<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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双狐奇譚 四人組珍道中 後編

 □天地郊外

 

 

 紅音をはじめ、京極やダブルフェイスも探索系のスキルはほとんどない。

 では、索敵は誰が担当するのか。

 

 

「……索敵は任せて」

 

 

 その言葉と同時、トーサツのヘルメット――<エンブリオ>から多くの目が分離し、散開する。

 それこそがトーサツの<エンブリオ>。

 銘を【百目機 アルゴス】という。

 TYPE:カリキュレーターに分類される<エンブリオ>であるアルゴスは本体(ヘルメット)に取り付けられた多数の子機()を飛ばすことで、索敵を行う<エンブリオ>である。

 また、あらかじめ目にSPを注ぐことで《看破》や《鑑定眼》などの目に関するスキルを子機でも使うことができる。

 さらにため込んだSPを消費することで「目」を隠蔽するスキルもある。

 彼のメインジョブである【高位瞳術師】と組み合わせることによって、幅広い応用力を持ったビルドとなっている。

 欠点は直接戦闘能力を持たないことと、瞳術師系統も含めてMPほどSPに特化したジョブがないので貯蓄量の制限がシビアなことだ。

 

 

「それにしても、本当に来るのかな、全然襲ってくる気配もないけど」

 

 

 京極は少し残念そうな口調でぼやく。

 彼女にとって最優先事項は対人戦であり、それができないならばここにいる意味が半減する。

 さすがに、パーティーを組んでいる紅音から離れるつもりもなかったが。

 

 

「まあ、いつ来てもおかしくはないだろお。なにせ<マスター>の犯罪者や野盗だけでもそれなりにいるじゃねえかハハハハハ」

「そうですね!」

『滾るのう』

 

 

 <Infinite Dendrogram>は自由を標榜するゲームであり、プレイヤーの中には当然アンダーグラウンドな道に進むものも多い。

 特に戦乱がおこりやすく、治安も悪い天地はその傾向が顕著だ。

 野盗クランを率いる”骨喰”狼桜や“破壊拳”餓鬼道戯画丸などは有名であるし、犯罪者ではないが”断頭台”カシミヤの様なPKも多い。

 最近では、あちこちで騒動を引き起こす”不定”という二つ名の<マスター>が注目を集めている。

 何でもかの人物は、所在も性別も不定(・・)であり、犯罪者を追うティアンや<マスター>も彼女を討つどころか、見つけることさえ困難なのだとか。

 閑話休題。

 

 

「……前方に人がいる。七、八人くらい。武装はしてない。……全員男」

「距離はどのくらいだあ?」

「……一キロメテル、だいたい」

「<マスター>かな?それともティアン?」

「紋章があるから全員<マスター>だよ、多分」

 

 

 武装をしていないなら、敵意はないのだろうか。

 つまり問題はないのだろうかと紅音は考えかけて。

 

 

「……あ、後方にも人がいるね。一人だけだけど」

「おい」

「それは……まずいね」

「え?」

 

 

 どういうことかと紅音は聞き返そうとして、しかし聞き返す暇は与えられなかった。

 もっと言えば聞く必要がなかった。

 すぐにわかることだったから。

 

 

「ーー《封牢結界》」

「ーー《哺爪展開》」

 

 

 <エンブリオ>のスキル宣言と同時、大量のモンスターが現れた。

 怪鳥、狼、牛、蛙、狐などなど多種多様だが、そのどれもがこちらを向いて突撃してくる。

 

 

 

「敵襲!敵襲だあ!」

 

 

 こうして、戦闘が始まる。

 

 

 ◇

 

 

「うん。たくさんいるね。テイマー系の<エンブリオ>かな?」

 

 

 【将軍】もかくやというほどの軍勢で迫ってくるモンスターを前にして、京極は状況を分析する。

 おそらくは、モンスターの運搬と即時展開に秀でた<エンブリオ>のスキル。

 キャッスルかテリトリーか、あるいはそのハイブリッドだろうか、と京極は推測したし、それは正しい。

 しかし推測が当たる外れるに関係なく、いずれにせよこれはまずい。

 天地のティアンは強者が多いが、それも大半は個人戦闘型。

 京極と紅音はどちらも個人戦闘型であり、数に対応する能力は低い。

 トーサツならば数に対抗できるが、純粋な火力はほとんどない。

 実際今も、《瞳術》を試用して足止めしているが、逆に言えば足止めにしかなっていないのである。

 だから。

 

