<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□【猛牛闘士】サンラク
さて、シルヴィアたちとの試合に備えて今後どうすべきが問題となってくる。
町の外で狩りをしてくる……というわけにもいかない。
万が一にもデスぺナすれば、大会には参加できなくなってしまう。
そんなことがあればどうなるのか。
外道共には散々に煽られ、まず間違いなくルストにはぶちぎれられた挙句、決闘を挑まれるのが目に見えている。
下手をすると、ネフホロ2に引きずり込まれるかもしれない。
シャンフロシステムが組み込まれたこともあって過疎ゲーどころかユーザーは大量にいるんだから、わざわざ俺を引きずり込まなくてもいいだろうに。
まあ、やってはいるんだけどさ、やっぱりメインにはしてないんだよね。
クソゲーは常に量産され続けている。
俺は定住せずにあちこちの
それはともかく、とにかく無理やり引きずり込まれるのは勘弁していただきたいところだ。
さらにはシルヴィアには別の機会に決着を付けようといわれ、よくて日本で顔隠しをやることになりーー最悪の場合はアメリカまで引きずられていくことになる。
ましてや俺は紙装甲の速度特化。
範囲攻撃に長けたモンスターに出くわせば一瞬でデスぺナしかねない。
そもそも現状、俺はレベルカンストした状態である。
つまるところ、いくら狩りをしたところでレベルが上がるわけでもない、ということだ。
そういうわけで、俺にできるのは、街中を歩いて武器を発掘しに行くことぐらいなんだが。
『ねえなあ』
「そうですね」
「……同感、わざわざ買うほどのものはない」
おいやめろキヨヒメ、こっちがあえて悟られないようにうまいことぼかしてるんだから余計なことを言うんじゃない!
ああ、向こうの武器屋、無言でこっち睨んでるよ顔が怖いんだよ。
いや、武器があるにはあるし、上等な武具もないわけではないのだ。
さすがはカルディナというべきか、闘士系統を治める中で習得した《鑑定眼》を使って視てみれば、確かに高品質の武具が販売されている。
なんなら、
だがしかし、無いのだ。
俺が満足できるような武具が。
「そりゃそうでしょ、パパがアンタのために作ったオーダーメイドの武具と同等のものなんてそれこそ特典武具くらいよ。もう少しアンタはパパの偉大さを実感しなさい」
『はいはい、実感してる』
とりあえず、カルディナで素材乱獲してまた装備造ってもらおう。
レジェンダリアとはまた違った素材があるからね。
昨日狩りをしたときに大半は売りに出したんだけど、いくつかいいものは残してあるんだよな。
『あれ』
あの二人は確か。
おっとどうやら向こうもこっちに気付いたっぽい、こっちに歩いてくる。
「ああ、昨日の。確か、サンラクだったか?」
「こんにちは、鳥の人」
『ああ、どうも』
おい、シオンよ。鳥の人ってなんだ?
まあ鳥のお面かぶって空中を移動してたら、鳥の人扱いもされるか。
普通の人間は空を飛べないからなあ。
こっちには基本的に飛行機もないし。ああでも、ルストの【赤人天火】は飛行機に近いかな。逆に言えばあれくらいしか見かけない。
何でも、航空機の類は飛行モンスターに対抗できないから、というのが主な理由らしい。
逆に言えば、あいつのーーあいつらの兵器は飛行モンスターさえもものともしないってことだ。
実際当たり前のように砂漠でモンスターを狩っているのを見たし。
純竜クラスのモンスターとかもぼこぼこにしてたからなあ。
決闘ではルストに勝ったが、多分あいつらの本領は、決闘では十全に発揮されていない。
彼女が手を抜いていたわけではないし、そこは微塵も疑っていない。
初手で奇襲を仕掛け、囮として二機を使い捨て、おそらくは最強と思われる機体で決戦を仕掛けてきた。
一対一では、三割も発揮されていないだろう。
いずれ機会があれば、二対一で挑みたいものだ。
「あー大丈夫か?」
『いやいやごめんごめん、ちょっと意識が空に飛んでただけ』
「そ、そうか、まあ<マスター>ーー常識の埒外にいる人間ならそれが普通か?」
「やっぱり……鳥の人」
鳥の人って……もしかして名前覚えられてないんか?
