<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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そして評価2000超えてました。


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今後ともよろしくお願いします。

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竜と鳥、砂の海で漂う 其の二

 □■<闘争都市>デリラ・門の手前

 

 

「――《引力掌》」

 

 

 瞬間、シオンがふわりと浮き上がって。

 あらぬ方向に移動する。

 まるで、見えない何かに吸い寄せられるように。

 

 

「シオン!」

 

 

 とっさに反応したのは、グライだけだった。

 俺とは違う、NPCを守るクエストを負っている、というその意識の差。

 だが、しかしそれは致命的な隙であり。

 

 

「《サプライズ・インパクト》」

「……っ」

『ん?』

 

 

 グライ・ドーラの【ブローチ】が砕け散った。

 何かしらの攻撃を受けたらしい。

 それも一撃で死ぬはずの致命打を、だ。

 

 

『ここは任せた!』

 

 

 シオンたちを置き去りにして、攻撃を仕掛ける。

 やられる前に倒す!を流儀としている。

 銃を撃たれる前に、矢を放たれる前に刀で切れば解決って幕末でも言ってた。

 なおそれを言っていた本人は、心理学と医学と数学と統計学をがちがちに使いこなすバリバリの理論派だった。

 ギリギリランカーになれてない、くらいの人なんだがだからと言って舐めてはいけない。

 斬った張ったの関係性なのだから。

 

 

「《ミニマム・エンデュランス》!」

 

 

 接近すると同時に《瞬間装備》したのは【ミニマム・アックス】。

 相手が何であろうとその強度を無視してぶった切る、攻撃力に欠ける俺のために作られた武器。

 街中でNPC奇襲してきたんだ。

 さすがにおいたが過ぎるだろう。

 確か、犯罪者相手や正当防衛の場合は殺しても問題ないっていうのが<Infinite Dendrogram>というゲームだからな。

 

 

「なるほど、強度無視攻撃か、厄介な」

 

 

 刃が素通りして、俺の【ブローチ】が砕け散った。

 

 

『っ!』

「ふむ、やはりね。防御を無視できるのは刃が通ったときだけ、《剣速徹し》と同様の原理だったというわけだ」

 

 

 こいつ、やってくれやがった。

俺の超音速の斬撃を受け流して、そのうえでカウンターを決めやがった。

 俺よりも遅かったのに(・・・・・・・・・・)

 今の一合で分かった。

 こいつのAGIは亜音速か、それより少し速い程度。

 速い部類ではあるが、俺が勝てない相手ではない。

 だがわかる。純粋な技量で、こいつは俺を上回っている。

 ゲーマーではなく、武術家としての技量だろうか。

 

 

「こ、このひと、もしかして」

『質問。この人物について何か知ってるの?ステラ』

「し、知ってるもなにも」

 

 

 わなわなと震えながら、ミステリさながらのごとく指をさしてステラは叫んだ。

 お前そのポーズ、ヒステリーな女感がすごいな。

 ノベルゲーでちょっとミステリーもやったからな、俺は詳しいんだ。

 ガチでなぞ解きをさせるミステリークソゲーがあってなあ、あれの何がクソって内容じゃないんだよ。

 なぜかゲームをするのに「絶対にネタバレをしません、やったことが発覚した場合罰金を払います」という膨大かつ意味不明な誓約書を書かされることなんだ。

 たしかにネタバレ抜きでなぞ解きを楽しんでほしいという気持ちはわからんでもない。

わからんでもないが、それで新規客が入ってこなかったらネタバレもくそもないだろ。

 ちなみに、クオリティ自体は高かったものの、入手難易度の高さから、まったくといいほど売れなかった伝説のクソゲーだ。

 誓約書以外に面接までやってくるの頭おかしいよ。

 大学生で、比較的自由な時間があったからよかったものの。

 

 

「なんで、ここにあなたがいるの?“神殺の六”【杖神】ケイン・フルフル!」

「おや、俺のことを知っている人がいるんだな」

 

 

 “神殺の六”?何だったっけ?

