<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□【猛牛闘士】サンラク
ギデオンでの銀だこ討伐から、早くも八ヶ月が経過。
俺が<Infinite Dendrogram>を始めてから九か月が経過したことになる。
俺とレイは、相変わらずレジェンダリアを主な拠点として活動し、まあいろいろあった。
クリスマスイベントでサンタを狩りまくったり、正月は実家に帰りつつ干支モンスターを狩ったり、バレンタインイベント中にアムニールに現れた大根脚のPKを討伐したり……いや色々ありすぎだろ。引くわ。
聞けば件のPK,リアルの痴情のもつれをデンドロに持ち込んで報復PKしたらしい。怖いわ。
「まあ、俺も人のふり見て我がふり直すべきかねえ」
そこまでひどいことをやらかそうとしたわけではないのだが、結果的にやらかして何度かあわや骨抜きされそうな状況に陥っている。
いや、まあステラの件とか完全に俺の不手際なんだけど。
閑話休題。
そんな日々を過ごすうちにシステム的な面でも、俺たちは相当に強くなったと思っている。
<エンブリオ>は第六形態まで進化し、ジョブのレベルもかなり上がって俺もレイもすでにカンストしている。
今はお互い<超級職>への転職条件を探しているところだ。
レイは、狙撃手系統超級職を目指し、俺は……何系統にしようか迷っている。
……【超闘士】は埋まっちゃったしなあ。就いた奴が奴だけに納得しかない。
いや、俺も決闘ランキング一位目指そうとはしたんですよ?
したんですけどね、正直あれは無理だわ。
初手で装備剥かれたら、俺含めて闘士系統は何もできんよ。
そもそも俺は正直フィガロ達ほど決闘に精を出してなかったので、しゃーないという話ではある。
脱がせ魔みたいに、デンドロは対人ガチ勢はそれに即した<エンブリオ>になってくることも多いからなおさらだ。
だから素直におめでとうって、英語でメールしたよ。
悔しかったけどね!いややっぱりアルターに移籍しとけば……よし、やめやめ!
ティックやステラとのつながりもあって、どちらかといえばデンドロではモンスター討伐が主軸になっている気がする。
基本レイ、キヨヒメ、ステラと一緒にステラやティックのおすすめ狩場に行くことが多い。
その後大半のドロップアイテムを売却して、一部をティックに預けて装備を整えて……っていうのがルーティーンだ。
デンドロ始めた時からあんまりやってること変わらんな俺。
例外も二つくらいあって、一つはレイがいない時。
一応大学は同じではあるが、それでも常に予定が合うわけではない。
授業も、出席番号の関係で違うことがあるしな。
は行とさ行でちょうどきれいに分かれちゃうんだよね。
それは二回生になっても変わらないらしい。
「……いっそ、入籍すればクラス離れずに済むか?」
まずレイに提案して同意を得ないとだし、仙さんにも相談しないとだけど。いや、もう二回生のクラス決まっちゃったし今更遅いかな。
三回生以降は選択科目も増えるし。
まあそれは置いておくとして、レイがいない時は、大抵ソロであちこち突っ込んでいく。
もう一つは、ティックがたまについてくることがある。
割と奥のほうまで行くときに限るので、ステラを心配してのことかもしれない。
一回<UBM>と遭遇したからなあ。
旦那抜きでも逃げられたかどうかは微妙だ。
その間、レイの特典がいろいろとすごいことになったり、ステラやティックと一緒に<UBM>と戦ったりもした。
しいて言うなら、ティックの戦闘能力は頭がおかしいよって。
うん、攻撃の余波で森のあちこちにクレーターができてたからなあ。
メルヘンな国なのに大砲バカスカ撃ちまくるから、自然環境と世界観がデストロイ。
レイや俺の装備を含めて、なんでかメカ寄りになってるんだよな。特に、レイの防具。あれはヤバい。素材自体は、メカ寄りでも何でもなかったのに。
俺としては好きなんだけどね、機械。
というかこっちの魔法系の道具はヤバすぎる。
なんでポットに足が生えて給仕してるんですかね、妖怪かな?
