<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□【猛牛闘士】サンラク
最強のプロゲーマー、シルヴィア・ゴールドバーグとの再会。
最後に会ったのは確か……ああ、大学受験が終わった直後にゲーム系の番組に呼ばれたんだっけ。
オイカッツォとの三つ巴になり大乱闘になったのがいい思い出だ。
ま、それはともかくとして、だ。
『こいつも来るなら先に言ってくれよカッツォ』
「いや、それ言ったらお前来ないでしょ?」
『来ないけど?』
「だからだよ」
『ええ……』
「ええ……」
いやそりゃ来ないだろ、怖いんだから。
毎年当然のように俺を引き抜こうとしてんじゃないよスターレイン……。
お歳暮貰っても行かないものは行かないから。
後シンプルに怖いから。
いや、送ってくれるもの自体は普通に重宝するからありがたいんだけど、それが逆に怖いんだよ。
どうやってこっちのニーズを把握してるんだろうって話だ。
個人情報も何もあった者ではない。
まあそれはスターレインに限らないけど。
爆薬分隊も含めていろいろ送ってくるのマジで怖すぎる。
あと、ガトリングドラム社な。頼まれても新製品のCMには出ませんのでどうぞお引き取りください。
あといつもありがとう、今後とも活用させていただきます。
今んとこプロとか将来のことは特に考えてないんだよなあ。
将来といえば、斎賀家も割と圧を発してるんだよな。
こう、我能さんとか仙姉さんあたりが割と婿養子的なことを遠回しに言って来る。
まあそっちは別にいいんだけどね。
仮に反対されても結婚しないつもりはないから。
「旅は道連れ世は情けっていうじゃないか」
『情けないメス堕ち野郎が言うと説得力がありますわ』
「お、やるか?」
何が旅は道連れ世は情けだよ。
情けという概念をこの世に持ち込んでいない外道が言うことじゃないんだよなあ。
「久しぶりね!デンドロでもシャンフロみたいなヘンタイファッションなのね」
『そっちもGH:Cまんまじゃん』
そのゴーグルとか何?ひょっとしてオーダーメイド?
声はなぜか元のままなのもなんかシュールだよな。
あ、蒼いブーツだけ《鑑定眼》効かない、<エンブリオ>かな。
『まあ、楽しみにしてろよ』
「それは、宣戦布告と受け取ってもいいの?」
『Of course《もちろん》』
当たり前だよなあ。
前会った時も、結局勝ち越せてないし。
相手にするに不足はない。
『ここは、GH:Cとはユニバースが違う。勝つのは俺だぜ、
「いいえ、勝つのはワタシよ、
「随分盛り上がってくれてるようだけど、俺も負けるつもりはないよ」
「……私も」
「わ、私も頑張ります」
レイやルスト、カッツォもやる気十分だ。
いいねえ、それでこそ楽しめるってもんよ。
「……質問。ペンシルゴン、大丈夫?」
「そうやって素直に心配されるのが一番心に来るからやめてほしいなあ、キヨヒメちゃん」
うーん?一人混ざりたそうにこっちを見ているのがいるなあ。
なんで混ざらないんだろう?不思議だなあ?
あー、困ります敗北者様!
自分が予選で負けたからってだけの理由で、そっちを見て顔をカクカクさせて煽ってるだけの純朴な青年に向かって攻撃をするのはおやめ……おいやめろ、グラスを投げようとするんじゃない!
出禁にされるだろ!
ちなみにモルドは会話の間も我関せずでルストの分の料理を取り分けていた。
お前も大概だよな。
◇◆◇
お、決勝トーナメント票が発表されてるじゃん。
えーと。
ルストと一回戦で当たる
んで、シルヴィアとカッツォは……準決勝かあ。
どっちかは俺と当たる前に負けるわけか。
カッツォが負けたら盛大に煽り散らかすとしよう。
まあとりあえず優勝は狙うにしても
うん?なんか視線を感じるような……。
デンドロを始めてから、前よりもそういうのに敏感になった気もするな。
うーん、気のせいか?
◇◆◇
□■???
「いやあ、ヤバいヤバい、目が合っちゃったなあ、バレたかと思った」
カルディナの路地裏で、一人の女が独り言を発していた。
魔法職が着ているようなローブを羽織り、紅い髪をウェーブにしている。
両手に手袋をはめており、手の甲にはモンスターなどを収納するためのジュエルがつけられている。
「まあ、見てたのはバレたかもしれないけど私だとは気づいていないだろうしね。気づいているにしても、それはそれで別にいいし」
しかし、そんな彼女の思索を邪魔するものがいる。
「おいおいそこの姉ちゃん、ちょっといいかあ」
「命が全部ほしけりゃ有り金全部、おいていけえ!ギャハハハッハ!」
「体で払ってもいいんだけどなあ?なあ?」
いつの間にか、女はいかにもチンピラでござい、という人間に囲まれてしまっていた。
彼らは欲にまみれたギラギラした目を
カルディナは、治安のよい国ではない。
アルターなどと違い、賄賂などで警吏が腐敗しているこの国では、治安が破綻してしまっている。
はっきり言えば、一人でか弱い女が路地裏にいれば何もかもをゴロツキに
そんな彼らに対して、彼女は何を思ったのか。
何を思ったにせよ、発したのはただ一言。
「おい、てめえ話を聞いてん」
「うるさいな」
その場にいた誰も、彼女の動きに反応できなかった。
彼女の腕がぶれて、消えたように、男たちの目には見えた。
直後、彼女の正面にいた男が首から血を噴き出して倒れた。
致命傷であり、HPが削れて息絶える。
その傷口は……まるで何かに
「え、あ、兄貴?」
「え、いや兄貴って上級の戦闘職で」
仲間たちは、理解が追いつかない。
リーダーが死んだ、だけではない。
彼らは見てしまった。
彼女の顔と、口元を。
いやその言い方は正しくない。
補足しよう。
彼女の氷のように冷徹な表情と……先程野盗の一人を噛み千切った
「ひ、あああああああああ!」
「ば、化け物オオオオオオ!」
自分達が何を相手にしているのか実感した男たちは散り散りに逃げていった。
ただしそれはーー
「うるさいって言ってるだろ――《喚起》」
ーー彼女から逃げ切れることを意味しない。
「KOOOOOOOOOROOOOO」
それは、見るも悍ましいドラゴンベースのキメラだった。
天竜種の胴体をベースしており、両腕と下腹部、尾から頭が生えている。
【エクスタシー・ドラゴニックキメラ】、
その口のすべてが、光り輝く。
勘の悪い野盗たちでも気づく。
それが、自分達にとって危険な、致命的なものであると。
「待っていやだ」
「助けてっ!」
「あ」
ゴロツキの一人一人が、全ての口から放たれるレーザーに貫かれて絶命する。
あまりに圧倒的な殲滅。
さながら、
「人払いの結界、張っておくべきだったかな?」
平然とした顔でキメラをジュエルに収納し、あたりを確認する。
彼女のすぐそばにある死体にも、半ば焼け焦げた遺体にも興味を示さない。
「一応、素材として回収しておくか」
何の感慨もなく……あくまで電脳上のデータだとしか考えず、ティアンの死体をアイテムボックスに収納する。
彼女の心を占めているのは、別のこと。
それを邪魔されたから、潰しただけ。
彼女が見ているのはただ一人。
「私も君の活躍と苦難を見るのが楽しみだよ、サンラクくうん」
魔女もまた、明日のことを考えて、笑う。
To be continued