 

「まあ、カモだよね」

 

 

 京極は剣をーーTYPE:アームズの<エンブリオ>を構えて特攻した。

 それは敵手からすればただの自殺にしか見えなかった。

 そもそも彼女は野伏系統のジョブに就いており、直接戦闘は不得手のはずだ。

 しかしそれは。

 

 

「やろうか」

「やりましょう!」

「ーー上のやつらはは任せろよお、ハハハハハハハ」

「「GYAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」」

「……頑張ってね」

 

 

 二丁拳銃を構えた鎧武者の道化(ダブルフェイス)と、彼の<エンブリオ>が笑う。

 ダブルフェイスの<エンブリオ>、TYPE:ウェポン【双星器 ポルクス・カストル】

 右手に持つのは、防御力無視の固定ダメージ光弾を放つ《一ノ兄》。

 左手に持つのは、AGI型の長所を潰すレーザーを放つ《二ノ弟》。

 欠点としてはコストが少々特殊であることと、二つの銃が同時に使えないことだろうか。

 今回は、遠距離の飛行モンスターを打ち落とせる《二ノ弟》を使用している。

 

 

「クソっ!どうなってるんだ!亜竜級は?」

「いや、もう出したんだけど」

「じゃあなんでまだ潰せてないんだ?」

 

 

 彼らの戦術はシンプルだ。

 まず結界で後ろをふさぎ、モンスター生産の<エンブリオ>で作った大量の雑魚モンスターを別の<エンブリオ>で強化したうえで突撃させて消耗させる。

 そのうえで亜竜級のモンスターで圧殺するはずだが、それらが二人のモンスターに切り捨てられて破綻していた。

 一人は、安芸紅音。<エンブリオ>による蘇生で消耗は一切ない。

 もう一人は京極。消耗こそあるものの、その攻撃は緩まない。

 むしろーー少しづつ攻撃力が上がっている。

 それは彼女の<エンブリオ>、【戦黒武装 ダーウィンスレイブ】のスキル《吸血の牙》。

 一時間以内に殺した数に応じて、装備攻撃力に補正をかけていくスキル。

 すなわち殺せば殺すほど、彼女は強くなる。

 最初から強力なモンスターを向かわせておけばよかったが、それも後の祭り。

 もはや耐久特化の超級職であろうと、彼女の攻撃を無傷で耐えることはできない。

 ましてや亜竜級のモンスターでは到底受けきれない。

 

 

「くっそ!切り札を出す!《喚起ーー【アンイクアレッド(絶倫)・ボア】!」

「GYABOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

 

 リーダー格の男が呼び出したのは、猪に似た化け物だった。

 体長は二十メテルに達しており、体格も通常の猪とは違っていた。

 無理やりに筋肉を肥大させたような、筋肉を詰め込んだように、不自然に筋肉が盛り上がっている。

 最近悪名をはせている”不定”なる人物から買い取った純竜級改造モンスターだ。

 いかに彼女が、<マスター>であろうと、あるいは忍者系統上級職の中で最も火力に秀でた【炎忍】であろうとも、一人で倒せる相手ではない。

 ついでに言えば他の面々でも火力が足りない。

 あるいは、上級に進化したことでさらに強化されたエルドラドのスキルを、《再始動(リスタート)》を使えば彼女だけは生き残れるかもしれない。

 しかし、それでは彼女がそのような<エンブリオ>に目覚めた意味も、ここにいる理由も消失する。

 彼女一人では火力が足りない。

 彼女一人では守り切れない。

 

 

「行きますよ!」

『承知した』

 

 

 そう、一人(・・)では。

 だから。

 

 

「《黒白分命(ノワレナード)》!」

 

 

