<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□■とある<UBM>について
【甲虫禁具 プリズンブレイカー】という<UBM>は、元々レジェンダリアの森林に住まうカブトムシ型の魔蟲だった。
モンスターの中では比較的温厚な方であり、自分から争いを仕掛けることもない。
せいぜいで、縄張りに入ってきた外敵を始末するくらいだ。
あるいは、もう少し好戦的な性格をしていれば、古代伝説級に成り上がっていたかもしれない。(それでも暴れすぎれば超級職のティアンなどに目を付けられていた可能性が高いので、今まで生き残れたかどうかはわからないが)
しかし、結果として【プリズンブレイカー】は伝説級どまりであり、そこでサンラク達と遭遇してしまった。
【プリズンブレイカー】にしてみれば、自分の住処の近くに来た珍妙な侵入者を――強者の気配を放つ者たちと戦わない選択肢はなく。
サンラク達の側からすれば、ゲームのレイドボスであり、街に近い危険な生物を討伐しない理由がない。
結果として、サンラク達四人、によって半ば相打ちの形で討伐された。
後衛を担っていたルナティックとステラが無事だったのは幸いだったが。
【プリズンブレイカー】のスキルは主に二つ。
一つは、MPを消費して超硬度のバリアを展開するスキル《白甲展開》。
超級職であるルナティックが作り出し、魔力を込めた砲撃でも壊れないほどの耐久力。
もう一つは、プリズンブレイカーの名にふさわしいスキル《装紅剥離》。
バリアを破壊、飛散させると同時、自身のAGI、STRを大幅に引き上げるスキル。
強力ではあるが、使ってしまうと二十四時間《白甲展開》が使えなくなってしまうというデメリットを抱えた諸刃の剣でもある。
そして【甲剥機甲 プリズンブレイカー】となった際、《白甲展開》……バリアスキルはオミットされ、《装紅剝離》をもとにしたバフスキル《
理由は二つある。
一つは、サンラクという人物の経歴。
MVP特典武具は、本人の経歴やスタイルなどを参照して最もアジャストしているであろう武具になることが多い。(なお、そのアジャストが必ずしも本人の希望に沿うわけではなく、それに対して不平を言う着ぐるみもいたりするが、運営にはスルーされている)
では、参照されるサンラクのスタイルとは何か。
それは「防御を捨てて機動力に特化する」ことである。
触手による防御などもあるが、あれはあくまで副産物。
最初のスキルである、《脱装者》に始まり、基本的に彼のスタイルには防御という概念がない。
それゆえにバリアはシステムによって不要と判断された。
もう一つの理由は、コストとなりうるリソースの不足。
超級職の砲撃をもってしても貫けないほどの強固なバリアを展開するには、当然膨大なMPが前提となる。
そんなものはサンラクにはなく、短時間であってもコストを賄いきれない以上どうしようもない。
ゆえに、サンラクにアジャストしたものとなっている。
耐久値を犠牲にすることで、機体の速度と攻撃力をサンラクの速度の二倍の数値にする能力だ。彼の今のAGIとSTRはジョブによるステータス補正に加え、【猛牛闘士】の回避成功回数に応じてステータスを上げるパッシブスキル、更には<エンブリオ>による補正もあってすでに五桁に達している。
それ故に、今のサンラクは一撃でもあてれば勝てる状態ではある。
――当てれば。
《白き皮、紅き骨》は機体の耐久値を犠牲にして運用されるスキル。
それ故に稼働に制限が生じる。
まして、スキル発動以前にルストによる爆撃で耐久値が大幅に減少している。
後三十秒も持たずに、完全に【甲剥機甲】は完全に自壊する。
赤き巨人が拳を振りかぶり、紅の機械鳥が赤熱させた翼、熱量ブレードをぶつける。
正面からの激突、勝ったのは、【赤人天火】。
サンラクのこぶしに合わせて、ブレードを肘の関節部分に差し込む。
【プリズンブレイカー】の右肘から先が切り飛ばされ、そこから崩壊が加速して右腕が完全に崩れていく。
『っ!』
が、【赤人天火】も無事ではない。
隙をついて【プリズンブレイカー】が右膝を【赤人天火】に打ちこんでいた。
右膝の装甲がはがれるが、膝蹴りで【赤人天火】の脚部が折れ、ミサイルの発射口もつぶれる。
だから、ここで終わりだ。
最後のMPを振り絞り、【赤人天火】からレーザーが放出される。
工作の直後、レーザーが撃ち込まれる。それはサンラクをもってしても回避できず。
『これで、終わり!』
機体のコクピットが爆破されて。
今度こそ終わったとルストは確信して。
『悪いけど、今回はそっちは囮だ』
サンラクが彼女の――彼女の乗る【赤人天火】の後ろにいた。
