<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
これからもよろしくお願いします。
□【猛牛闘士】サンラク
なるほどなるほど。
まあ無尽蔵の弾幕と、同時に高速で逃げ回る本体っていうのは脅威に見える。
一見脅威に見える。見えるけどさあ。
結局それって。
『舐めプしてるタイプのボスじゃね?』
自分を安全な場所に置いたうえで、遠距離から部下に戦わせるタイプのボス。
戦力を分散させてしまえば、本来の力を発揮できない。
ストーリー的に王道かもしれんが、対戦でそれやるのは悪手だろ。
『見物料として、俺も手札を見せてやるよ』
【豊穣戦帯】から《|豊穣なる伝い手(アイビー・アームズ)》を展開。
緑色の触手が腰蓑が飛び出る。
それはSPを注ぐことで伸長できる。
それを
『気持ちわるっ』
『おい』
おい、今どっかから罵倒が聞こえたぞ。
ふざけやがって。何が気持ち悪いだ。
これは
見た目は全身触手の変態そのものだが。
後ぶっちゃけいくら速度が落ちないといってもそれはあくまでもAGI……数値上の速度に限る。
実際若干動きづらいから、
とはいえ、これで威力の低い弾幕はもはや問題にならない。
そのまま、両手に持った武器……【ミニマムアックス】を構えて突っ込む。
狙いは弾丸の雨を降らせてくる【黄子皆制】ではない。
【衛庫星翠】……厳密に言えば中にいるルスト本体だ。
【黄子皆制】の詳細はわからない。
どうして二体の機体を同時に運用できているのかも全く分からないが……機体の仕様がどうであれ、この闘技場の結界内部においては互いのHPを全損させればすべてが終わる。
序にスクラップにしちまう修理費も兼ねて……あ、闘技場だとそういうの全部回復するのか。
物理防御無視に特化した大斧、【ミニマム・アックス】を緑の大玉にぶつける。
スイカ割りが難しいのは当たるまでだ。
当たらなければどうということはない、それは戦闘系のゲームにおける格言であり、俺のモットーでもあるが、逆もまたしかり。
攻撃が当たってしまいさえすれば、どうということはない。
『《ミニマム・エンデュランス》!』
防御力を無視する斧のスキルによって、たやすく翠緑の装甲が砕け散る。
【衛庫星翠】の装甲が砕け、内部回路が露出するが、構わず斧を振るう。
内部にいるルストを切るまで、止まれない。そもそも内部でパワードスーツを着込んで武装しているのは確定しているのだから。
そして緑ボールのコクピットが露になって。
――その中には誰もいなかった。
操縦かんがロープで固定されており、自動で走るようになっている。
武器を投げるなどして体から離しても、装備スロットから外れていなければ装備品として扱えるしスキルも乗るのは知っていたが、特殊装備品にも適用されるとは知らなかった。
いや、そこは問題じゃない。
問題はここにルストがいないという意味。本人の所在。
『……これも囮か』
黄色のロボットと緑色のボール、いずれもが囮。
では、本人はどこにいるのか。
……いや、まあ、どう考えても一か所しかないわな。
いまだに晴れていない煙の塊を見る。
時間制限があるのか、煙が晴れて。
一つの機体が姿を現した。
『……お待たせ、サンラク』
『チャージ完了。【赤人天火】、行動可能』
それは先日にも見た、機械仕掛けの赤い鳥。
そうだ、それでいい。それがいい。
ルストを相手にするならそれに勝たなきゃ意味がない!
『《ミサイル・ランチャー》、《レーザー・シューター》』
『うわやべっ!』
ミサイルはともかく、レーザーまであるのは聞いてねえ!
とりあえず避けろ避けろ避けろ避けろー!
一発でも当たったら確実に死ぬから!
