それでよし。
失わなければ、呼び込んだ特典目当ての<マスター>が邪魔ものと判断して、サクッとキルしてくれるって寸法。
「<UBM>をかばっている」とこいつが証言すれば、だれもこいつを疑わないだろう。
だから、純粋な疑問。
どうして、誰も来ない?
「あー、なるほど」
【杖神】は、腕時計のようなものを見て、どこか納得している様子だった。
「こりゃ増援は望めない……。自分で何とかするしかないね」
『それはどういうっ!』
レイが聞き出そうとした瞬間、あたりが暗くなった。
陽が沈んだわけではない。
単純に、見えなくなっているだけだーー何かが影になって。
『なんだ、あれは?』
それは鳥ではない。
それは羽虫ではない。
ましてや、ロボットでもない。
それは……空にいる生き物としては違和感が強い生き物だった。
それは、空を飛ぶクジラだった。
『レイ、名前は見える?』
『確認できました、サンラク君。あれはーー<UBM>です』
《遠視》のスキルを使って俺も確認する。
【保鯨仙雲 プリュース・モーリ】、ね。なるほど間違いなく<UBM>だ。
あの鯨は街の外にいるが、俺達もその近くにいる。
場所が近いゆえに、声を聞いた連中があっちにいる<UBM>と混同したんだろう。
それでこっちには誰も来ない。
多くの<マスター>が鯨雲を討伐しようとしているようだが、高所にいるからか、攻撃がそもそも届いていない。
多分、あっちの<UBM>に意識が向いてるせいだろうな、人が来ないの。
もしかしなくても勘違いされてない?
あいつが【杖神】の言う<UBM>だと思われてない。
「とりあえず、特典が先だな――《ロンゲスト・ステッキ》』
ケインの杖が伸びていた。
伸びた、ではなく、伸びていた、という表現が正しい。
ただ伸びるのではない。気づけば、長さが変化していたという感じ。
バグ技みたいだな。そういえば、ティック曰く、戦闘系の【神】は空間操作系のスキルを発明し、使うことがあるらしい。
つまりはバグ技を生み出すわけだ、便秘かな?
それが導き出すのはどういうことか。
すなわち、不可避の速攻であり。
「くおっ」
グライは今度は致命打を負わなかったらしい。
というかなんだあれ、何かで杖の攻撃を止めている。
あの赤いオーラ、これがこいつの<UBM>としての固有スキルってやつか。
ただ、明らかに大ダメージを負っている。
「っ」
とっさ、グライがシオンを見る。
なんで今そっちを見る?
レイがキヨヒメを抱えて何発か射撃をするが……全部弾いてやがる。
俺の攻撃もまるで通らない。
追尾してくる魔法の弾丸はすべて弾いて、触手と俺の腕を使った斬撃や打撃は全部受け流される。
速度は俺達の方が倍近い差があるはずなのに、だ。
戦闘系の超級職は技術が化け物とは聞いてたが……本当にバケモンだな。
これに純粋な技術で勝てるのは、リアルだと故・竜宮院富岳氏か、あるいはレイドボスさんくらいのものだろう。
俺のコンディションが万全ではないというのもあるのだろうが。
そもそも、俺が今やっていることは正しいのだろうか。
このゲームのシステム的に、<UBM>の特典武具はオンリーワンのアイテム。
俺はもうすでに複数持っているが、そんなユニークアイテムなどいくつあっても困らない。何ならぶっちゃけあと二つ三つ欲しいまである。
このゲームのコンセプトは、「あなただけのオンリーワン」。
<エンブリオ>をはじめ、異常なほど種類のあるキャラメイクやジョブシステムもそれを後押ししている。
だからここで<UBM>討伐を優先しないのは、このゲームの理念に真っ向から逆らう形になる。
それに加えて、下手な立ち回りを見せれば、重要NPC――ステラがロストする危険性もある。
だから、本来グライ・ドーラを倒すべきで。んごごごごごごごごご。
『サンラク君』
そういわれて、とっさに振り向いた。
見えているのは、
以前、自分がくだらないことでうじうじと悩んでいた時と同じ。
違うのは、その鎧の奥に
『楽しみましょう、サンラク君』
――ああ、そうだ。
彼女はいつだって、俺が迷っている時、それを言い当ててくれる。
『ハハハハハハハハ!』
やることが、決まった。
『レイ!いったんステラとシオンたちを連れて退避してくれ』
『わかりました。サンラク君は』
レイが、シオンやグライを連れて超音速で走り出す。
『俺はこいつをぶっ飛ばす!』
「舐められたものだな」
俺の斬撃をまた受け流そうとして。
流しきれずに、逆にその身を真っ二つに斬られる。
刹那、【杖神】のブローチが砕け散る。
「っ、《斥力掌》!」
手袋から斥力が発揮されることによって、俺の体が弾かれ、後退する。
「小細工を……」
『どっちかっていうとごり押しじゃね?』
「そうかもな……先程より速い」
何のことはない。
俺がさっきより速く動いたから防ぎきれなかった、ただそれだけの話。
あいつは、向かってくるこちらの攻撃を完璧にさばき、さらにはカウンターまで決めていた。
それは見事な技術ではあるが……逆に言えば、俺に対しては相手を待ってカウンターすることや、防御することしかできないということだ。
交錯の直前、《
先ほどと同等か、それ以上にキレのある攻撃を、早送りでやればどうなるか。
少なくとも、初見で捌けるはずもない。
まあ、多分二度目は通じないんだろうけどな。
「なぜ、そいつらを庇う?人としての大義や心はないのか?」
『子供を殺そうとした外道が、大義とかいうの?』
いや、マジで意味わからんのだけど。
こいつ本気で言ってんの?
「あれは、あの餓鬼を使って隙をつく必要があったからだがな。それで、お前は何のためにそれをする?」
『俺はこのゲームを楽しむために来た』
「?」
ああ、そうだろう、わかるまい。わかるはずもない。
ティアンには、リアルのことなんてわかるはずもない。
ここがゲームであることを知るはずもない。
それでいい。
『それが、俺の自由でわがままだ。道理とか大義とか知らん』
「……なるほど」
ケインは、うんうんとうなずいてる。
「これだから、<マスター>は」
どうやら、話し合いはできないらしいとこいつ
当たり前だよな、当然最後は肉体言語だな。
互いに戦意をむき出しにして、向かい合う。
俺は触手を展開して、無数の武器を展開し。
【杖神】ケイン・フルフルは体にまとった無数の特典武具のスキルを起動して。
「【杖神】ケイン・フルフル」
『”怪鳥”サンラク』
一人は、己の就くオンリーワンのジョブの名を。
もう一人は、自身の
『「勝負!」』
開戦。
To be continued
・《サプライズ・インパクト》
空間を操作して、
チャージ時間が必要であり、なおかつ特定の座標に攻撃するためかわされる可能性もある。
・《ロンゲスト・スティック》
空間を操作して杖を伸ばす。
《空間希釈》に近い。
ただ杖を伸ばすのとは違い、ノータイムで杖が伸びる、「伸びた状態になる」ため、回避が難しい。
普通は長いと折れやすくなるけど、そうはならない。
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