一応こっちを巻き込まないように気は使ってたみたいだけど、それでもなお生きた心地がしなかったぜ。
まあそれで倒しきれなかった<UBM>も大概だが。
最終的には、何とか倒せたからよかったけど、俺だけじゃなくてレイまでデスぺナしてしまった。
勝てば得られるものも多いんだけど、いきなり襲撃してくるのはクソゲー過ぎるので勘弁してほしい。
俺たち<マスター>はともかく、NPCはリスポーンしないからね。
NPCがリスポーンしてしまうとリアリティがなくなるってことなのかもしれないけど。このゲームホントにリアリティ重視だからな。
シャンフロもリアリティ重視のゲームだったが、デンドロのソレはもはやリアリティというものを超越してしまっている気がする。
臓器とか断面みたいなグロい絵面……もといグロフィックはともかく、アンデッドの腐臭とか、ゲーム的に普通再現しないだろ。小学生とかトラウマもんだぞ。
まるで一つの世界を、「これはゲームですよ」と無理やりに脚色したかのような……。
「ははっ」
自分でそんな想像をして、思わず笑みがこぼれる。
異世界に行きたいとは思っていないし、思ったことはない。
ただ、俺はゲームを、スリルを楽しみたいだけだ。
おっと、周りの視線が痛い。
ええい止めろ、不審者みたいな目で俺を見るんじゃない!
そこのティアンの親子!「ママー何あれー!」「しっ!見ちゃいけません!」じゃねーよ!
そんな不審者でもないだろ?
俺なんてただ鳥頭で、半裸で、突然笑い出しただけでーーそれだけのーー結局ただの不審者じゃねーか!
あれだな、濃い連中ーー緑ずくめのロリコンだの、野性的ロリコンだの、赤ちゃん返りだの――と関わりすぎて、感覚がマヒしているのかもしれない。
クソゲニウムの過剰摂取と同じ、時にはカミゲニウムで中和しなくては精神がすさむばかりだ。
さて、こうして待っているわけだけど……お、ちょうどインしたみたいだな。
『あの、サンラク君』
おっと、俺が待ち人を見つけるより早く見つかってしまった。
こうして待ち合わせするのも、もう何度目か。
リアルでもゲームでも数えきれないほどあっていると思う。
なんとなく、向こうは数も把握しているような気がするのは買い被りだろうか?……さすがにそこまで覚えてないよね?
その人物を一言で言い表すならば、鎧の巨人。
白銀色を基調とした、全身鎧ーー【エンネア・タンク】を身にまとっている。
その鎧も、西洋風の騎士が着るような甲冑ではなく、武士が身に着けるようなものとも違う。
むしろ機械じみており、パワードスーツというのが適切な表現であろうか。
体高は鎧も含めれば、二メートルに達するだろう。
当然、
両手に持っている
『すいません。遅れてしまって』
しかしてその巨体から発せられるのは、その外見に反して高い、女性の声だ。
俺にとっては、聞きなれた身近な声だが。
「え?全然大丈夫だよ。レポートで忙しかったんでしょ?
『あ、はい?なんとか終わりました、サンラク君』
さて、彼女――サイガ‐0――とも合流できたので、あとはティックに挨拶して、ステラと合流するだけ。
「――いざ、カルディナへ行かん、ってな」
さーて、デリラだかゲリラだかゴリライオンだか知らんが、ひと暴れしてやるよ!
To be continued
Q.八月から翌年の四月ってめっちゃ期間空いてない?
A.作劇場仕方ないので許してください。
余談
【双壊砲】
ルナティック作の魔力式大砲。
右は、耐久型を無為とする闇属性、左は、回避不能の光属性魔法。
使用者のDEXを参照した自動照準機能が搭載されている。
生産系超級職でないと満足に扱えない代物。
というか、ルナティック本人が戦うために作ったもの。
某犯罪組織殲滅の際にも使われている。
しかし、「物理も魔法も防ぐバリアを展開する」<UBM>相手には足止めにしかならなかった。