<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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短いので、二話更新です。


プロローグ 彼岸

 □■とある親子

 

 

「あたしも、カルディナに行くわ」

「……サンラク達の許可はとったのかよ?」

「得てないわ」

「あん?」

「サンラク達の許可なんて関係ない。あたしは一人で行くって言ってるの」

「…………」

 

 

 ルナティックは固まった。

理解できない。いや、理解はしている。

 彼女はサンラク達と出会って変わった。

 彼女なりに考え、工夫し、レベルもサンラク達と組んでのレベル上げによって既に四百を超えてカンスト寸前だ。

 さらに言えば、彼女が何のためにカルディナに行こうとしているかははっきりわかっていた。

 言葉で説得はできないだろう。

 止めようとすれば、力ずくで拘束する外はない。

 ーー彼が現在進行形で、自分の妻にしているように。

 

 

 

「…………好きにしろ」

「言われなくてもそのつもりよ」

 

 

 そんな選択肢は、人間の家族に対して取れるはずもなく。

 ルナティックは、ステラを止めることは出来なかったし、しなかった。

 そうして、一人の少女もまた、己の目的のために砂漠へと赴くことになった。

 そこに、何がいるか、何が来るのかを彼女は知らないままに。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■カルディナ東部・砂漠

 

 

 カルディナには様々な呼称、側面がある。

 曰く商人の国。

 文字通り、商業がもっとも盛んな国である。

 曰く物流の国。

 各国の特産物がーーそれこそ公的には輸出していていなはずのものまで――金を積めばすべて手に入る。

 曰く金の国。

 「金銭の多寡が貴賤を決める」などと言われるほど、金の影響力が強い国。

 身分などを買うこともできるし、犯罪の刑罰を帳消しにすることだってできる。

 それこそ殺人のような重罪でも、莫大な金を払えば無罪になる。

 まさに地獄の沙汰も金次第、である。

 逆に言えば、金がなければ文字通り、すべてを失う魔境でもある。

 そして――砂の国。

 カルディナ名の国土の大半は砂漠であり、ごく一部のオアシスに居住区が設けられる。

 例外は、国内のあちこちを移動しながら討伐されないとあるモンスター(・・・・・・・・)くらいのものだろうか。

 

 

 魔法職と思しき杖を持ち、ローブを着た男。

 ピンと尖った耳は、彼がレジェンダリアなどで見かける亜人種であることを示していた。

 外見年齢は十代に見えるが、長命種の可能性も大いにあるため実年齢を判断するのは難しい。

 彼は無言で竜車の座席に座っていたが。

 

 

「……邪魔だな、虫が」

 

 

 ふいに一言呟いて、竜車の左側に目をやった。

 直後、砂が盛り上がり一帯のモンスターが姿を現した。

 ダンゴムシを巨大化させたかのような見た目の魔蟲。

 

 

「SHUUUUUUUUUUUUUUUUUU」

「に、逃げろおおおおお!」

「くそっ!あれ純竜クラスじゃねえか!なんでこんなところに!」

 

 

 そのモンスターの名は、【メイル・ドラグワーム】。

 雑食性の魔蟲であるこのモンスターは、耐久力に特化しており、その甲殻は物理魔法共に防ぐ高い耐性を持つ。

 AGIが一〇〇〇程度、純竜クラスの中ではかなり低いという欠点はあるものの、それでもこの竜車で巻くのは困難な相手だ。

 最も防御の薄い腹部でさえ、戦闘系上級職の奥義を複数回あててやっと、というほどに硬い。

 さらに言えば、突進による攻撃力も純竜クラスでは上位を誇る。

 本来はこのような安全なルートを通るはずもないモンスターだが、<Infinite Dendrogram>ではこういったイレギュラーも珍しくない。

 予想外の強者による奇襲によって弱者が狩られるという、ありふれた話だ。

 

 

「お、おいあんた何やってんだ?」

「排除する」

「は?」

 

 

 亜人の男が、いつの間にか立ち上がり、ワームの方を向いていた。

 男は、杖を【メイル・ドラグワーム】に向けた。

 

 

「SHUUUUUUUUUUUU」

「《キネティック・サプライズ》」

 

 

 ただ一言。

 杖を向けた上でのスキルの宣言。

 直後、【メイル・ドラグワーム】は光の塵になった。

 純竜クラス最上位の耐久力を持つ【メイル・ドラグワーム】がただの一撃で死んだのだ。

 それを為したローブを着た男は、何の感慨もなく、また竜車の座席に座り込んだ。

 まるで、今純竜上位のモンスターを倒したことが、ごく当たり前のことであるかのように。

 否、実際彼にとっては当たり前のことなのだ。

 彼にしてみれば、ハイエンドでもない純竜クラスなど雑魚でしかない。

 残酷に思えるほどに、シンプルな話だ。

 予想外の強者(・・・・・・)による奇襲で、弱者(・・)が狩られただけの話である。

 

 

「お兄さん、さっきのすごいですねえ。ありがとうございます」

「どうも」

「どこまで行くんです?」

「デリラまで」

 

 

 彼の隣にいた男性のティアンが話しかける。

 それに対して、男も淡々と答えていく、もとい流している。

 

 

「デリラってことは、決闘に出るんですか?」

「いや、ちょっとした観光でね」

「ああ、<マスター>のトーナメントですかい?いやあ実は私もなんですよ!」

「なるほど」

 

 

 そうして適当に会話をやり過ごしながらも、彼の脳は別のことに意識を割いていた。

 彼が考えるのは、デリラに向かう目的と、それに対する期待。

 

 

(楽しみだな。各国から集まる<マスター>同士による決闘。大いにスキル開発(・・・・・)のためのサンプルになるだろう)

 

 

 彼の名は――【杖神(ザ・ケイン)】ケイン・フルフル。

 かつて、レジェンダリアで英雄と呼ばれた男もまた、己の目的を求めて<闘争都市>デリラへと赴く。

 

 

 To be continued

 




此岸……こちら側、この世

彼岸……あちら側、あの世

三章は毎週土曜日更新予定です。

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