 スキル宣言の直後、彼女の隣に一人の少女が顕現する。

 漆黒の狐面。

 動きやすいようカスタムされた忍者装束。

 金色の髪と瞳。

 そして伝説級の、威圧感。

 紅音と同じ服装で、容姿で、しかして雰囲気はまるで別物。

 紅音が光の少女なら、その隣の少女が放つ空気はまるで野獣。

 かつて人食いの<UBM>であった【黒召妖狐 ノワレナード】、そのなれの果てである。

 ああ、なるほどシンプルな話である。

 紅音一人で状況を打開できないのならば。

 彼女一人ではかなわないのであれば。

 

 

「やりましょう!ノワレナードさん!」

「無論だ」

 

 

 ーー彼女達二人で戦えばいいだけの話である。

 

 

「紅音よ、今回もあれ(・・)でいいのか」

「はい!あれをやりましょう!」

「心得た」

 

 

 【漆黒狐面 ノワレナード】が保有する最大のスキル、《黒白分命》。

 効果は大きく分けて二つ。

 一つは、紅音自身と全く同一の能力、外見の分身の生成。

 《看破》などのスキルをもってしても見破ることはかなわない。

 欠点としては、【漆黒狐面】以外の装備品は再現しているのは見た目のみであり、装備補正や装備スキルは反映されない。(それでもジョブや<エンブリオ>のステータス補正、加えて【漆黒狐面】の高いMP補正も乗るので十分すぎるともいえる)

 もう一つは、ノワレナードによる分身の操作。

 【漆黒狐面】は意思のある特典武具であり、普段から紅音たちと会話することも可能であるし、実際にしている。

 死してなお、<UBM>の意識が特典武具に現れるという事例ははほとんどない。

 しかし可能性としてないわけではないし、事実【漆黒狐面】や……のちに現れるとある特典武具(・・・・・・・・・・・・・)はそうなのだ。

 紅音自身のステータスを基準としていることと、制御機能がないために消費MPも召喚スキルとしては低い。

 制御する機能がないため、紅音本人に牙をむく可能性もあるが……すでにそうならないほどの絆を結んでいるため心配はいらない。

 

 

「《火遁--」

「《合技ーー」

 

 

 二人の宣言に伴い、魔力が熱量に変換され、その熱量がコントロールされる。

 アーキタイプシステムによるものではない。

 ノワレナード、彼女の技術によるものだ。

 ノワレナードは、もともと魔力で構成した分身を自在に操作する<UBM>.

 自身のAGIが100程度であるにもかかわらず、亜音速の分身を動かしていたほどの技術である。

 魔力の操作という技術は、<UBM>でなくなった後もいまだ健在だ。

 その技量と、紅音の魔力で行われる合技。

 

 

「「――合火球》」」

 

 

 すなわち、合体魔法である。

 その魔法は、とても小さかった。

 ゴルフボールの、その半分程度の直径でしかない球。

 極小の知性でその程度なら問題ないと判断して【アンイクアレッド・ボア】は突撃を続ける。

 本来の二倍、否、ノワレナードの魔力コントロールによってそれ以上の威力を発揮した豪火の球。

 それは西方の魔法系超級職の奥義に限りなく近い、極小の太陽であり。

 

 

「GYABO?」

 

 

 突進してきた【アンイクアレッド・ボア】を正面から貫き、絶命させ、光の塵に変えるには十分だった。

 襲撃してきたモンスターと<マスター>が全滅したのはその五分後だった。

 

 

 ◇

 

 

 それからほどなくして護衛のクエストは無事に終わった。

 その後も彼らは固定でパーティ―を組むことになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 To be Next Episode




読んでくださってありがとうございます。
今年中に三章始められたらいいなあって感じです。
気長にお待ちください。

余談
・瞳術師系統
忍者系統派生職
超級職の奥義は天照的な何か。

・【炎忍】
天属性攻撃魔法に寄ったジョブ。
超級職の名前は……お察しください。

・【ノワレナード】
二人は!プ□きゅあ!的な感じです。
割となついてるよ。
ちなみに機嫌損ねると償還した傍から殺される可能性もあるけどそこは隠岐紅音ちゃんなのでノープロブレム。


















???「”ふてい”ってなんか背徳感あるよねえ?」

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