□■【赤人天火】コクピット内部
初手、とりあえずはルストの策は成功したといっていい。
彼女が最も警戒していた「【赤人天火】に乗り込む前にやられる」という事態は避けられた。
オーダーメイド機体を二つ囮にして、隙を作った。
そして現時点で使える最大戦力である【赤人天火】の起動には成功し、有利な状況を作ることができた。
それでも決して楽な相手ではない。
そもそも並みの相手なら【黄子皆制】と【衛庫星翠】だけで倒せるはずだし……実際に予選はそれだけで突破している。
それはサンラクの実力もあるが、それ以前に彼女自身のMPの問題がある。
ルストの保有している、ヘパイストスで造った機体。
それらはすべて、モルドの<エンブリオ>であるオルトロスのMP供給があって初めて全力を出せる。
例えば、【衛庫星翠】はバリアを周囲に展開しつつ、ブースターを噴射して高速移動するというのが基本戦術だし、【赤人天火】にしても、レーザーやエネルギーブレードなどMPをコストにした様々な兵装が持ち味だ。
しかし、それを十全に使うにはルストではMPが足りない。
【黄子皆制】だけは、子機にMPをあらかじめ貯めておく仕様であるがゆえに運用できているが、他の機体は何かしら制限がついて回る。
特に、切り札である【酷死無蒼】ーールストとモルドが製作した最強の機体ーーに至っては燃費が最悪であり、オルトロスの必殺スキルがあって初めて運用できる。
ルストの魔力では、運用はおろか起動すら難しく、この場では使えない。
加えて、海戦特化の【海闘藍魔】のように、魔力を抜きにしてもこの場では使えない機体も多い。
ゆえに現時点で使えるのは【赤人天火】のみ。
本来ならば、モルドの存在を前提としない決闘向けの機体を製造するべきだったのだが……あいにくと開発期間が足りていなかった。
できたのはオルトロス抜きで操作できるようにするためのコクピットの製作と、【衛庫星翠】の単純な自動操縦用の制御装置のみ。
そもそもルストの魔力で運用できる機体のスペックが低く、彼女を満足させるには至らないというのもある。
それでも亜竜級相当の出力はあるのだが。
『……回避してくる』
ミサイルはあらかじめ作ったストックを吐き出す仕様だが、問題はレーザーだ。
ルストのMPを消費するゆえに、さほど連発ができない。
『……っ!』
サンラクからの反撃。
サンラクが担いでいるのは、ガンランスだ。
背負っていたものを捨て、それと同じガンランスを構える。
使い捨てゆえに出力が高いタイプだろうと察した。
『ーー逆に利用できる』
ミサイルと衝突し、破片が飛び散る。
同時、レーザーを打ち込む。
飛び散ったミサイルの破片が、サンラクのマスクをとらえて。
サンラクが減速した。
【蛇眼鳥面】が破損したことによって、《脱装者》によるAGI強化がなくなり、サンラクの速度が亜音速程度にまで落ちる。
そしてそれを見逃さない。
『《ミサイル・ランチャー》』
【赤人天火】からミサイルが射出される。
一発一発が亜竜クラスにも大ダメージを与えるものであり。
一度に射出できる最大数である六発、それらがすべてサンラクに追いつき。
爆発した。
(仕留めた……?いや、まだ!)
倒したのであれば、結界が解除されるはず。
そうなっていないのは、まだ何らかの手段で攻撃を耐えしのぎ、生きているからだ。
だがそうやって耐えているのか。
『
『……それは!』
体高十メテルほどの、機械仕掛けの巨人。おそらくは《即時放出》したものだろう。
ただし、装甲がほとんどない。
ミサイルの直撃でほぼすべての装甲が脱落している。ごく一部残った装甲は、白銀色。
コクピットに至っては装甲どころか内部が焼け落ちており、まともに操縦できそうにない。
それ以外は細く白いフレームで形作られている。
サンラクは、そんな状況で生きていた。
(直撃は機体の装甲で受けて……余熱は
灼熱地獄のはずだが、サンラクは
腕にあるのはいつの間にか握られていた一本の短槍。
その銘は、【ブリザード・アクセル】。
効果は、槍で攻撃した相手と……自身への凍結。
自身に反動がある――反動を防ぐセーフティーがないゆえに威力は高い。
基本的にはデメリットを《暴徒の血潮》で相殺して、運用するが、今回はデメリットの方をメインに活用した。
炎熱地獄を紅蓮地獄ーー寒さで皮膚が敗れて血が流れる地獄――で相殺した形だ。
しかし、それでもまだサンラクが不利。
AGIで劣っているのだから。
だから。
『《
マスクにさえぎられずに、不敵な笑顔を見せて、たった一言宣言する。
それは、スキル発動の宣言。
伝説級特典武具――【
宣言と同時、白かったはずの機体が赤熱し紅く染まる。
赤と紅、双つの機体が向かい合う。
地に立ち、天を見上げる赤熱の巨人。
天から、大地の巨人を見下ろす紅の機械鳥。
『《ミサイル・ランチャー》、《レッグ・ガトリング》、《ブレイズ・ブレイド》!』
『《配水の陣》!』
ーー衝突。
To be continued
【暴竜王】、ティラノだといいなあ。