ひどいありさまだった。
体は焦げ付き、身にまとう
それでも、切り札を切ってここに立っている。
それは、予選含めて一度も使っていなかったスキル。
闘牛士系統上級職である【
端的に言えば、
使用する際に、相手の攻撃を一定回数以上回避しなくてはならないという使用条件がある。
トーナメントでも今までは使えなかったし、使う必要もなかったスキル。
無数のガトリングによる砲火、それに加えてレーザーやミサイル。
それを回避し続けたことにより、チャージは十分。
ごく短距離の……五メテル程度ならばサンラクの限りなく少ないMPであっても転移できる。
【赤人天火】は多数の火器を、兵装を有しているが、一つだけ死角がある。
それは【赤人天火】本体。
当然、それは兵器としては、人が搭乗し操作する機械としては当然の話だ。
しかし、何者かに飛び乗られてしまえば、何もできなくなるという弱点でもある。
『大盤振る舞い、最後のカードも見せてやるよ』
瞬間装備で装備したのは、一本の紅い刃の太刀。
一撃で、今にも折れてしまいそうなほどに薄い。
その刀の名は、【レッド・バースト】。
以前サンラクがルナティックに作ってもらった【シルバー・ブレット】の改良版である。
サンラクが討伐し、獲得した上級モンスターの素材、そして超級職であるルナティックの技術を込めた瞬間火力特化の装備。
一度振るえば壊れてしまうが……そもそもそれを問題視していない、一撃の火力は上級奥義など軽く飛び越える。
ましてやここは闘技場。
傷つこうが、跡形もなく粉砕されようが、自壊しようが関係なく決闘が終わればHPも装備も元に戻る。
ゆえに、今この瞬間、彼に躊躇う理由はなく。
『グッドゲームだったぜ、ルストーー《アームド・ラーヴァ》』
スキルの宣言と同時、刀身が爆ぜ、爆炎の斬撃をサンラクが振るい。
そして、炎熱攻撃によって紅い機体の装甲は貫かれ。
コクピットは蒸発していた。
中にいた、パイロットであるルストも巻き添えにして。
「そ、壮絶なる決着!勝者!【猛牛闘士】サンラクうううううううう!」
直後、闘技場の結界が解除される。
それが決着だった。
<闘争都市>デリラにおけるトーナメント、本戦。
一回戦 サンラク対ルスト。
勝者、サンラク。
□■???
観客席はすべてが埋まっているわけではない。
<闘争都市>デリラはギデオンほどには興行が盛んではないことが理由だ。
ギデオンに比べて、カルディナのティアンは弱かった。
それこそ七大国家最弱であっただろう。
それゆえにカルディナでは決闘はさほど盛んではない。
あるいは表に出せる興行は盛んではない、といったほうが正しいかもしれないが、それはこの際問題ではない。
その中に、ぱちぱちと拍手を送るものがいた。
「なるほど、装甲を犠牲にして、出力を上げているのかあのマスク」
魔法職を思わせるフード付きのローブを着た男、名をケイン・フルフルという、【杖神】の座についている男だ。
「スキル開発の参考になりそうだ。これだから<マスター>は面白い。研究のし甲斐がある」
「そういえば、彼の装備には見覚えがあるな。ルナティックのものか、元気にしているようで何よりだね」
「さて、問題になるのはもう一つの方かな」
ケインは、左手の中にあるレーダーのようなものーーレーダー型の特典武具ーーを見ながら、考えを口にする。
そのレーダーは、危険なモンスターを探知するものだ。
「ハイエンドか、伝説級か、いずれにせよ厄介なことには変わりない。後者の方が得られるものが多くてありがたいが」
「いずれにせよーー俺の糧になってもらう」
□■???
「もしもし、うん、今はトーナメントに参加した<マスター>を見てるよ。何人か面白い人もいるね」
「わかってるよ、すでに町の中と町の外、
「そのうえで、
「ああ、そうそう思い出した。私たちの今後のために、どうしても絶対に確認しておかなければならないことがあってね。それを訊きたいんだけど」
「うん、実はねーー」
「デリラのお土産は、何がいいかな?これといったものが見つからなくて」
To be continued
本日、シャンフロのグッズが発売するそうです。
興味のある方は公式ツイッターをチェックしてみてください。
・余談【甲虫禁具 プリズンブレイカー】について。
ムシキン……いやなんでもありません。
まあぶっちゃけると原作のプリズンブレイカーが某仮面ライダーのオマージュと聞いて、それをさらにオマージュした形です。
余談2
《逃非行》
発動条件がクッソ重い。100÷スキルレベル回ターゲットの攻撃を避けないと使用できないので、実質産廃。(サンラクは5)
今回はミサイルめっちゃ打ってくる相手だからうまくハマった形ですね。