<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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UA9万突破しました。
ありがとうございます。
これからも頑張ります。


親の心、子が知っているのかどうかさえ知らず

 □【猛牛闘士】サンラク

 

 

「あら、もう来たのね」

 

 

工房にいつも通り入ったところで、声をかけられる。

 声の主は、背の低いうさ耳の亜人の少女――ステラだ。

 ショートパンツを履き、その上から魔法職らしいフード付きのローブを羽織っている。

 腰にワンドを佩き、ウエストポーチ型のアイテムボックスを身に着けている。

 今回、カルディナへの旅路に同行したいらしい。

 厳密には、彼女も別でカルディナに用事があり、たまたま俺達がカルディナに行くのでどうせなら一緒に言ったらどうか、とティックから提案された形だ。

 俺達には特にそれを断る理由も思い当たらなかったため、快諾した。

 一人で行かせて死なれでもしたら、後味悪いしな。

 デンドロにおいて、NPCの死は珍しいことではないらしいしな。

 最近だと、どこかの<マスター>が何万単位でNPCをジェノサイドしたらしい。

 その<マスター>も超級職――【疫病王】だったかーーについていたらしいし、やっぱり<超級職>の恩恵はでかいということだろう。

 最近では、フィガロも含めて<超級職>や<超級エンブリオ>をもつ<マスター>も増えてるし、やっぱり超級職獲得は急務だよな。

 

 

『おう、ティックの旦那は?』

「奥にいるわよ。なんか作業してるから、もう少し待ったら?」

 

 

 とりあえず、そのまま奥の工房にいけばいいか。

 声かけなきゃ邪魔にはならんだろうし。

 ンで、そんなこんなで三十分くらい待って、ようやく作業の終わったらしいティックがこちらを向いた。

 うーん、これ狩りに行った方がよかったかな。

 

 

「よう、サンラク。頼まれてたもんならできてるぜ」

『ありがとうございます』

 

 

 ここ九か月、俺は何度も装備更新を行っている。

 <這いよる混沌>との戦いで壊れた盾は、また素材を持ち寄ってさらなる強化を施してもらい、生まれ変わった。

 他にもいくつか<エンブリオ>の新たなスキルに対応した武器も作ってもらったので旦那には足を向けて寝られない。

 マジでありがとうございます。

 しかも、素材を余った分の素材を代金として引き取ってくれるんだから、本当マジで感謝。

 これは他の生産職もやってるらしいんだけど、こいつほどの代物を作れるのは少なくともレジェンダリアにはいないだろうな。

 

 

『じゃあ、行ってきますね』

「……サンラク」

『はい?』

「娘を……頼む」

 

 

 ティックが、頭を下げていた。

 え?何急に?

 

 

「俺は、レジェンダリアから離れられねえ。自分の責任を果たさなきゃならねえからな」

『…………』

 

 

 ティックの「責任」というワードの意味は、正確にはわからなかった。

 ただなんとなくはわかる。

 おそらくはそれがルナティックというNPCの核であり、存在意義なのだろう。

 あるいは俺を強くしようとしているのも、それが理由なのかもしれない。

 なら、俺がやるべきこと(演じるべきロール)なんて決まっている。

 俺のよりも頭一つ分以上に、低い位置にある彼の肩に置いて不敵に笑う。

 ……いやまあ、顔見えてないけど。細けーことはいいんだよどうでも。

 大事なのはどんだけ没入できるか、キマるかだ。

 

 

『任せてください。絶対一緒に……全員で帰ってきますから』

「……ああ、頼むぜ、本当にな」

 

 

 レジェンダリア最高の生産者は、安堵したような声を出した後、にやりと笑った。

 なんとなく、俺が笑ったのも、伝わったような気がした。

 

 

 それにしても、ティックもなんだかんだ父親だよな。

 

 

『俺も、子供ができたらああなるのかな』

「こどっ!」

 

 

 あ、またバグった。

 

 

「こ、こどっ!こどっ!こどっ!」

「……提案。母上、落ち着いてください。あと父上、その物言いは心に刺さります」

 

 

 

 □■<闘争都市>デリラ

 

 基本的にカルディナに行こうとするのならば、案内人が必須だ。

 金をケチって自分だけで行こうとすれば、ワームにすりつぶされるか、狡猾な野盗に命ごと財産を奪われるのがオチだ。

 そんなことをステラに延々と説教され、サンラク達も予定を変更、安全な、というか普通の方法を選択した。

 結果として、それなりの出費になったが、サンラク達にとっては払えない額でもないし、それどころか払うのを躊躇う額ですらない。

 かくして、サンラク達は無事<闘争都市>デリラに着くことができており。

 

 

「いやあ、よく来てくれたねえ。思ったより遅かったケド」

 

 

 ”嬲り殺し”アーサー・ペンシルゴンと久しぶりに再会していた。

 

 

『いや道案内探すのに手間取ったんだよ。というか事前に教えてくれてもよかったんじゃねーの?』

「案内人のこと?ああ、てっきり知ってるだろうと思って言わなかったんだケド。まあどのみち、サンラク君に言っても無駄でしょ、すぐ忘れちゃう鳥頭だし?」

『ああそうなのか、良かったよ。てっきりボケて言い忘れたのかと思ったからさ、もう年だからな』

「『あっはっはっ』」

 

 

 お互いに、調子を合わせたように笑って。

 サンラクは、《瞬間装備》した【双狼牙剣 ロウファン】を構え、ペンシルゴンは黒紫色のオーラ――ディストピアを展開する。

 

 

『あ、あのサンラク君、ペンシルゴンさん、落ち着いてください、ね?』

『父上、ストップ』

「あんたたち何やってんのよ……」

 

 

 レイ達が止めに入ったので、なんとかその場は収まった。

 なお二人とも、その後も口では散々に煽りあっており、それを初めて見たステラは「なにこれ?子供の喧嘩?」と思ったが、口には出さなかった。

 とばっちりを喰らいそうだったからである。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 サンラク達一行が、ペンシルゴンと合流した後。

 ステラは、調べたいことがある、と言ってどこかに行ってしまった。

 元々一人で行くつもりだった、とティックから聞いているのでまあそういうこともあるだろうとサンラクは納得した。

 一応パーティーメンバーからは外れてないから、ステータスに異常があればすぐにわかる。

 

 

「さて、それでは試運転と行きますかあ!」

 

 

 ティック謹製の装備。

 説明はあらかじめ受けているものの、本番でいきなり使用するのは不安が残る。

 アイテム集めも兼ねて、カルディナのワームで試し切りするのがいいだろうと判断した。

 《配水の陣》を起動、空中をかけながら、ワームを探して。

 見つけた。

 ワームを、そして探してもいなかったものを。

 

 

 

 「うん?」

 

 

 ワームに囲まれている十歳くらいの女の子と、二十代と思しき成人男性。

 男の方が手甲を付けているため分からないが、少女の方は左の手の甲が見える。

 サンラクはサブジョブでとった【斥候】の《遠視》で、多少距離があろうとものをはっきり見ることができる。

 刺青も何もない、小さな左手の甲が見える。

 

 

「あれは……ティアンか?」

 

 

 To be continued

 

 

 

 




冷たい方程式面白いですねえ。

追記
9時38分
やべーミスを修正しました。
報告してくださった方、ありがとうございました。

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