別にいいけど。
『あの、サンラク君、こちらの方々は』
「ひっ」
いや、ひっていったかシオン。
そりゃあ確かに一見いかつい鎧戦士に見えるかもしれないが、中身は可愛らしいんだぞ。
まあいいや、そこを追求すると墓穴掘りそうだし。
『レイ、この二人は昨日ばったり会ったんだよ。男が<マスター>のグライで、女の子がティアンのシオン』
「グライ・ドーラだ、昨日サンラクに助けられたんだよ」
「シオンです、先日はありがとうございました」
『あ、ええと、私はサイガ‐0と言いまして、彼のパーティーメンバーです』
「……挨拶。私はキヨヒメ。母上……サイガ‐0の<エンブリオ>」
「ステラよ、同じくパーティメンバーね」
◇
立ち話もなんだから、と俺たちはカフェに行くことになった。
いや値段高っ!え、ジュース一杯でこんなにするのかカルディナ。
やっぱこっちの物価には慣れんわ。
グライは、店に着くなりトイレに行ってしまった。
『それで、あんたらはトーナメントの観戦してたのか?』
「いいえ、私がその、見たくないと無理を言ったので」
『あー』
いやよく考えてみればそれもそうだ。
キヨヒメとかと行動してて麻痺してたけど、よく考えたら、こいつは子供だもんな。
普通に考えて、そういうのを見るのには抵抗があるものだ。
今でこそ、尋常ならざるグロ耐性を獲得している俺だが、そうなるには長い訓練が必要だった。
辛かったなあ、魚を捌き方を教えてくる父親。
辛かったなあ、虫の捕食シーンを「面白いでしょ?」とキラキラと目を輝かせながら見せてくる母親。
俺そのとき七歳とかだったんだけど。
まあ、結果として今はもう何も思わんけどな。
鯖癌でゴア描写の類は慣れた感ある。
あれはまあ、一一グロ描写にビビっていられないというか、自分でグロ描写を生み出すゲームなのでさもありなん。
いくら傷が治るとはいえ、血は出るし骨や内臓が見えるとかざらだし。
闘技場にそういった法制度があるのかわからないが、リアルで考えればR15だ。
見たくないと思っても無理はないだろう。
「実は、故郷が地竜に襲われまして」
『え』
「それで、私以外の家族や、村の人たちはみんな殺されてしまって」
シオンはうつむいていたから、一体どんな顔をしているのかはわからない。
ただその声は、震えていた。
シチュエーション自体はありふれているはずだが……その声はありふれているとは思えなかった。
「ですがその時、グライさんが、助けてくれたんです」
おや?
なんだかシオンの様子が。
『グライが?』
「はい!地竜の群れから私を救い出して、さらには私をここまで連れてきてくださって……」
「……素敵」
『素晴らしいですね』
あ、なんかレイとキヨヒメの目がキラキラしてる。
何かしら二人のセンサーに反応するような、共感できることがあったのだろうか。
ちなみにレイは兜外してます。
俺は鳥面付けっぱなしだけど。
「私、グライさんは神鳥様だと思っているのです」
『カミトリさま?』
「私のいた村に伝わる話です」
昔、村と神鳥たちとで盟約が交わされた。
村人は、神鳥を傷つけず、彼等の住処であるオアシスを必要以上に侵害しない。そして定期的に祭りを開き、神鳥に貢物を送る。
神鳥は、村人たちを他のモンスターから守る。
「あの人は、私をずっと守ってくれた人なんです。だから……神鳥様なんだって、私は思います」
『なるほど、ねえ』
ログアウトとかあるだろうしずっとは無理だろうけどな。
いやもしかするとこいつが寝ている間にログアウトしていたのか、もしくはギャラトラの廃人のおじいちゃんたちみたいに無理やり生命維持しながらログインしているのか。
もしかすると、グライがトイレに行ったのは、今までシオンを守るために
あるいはーーいや、別にいいか。
その可能性に言及するのはまずい。当たっていても外れていてもいい結果にならないだろうから。
シオンは、このNPCはグライに救われているし、その事実だけで十分だ。
後まあ、これ完全にあれだな。いわゆる恋愛感情を持っているパターンだよな。
グライがそれを知ってるかは別にして、な、ペッ。
そういえばデンドロでは、プレイヤーとNPCがガチで恋愛したり結婚したりもできるらしいな。
王国だと確かフォルテスラ氏がそうだったか。
あの人、王国にいた時何度か模擬戦したんだけど……あんまり話してないんだよな。距離感がわからんくて。
たとえじゃなく、実際に友達の友達だからね。
To be continued
ダイパリメイク嬉しいですね。
筆者はたぶんブリリ買います。