<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
感想、いただけると大変うれしく思います。
□【猛牛闘士】サンラク
『あー、これは仕方ないか』
しゃーない、どうしようもない。
いくら【プリズンブレイカー】といっても、転移と必殺スキルのコンボには耐えきれないだろう。
そもそも、こっちは速度に突出してるんだよ。
瞬間移動されたらどうしようもないだろ。
こっちは《逃非行》のチャージもまだ終わってないし、《豊穣なる伝い手》でもシルヴィアの必殺スキルは防げない。
だから。
『必殺スキルを使う以外に、仕方がないよな』
出来れば使いたくなかった。
身近なところではレイがそうだが、必殺スキルはデメリットが大きいものも多く、負け筋にもなりえる。
俺の必殺スキルもデメリットが大きく、今まで使ってこなかった。
使う場面は、本来なら来ない方がいいくらいだ。制御難しいし。
だが、そんな甘いことを言っていられる相手ではない。
『《
俺は、ケツァルコアトルの必殺スキルを起動した。
□■<闘争都市>デリラ内部・闘技場
「これは、どうなってるの?」
AGAUは戸惑っていた。
《
必殺スキルの《蒼星》は、脚部のブースターから火炎を放射する大技だ。
その威力は、超級職の奥義である《真火真灯爆龍覇》に匹敵する。
その代わり、一度使えば
また、通常のスキルと比べて、MPの消費も大きい。
火力面でも、コスト面においても、短期決戦用のスキルである。
左足のブースターはもう動かないが、まだ右足のブースターがまだ機能している。
しかし、それが問題だった。
まだ左足のブースターのみが動いていないということは、闘技場の結界が解除されていないということ。
サンラクはまだ、生きている。
【殿兵】の《ラスト・スタンド》で残っている可能性はーーない。なぜならすでに必殺スキル使用から五秒は経っている。
では、どこにいるのか。
「っ」
それが、いつからのことかはわからなかった。
いつの間にか、全身に傷ができている。
【出血】、【吸命】、【恐怖】の状態異常になっている。
目にもとまらぬ速さで攻撃されたのだと、知る。
さらに、ブースターが壊されて、上手く飛べない。
とりあえず、重力にしたがってAGAUは地面に降りる。
そして見た。見えてしまった。
自分を攻撃したものの正体が。
「まるで
『いい得て妙だな』
ソレは、人と台風と鳥を混ぜたような何か。
首から上は、鳥の覆面で覆われ、腰蓑と蛇革のブーツ以外は身に着けていない。
そして、全身が所々、渦巻いている。
まるで人の体と竜巻が融合している。
ソレこそがーーサンラクの切り札、《風神乱舞》。
◇
サンラクの<エンブリオ>、TYPE:ルール・アームズ、【機動戦支 ケツァルコアトル】。
その能力特性は、機動力。
装備枠を犠牲に、速度を引き上げる《風の如き脱装者》。
自身の速度に比例して、自身の攻撃の反動を軽減する《風除けの闘走者》。
円盤状の結界を展開して足場を作り、空中戦を可能にする《配水の陣》。
戦闘時間に比例して速度を引き上げる《回遊する蛇神》。
自分の分身を作り出し、本体を隠蔽することでよりいっそう自由な動きを可能にする《
腰蓑から触手を展開して、行動の補助とする《
それらはサンラクの速度特化、機動力特化のスタイルを参照して決定されたものだ。
そしてそれは、この必殺スキルも例外ではない。
必殺スキルは、全ての<エンブリオ>において、例外なく今までの<エンブリオ>の集大成。
それゆえに、ケツァルコアトルの必殺スキルもまた、機動力に特化したもの。
《
アルター王国の決闘ランカーには、自分の体を炎熱に変える<エンブリオ>の<マスター>がいる。
《風神乱舞》もこれに近いスキルだ。
今、サンラクの体は人間と風のエレメンタルの中間のような存在になっている。
自重を極端に軽くすることで、AGI以上の速度を出すことが可能。
その速度は、AGIに換算すれば、五万を優に超える。
<エンブリオ>でかろうじて超音速起動している彼女では対応できない。
サンラクは、【プリズンブレイカー】を展開すると同時、すぐさま《製複人形》を使用。
自身は身を隠しつつすきを窺っていたが、結果としてすぐに《製複人形》が破壊されてしまったので、必殺を切っての正面突破に切り替えた。
「まるで、ハリケーン、ね」
風のように動きながら、弾幕の雨をまき散らしてくるサンラクは、なるほどハリケーン、或いは
「《渡り鳥》」
【凶星天衣 ミーティア】のスキル。
闘技場の端まで移動する。
『やっべバレてる』
《看破》によって、見切られたのだろう。
この必殺スキルの使用をためらっていたのは、闘技場での使用すらためらわざるを得ないデメリットがあったからだ。
《風神乱舞》は、わずか
なぜならば、スキルのコストとしてSP上限が削れていき、一分間でゼロになる。
一分間しか使えなくなることに加え、SPが減れば当然ほかのスキルを使用できなくなる。
だから何とか追いつこうとして、直線距離を移動して。
「最後に笑うのは、ヒーローだよ、
読まれた、とサンラクは気づく。
ヒーローが、その足を高く掲げた。
見えていた、知っていた。
彼女は、必殺スキルを左足のブーツで撃っていた。
それはつまり、右足のブーツは無事であるということ。
それを危惧し、確かに右足のブーツも狙い、大破させたはずだった。
すでにボロボロ、飛行もできない。
だが、一度業火を放つだけならば十二分。
「《
宣言と同時、ブーツが右足ごと爆ぜる。
それによって蒼い炎が拡散し、飛び散る。
爆散し、拡散した炎は、サンラクはもちろん放った本人も巻き込む、地獄の業火。
しかして。
『耐えた、な』
「お互い、さまだね」
触手を全身に巻き付けて。
HPの大半を失って、それでもまだサンラクは生きている。
シルヴィア・ゴールドバーグも無事ではない。
爆発によって右足を失い、全身が燃えている。
本来なら回復すれば済む話だが……。
「回復、いや、間に合わない!」
『おおおおおおおおお!』
回復される前に、サンラクが超音速機動で突っ込む。
お互いのHPは残り少ない。
一撃でも当たれば、それが互いの致命傷となる。
サンラクの、《瞬間装備》して手に持った紅い打刀ーー【レッド・バースト】が。
シルヴィアの左足一本による飛び膝蹴りが。
「ごふっ」
『ぐえっ』
お互いに命中した。
さすがの最強プロゲーマーと言えど、片足一本では、サンラクの攻撃をかわしきれず。
サンラクも、予想だにしなかった彼女の蹴撃を避けられなかった。
お互いが与えた攻撃は、まず間違いなく致命傷。
今の一合だけ言えば、或いはサンラクの負けといえるかもしれない。
勝ちに近づいていたはずの盤面を、ひっくり返す、それが最強だといわんばかりに。
二人のHPゲージが急速に減っていき、ゼロに近づいていって。
彼女のHPはゼロになり。
ーーサンラクのHPは
サブジョブとして入れていた【殿兵】の《ラスト・スタンド》。
食いしばるだけのスキルであり、その食いしばりもわずか五秒。
されど、その値千金の五秒が勝敗を分けた。
<闘争都市>デリラ、トーナメント本戦、二回戦。
サンラクVS
勝者、サンラク。
To be continued
お金に余裕がないので、シャンフロ特装版だけ買いますかね。
そろそろ三章終わります。