<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□【猛牛闘士】サンラク
ティアンの女の子と、<マスター>の男。
……一瞬「事案か?」と思うが、そんなことを考えている余裕はないみたいだな。
お、男の方が分身した。
《影分身の術》みたいなジョブスキルか、と思ったけどジョブを《看破》したら【砕拳士】って出たし<エンブリオ>のスキルか。
あ、実体はないのか幻影かな?
紋章は……なんだあれ、ドラゴン?羽毛の生えた竜?始祖鳥か何かか?モチーフが全然わからん。
神話や伝説、童話なんかがモチーフらしいんだよね<エンブリオ>って。
分身で相手をかく乱しながら、拳で殴るってスタイルみたいだな。
ティアンの方は、ジョブにもついていないらしい。
ステラがあんな見た目なので実感しづらいけどティアンって子供はジョブに就かないのが普通らしいんだよな。
さっさと子供の内にレベル上げといたほうがいいんじゃないかと思うが、どうやら子供の内にレベルを上げると体の感覚が追いつかないので危険なのだそうだ。
言われてみれば、ステータスが全然違う人たちが握手したり……ナニかしたりしてもステータスの低い側がダメージ受けないのってすごいことかもしれない。
最初は戦闘時と非戦闘時でダメージ計算が違うのかと思っていたが、子供がそうでないならどういう基準なんだ?
他人のイベントに干渉するのはどうかと思うんだが、まあティアンはリスポーンしないみたいだし。
『それはちょっと後味悪いから、な』
《配水の陣》から飛び降りて、ムカデのようなワームの一体に着地。
ハイハイ皆さんご注目!種も仕掛けもありますねえ!
これより使いますのは、たった今《瞬間装備》しましたティックお手製の両手斧【ミニマムアックス】と、普段使いの【双狼牙剣 ロウファン】、そしてなによりケツァルコアトルが第五形態で獲得した【豊穣戦帯】、そのスキル!
『《
「GYOOOA!」
うーん、足場が不安定だな。
ハイとりあえず防御力無視のスキルを持つ【ミニマムアックス】でクソムカデの頭部を粉砕。
光の塵へと崩壊を始める足場から移動するための一手を既に打っている。
俺の履いている腰蓑――【豊穣戦帯】から、深緑色の蔦、もとい二本の触手を射出する。
なんか「すごいねえ、触手プレイだねえ!」とか聞こえた気がするんだが、気のせいだよな?
脳内ディプスロは戦闘シーンではただただ邪魔なだけなのでどっかに行っててくれ。
クソっ!止めろ「放置プレイも好きだよお」じゃねーんだよ!死ね!燃えろ!骨も残らず消えろ!
《豊穣なる伝い手》を高みの見物決め込んでる蜂型のモンスターに向けて射出する。
深緑の触腕が蜂型のモンスターに巻き付き、焼失しかけていた足場から飛んだ俺を巻き取る。
「KYU」
『遅えんだよなあ!』
蜂が何らかの対応をするより早く、斧で両断する。
「PYUUUUUUUUU!」
おっと、背後から何か来てるな。
キーキー叫んじゃってまあ。
まあ《配水の陣》使って避けてもいいんだけど、さ。
『こういう殺り方もあるんだよなあ!』
もう一本の触手が背後に対して円周運動。
その勢いと武器の攻撃力によって、先端に握られた【双狼牙剣】が羽虫の翅を切り落とす。
状態異常でHPを削られながら、落ちていくウスバカゲロウを視界の端で確認。
これで終わりかな。
うーん、必殺スキルや三番目のスキルは、出番なしか、歯ごたえなかったな。
『下の方も片付いたっぽいな』
二人とも無事みたいだ。
男の方は多少傷負ってるが、まああの程度ならアイテムで回復できるだろ。
あいにくと俺はほとんどHP回復アイテムはもってないから、渡したりは出来んけどな。
無い袖は振れんよ。
さて、袖の下を稼ぐためにもドロップアイテム、とついでにあの二人も回収しますか。
「私は、シオンといいます」
「……グライ・ドーラ。さっきは助かった、あんたが来なかったら危なかった」
男の<マスター>がグライで、女の子のティアンがシオンか。
『とりあえず、町まで行こうぜ。ここは危ない』
「あ、ああ。ありがとう」
「……お願いします」
『ああ、ドロップアイテム回収してからでもいいか?』
「構わない。何なら俺が倒した奴も持って行っていいぞ」
え、いいのマジで?
いやー太っ腹だなあ!ゴチになります!
とまあ、狩り場に出てきて早々町までUターンすることになった。
まあ、またもう一回戻ればいい話だしな。
町の中に入れば、ワームに襲われることはないだろうから。
◇◆◇
いやー良かった良かった。
ドロップアイテムの中には、結構いいのもあったから本当に儲けものだよな。
そういえば、グライだっけ、フレンド登録しとけばよかったかな。
ま、別にいいか。
おや、何か向こうにワームの群れがいるなあ。
こっち来てるみたいだし相手してやるかあ!
でもなんかこいつら変だな、まるで逃げてるみたいな。
『あ』
目の前のワームの群れが、爆炎によって吹き飛ばされた。
文字通り、飛来したミサイルによって消し炭になった。
『……誘導ミサイル、全弾命中』
『いや、今のもう少しで人にあたるとこ……あれ、彼もしかして……』
虐殺を為したのは、紅い鳥。
血のように赤い、それでいて生物ではない。
それは【赤人天火】という名前を冠する機械の鳥。
既視感を覚える機体の外見と、ネーミングセンス。
何より――空を飛ぶ魔蟲が相手にもならない、その唯一無二のプレイヤースキル。
あいつらだ。
『サンラク、久しぶり』
『……お久しぶり』
あー、その声は。やっぱりか。
現実でも一回聞いたことのある声だ。覚えている。
スピーカー越しでも、彼女達だと判別できる。
何ならいまだに、例のイベントでのネフホロ激推し動画残ってるからな。
『あー、ルスト、モルド、久しぶり』
こうして、
To be continued