 まるで思い出せないが、ステラの知り合いってことだろうか。

 つーかこいつNPCなのか、気づかなかった。

 倒してしまうと面倒なことになりそうだ。変なイベント発生してステラやティックとの関係が悪化するのだけはごめんこうむりたいんだが。

 

 

「ああ、その容姿、なるほどなるほど」

 

 

 問題のケインとかいう奴は、何かに気付いてようにステラに目線を向けているが……その実露骨に距離を取って警戒している。

 

 

「君はルナティックとサンの娘か。二人とも元気にしているかな?」

「……お前!」

 

 

 あ、よくわからんけどステラの地雷踏みやがったぞケイン。

 しっかし杖使いが(ケイン)か。

 覚えやすくていいけど。

 あ、そうだ思い出した、こいつティックとかロウファンの昔の仲間ってやつか。

 他には確か、【泥将軍】とかいうスライム操っている奴と……アキ、アキ、秋津茜?みたいな感じのやつがいた気がする。

 思い出せないけどまあいいや。

 しかし、ティック以外は全員死んだと思ってたんだがな。

 【泥将軍】なんかは老衰で亡くなったらしいってティックから聞いてるし。

 何でも死の間際に「好きにしてくれ」と、配下であるスライムの多くを託されたらしい。

 冷静に考えると大概外道よな。普通に考えて、自分のペットを死ぬ前に肉屋や革屋に「好きにしてくれ」って頼むか普通っていう話なんですよ。

 余り考えても意味はないかもしれんが、もし俺のお袋が死ぬ前に虫を託す、とか言ったらどうしようかなあ。

 日本にいる奴は逃がすとして、海外系のやつはペットショップで買い取ってもらえればいいか?

 しかしあまりにマニアックな奴は買い取ってもらえないだろうし。

 いや、あの人多分死ぬ前にどうにかするだろうな、多分。

 【幻姫】サン・ラクイラも、不慮の事故でなくなったらしいとステラが言っていた。

 ティックはそれについては触れてなかったしそれかんけいのイベントがあるのかもしれんが、まあどうでもいい。

 

 

「君たちに訊きたいんだけど、なぜそいつに肩入れする?<マスター>なら、そいつに肩入れするなどありえないはずなんだけどな。少なくとも、俺の調べた範囲でそういう行動をとる<マスター>はいない。もしかして、気づいていないのか?」

『なんの話ですか?』

 

 

 レイも不機嫌そうだが無理もない。

 攻撃を仕掛けてきたのは向こうの方なのだから。おまけに何か自分には大義がありますって顔と口調なんだよな。

 <マスター>を攻撃するのならともかく、ティアンを襲った時点で法的にアウトだ。

 なのになぜ?

 

 

 彼はアイテムボックスから一つの指輪を取り出した。

 それは【拡声の指輪】といわれるアイテムであり、自分の声を周囲に届けるためのものだ。

 ちなみに機械を通しているわけではなく単純に自分の声を拡大しているだけなので、《真偽判定》に引っかからないという特徴がある。

 それ故に、演説などに向いている、と鉛筆から聞いた。

 いったいなぜその効果を把握しているのか、どう使ったのか、何のために使ったのかあいつは全く言わなかった。

 正直聞きたくもないが、それはともかく。

 まあ結論を言ってしまえば。

 真実を暴露する、まき散らすために活用されるアイテムであり。

 

 

「聞け!ここに<UBM>がいるぞ!」

 

 

 そんな風に大声で叫べば、町中に伝わってしまう。

 

 

『は?』

『レイ』

『はい、サンラク君』

『……《真偽判定》に反応はあった?』

 

 

 彼女は、彼女にしては珍しく言いよどむ。

 時折見せるようにバグるでもなく、普段のようなしっかりと答えるでもなく。

 しかし、おもむろに口を開いて。

 

 

『ありません』 

 

 

 《真偽判定》には、反応はないと断言した。

 ――そしてそれこそが問題だった。

 

 

「どう、いうこと、ですか?」

『…………』

 

 

 シオンも戸惑っているのが見て取れる。

 いや、彼女の戸惑いはたぶん俺たちの比じゃないだろう。なにせ一緒に過ごしてきた時間が違う。

 戸惑っているのは、なにも把握できていないからか。

 あるいは、俺と同様に、ある結論に到達していたからか。

 それはつまり、ここに<UBM>がいるということだからだ。

 俺やレイ、キヨヒメではない。<マスター>や<エンブリオ>は<UBM>にはなれない。知っている、わかっている。

 NPCとして長くかかわってきたステラでもないし、NPCであることが確定しているケインでもない。

 NPCも、人間である限りはーージョブに就いている限りは<UBM>になりえないと知っている。

 さらにシオンでもない。

 もしそうであれば、彼女は話した過去は何であったのか。

 《真偽判定》に反応があったはずである。

 では、人間であると確定していないのは誰か。

 それは。

 

 

「グライさん?」

「…………」

 

 

 正体を乱入者によって暴かれた<UBM>は、何も言わない答えない。

 ただただ、黙ったままだった。

 

 

 To be continued

 




・【杖神】

 詳細は追々ですが、彼はステラの母が死んだことを知りません。
 彼は煽りとかではなく普通に訊いてます。
 まあステラはそうは思わなかったんですが。

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