<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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火の鳥、火蓋を切って落とす

□【猛牛闘士】サンラク

 

 

「モルド、そのチョコケーキ半分ちょうだい。私のショートケーキ半分あげるから」

「え、半分……?ああ、うん、半分だね。あ、おいしい」

『このウナギケーキも割といけるぞ』

「……何そのゲテモノ」

「あ、そこからそうやって食べるんだ……」

 

 

 強面な風貌で、それでいてなよっとした雰囲気が隠せない長身の男。

 褐色白髪で男の半分しかないのでないかと思えるほど背が低い女。

 そして、その二人組と向かい合う半裸の男、俺。

 自分で言うのもなんだけどキャラ濃いなあ、このテーブル。

 

 

 ◇ 

 

 

 場所を変えて、俺たちは<闘争都市>デリラ内にある喫茶店でお茶していた。

 ちなみに三人ともケーキ一つと紅茶だけ頼んだんだけど、めちゃくちゃ高い。

 レジェンダリアやアルターとは比べ物にならない。

 砂漠にある国だし、食料が高いのは仕方ないんだけど、それだけじゃなくて全部高いんだよカルディナ。

 なんだろうな、カルディナだけ値段設定がテーマパークのソレなんだよな。

 ほら、ああいうところって普通なら考えられないような粗悪品が信じられないほど高価な値段で売られてたりするじゃんそんな感じ。

 まあこの辺はちょっと深入りするとやばい気がするので考えないようにしよう。

 

 

『それにしてもアバターがシャンフロと変わらんな、お前ら』

「サンラクがそれ言うの?」

「鏡を見て」

 

 

 いやまあそれはそうなんだけど。

 相変わらずリアルの姿の2Pみたいなネットリテラシーが心配なアバターと、いかなるゲームでも、さらにはリアルでも変わらず覆面で顔を隠した不審者の俺。

 フェアクソやシャンフロから始まって、デンドロでも覆面生活を送っているしリアルでもすることがある。

 こないだも大学のミスコンでお面かぶって出たしなあ。

 いや違うんだよ。数合わせのネタ枠で出てくれって頼まれて軽い気持ちで引き受けたら、招かれてもない癖になぜか変装したモデルとプロゲーマー(外道共)が遊びに来たんだよ。

 で、顔バレしたくなかったからとっさに天狗のお面をかぶっていろいろと一発ギャグをかましまくってだなあ。

 ウケはそこそこよかったかな。

 まあ爆笑してた外道二人は許さんけどな。

 あ、これ俺の方がやばいな。ただのヤバいやつじゃん。いや俺は悪くないんだよ。あいつらが悪いんだよ。

なんで俺に黙って入ってくるんだろう。

 ちなみに言うまでもなく【蛇眼鳥面】は外してないよ。

 いやこれ、なんと嘴のところが開閉できるんだよね。

 戦闘時には不要な機能だからだいたい閉じてるけど、食事するときにこうやって開閉するときもある。

 あ、でもポーション飲むために開いたりしてるから戦闘中は無意味ってわけでもないか。

 MPはほとんど上がってないからちょっと気を抜くといつの間にか空になっちゃうんだよね。

 

 

「それじゃあ、本当に最近着いたんだね」

『ああ、今日着いたんだよ』

「セーブポイント設定した?しないと逆戻りになってしまう可能性があるけど」

『いや、さすがにそんなへまは……シナイヨ?』

「あっ」

「ええ……」

 

 

 あっぶねー。完全に忘れてた。

 セーブポイント更新してなかった。ルスモルがいなかったら、もしかして死んでたかもしれん。

 大会が三日後だし、最悪デスぺナしても大会間に合うだろ、とか思ってたわバカかな?バカじゃん。

 まあカルディナの別の都市に戻るだけだから間にあわ……ないよなさすがに。

 

 

 

 

『ところであの鳥は、<エンブリオ>じゃないよな?』

 

 

 皇国では、マジンギアなる人型ロボットの開発に成功しており、それに近いものだと思える。

 ただし、マジンギアとは明らかに違う。

 掲示板で見たマジンギアは機械仕掛けのヒト型であったはずだ。……断じて機械の鳥ではない。

 そもそも、マジンギアはせいぜいで亜竜級であり、<叡智の三角>メンバー用のワンオフオーダーメイド機体でさえ純竜級がせいぜいといわれている。

 ルスモルの乗っていた機体は、その速度と火力から言って間違いなく純竜クラス。

 もちろん本人の《操縦》といったスキルによる強化もあるんだろうが、それでもマジンギアの規格からは大きく外れている。

 あるいは、それ以上(・・・・)かもしれない。

 機体の性能を強化する《操縦》などのスキルの影響もあるんだろうが、それにしても尋常ではない。

 

 

「機体の情報は、今は教えない」

 

 

 ルストは不敵に笑う。

 笑って。

 

 

「――知りたいのなら、私たちと戦って確かめればいい」

『へえ……』

 

 

 挑戦状を叩きつけてきた。

 まあそれはそうだよな。

 オーダーメイドの機体ならなおさら、情報を明かす道理がない。

 当然の話だ。

 上等だ。

 

 

『上等だ。かかって来いよ、鳥刺しにして、優勝祝いの肴にしてやる』

「……残念。優勝するのは私」

『ま、結果は当日分かるってな』

「そうだね」

 

 

 

 

 

「ところで鳥刺しって何?」

『そこ訊く!?』

 

 

 いや、そうか知らん人は知らんのか。

 あれは美味い、美味いが……合法なのか否かわからないあたりに怖さがある。

 あれ、現行の法律ってセーフだったけ?アウトだったけ?どっちだ?やべえ忘れた。

 というか調べようと思って毎回忘れる奴だこれ。

 まあ食べたのもだいぶ前――小学生の頃だしいいか。

 なんであれ食べたんだっけ?確かあのときは親せきの趣味で鶏狩ってるおっちゃんが出してくれたんだったか。

 ゴミ捨て場に鳥の頭が鎮座してたの、軽くトラウマものなんだよなあ。

 まあその後、鯖癌やらなんやらでもう慣れちまったけど。

 ニワトリどころか、人の生首が転がるからなあのゲーム。

 まあ一番の死因は生肉食ったことによる中毒死とかなんだけど。

 ……寄生虫に腹食い破られて死んだのは忘れない。ほんとマジで何なんだあのゲーム。

 

 

 

「……私達も、当日は全力で戦う。楽しみにしてて」

「よろしくね」

『おう』

 

 

 この日は、それで別れた。

 しかし、今日濃い一日だったな。

 何か忘れてるような……あ。

 

 

『大会の申し込みして無くね?』

 

 

 やばいやばいやばいやばい。

 えっ、待って待って待って。

 もしかしてレイも、申し込みにいったとか?

 あ、やばい助けて。まずい。

 これヤバい多分時間切れ寸前じゃねえか!

 ウオオオオオオオオオオオやべえ全速力でスキルと足を稼働。

 急げばまだ間に合うか!

 

 

 ◇◆◇

 

 

「今回は厳重注意で済ませるけど、もうしないようにね」

『……すいませんでした』

 

 

 ……ええと。

 警吏に職質されちゃいました。

 まあ半裸鳥頭が爆走したら不審者ですよね。

 というか、申し込みできてない。

 終わったのでは?

 

 

 ◇◆◇

 

 

 申し込みに関しては結局レイが二人分申し込みしてくれてたおかげで事なきを得ました。

 ありがとう。本当にありがとう。

 これは足を向けて寝られませんわ。

 まあ同衾してるから向けようがない……いやなんでもありません。

 

 

 そして三日後、ついにトーナメントが開幕した。

 さーて、軽く優勝してやりますかあ!

 

 

 To be continued

 




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