<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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今回は閑話です。
秋津茜ちゃん回。
三章はもう少しお待ちください。


双狐奇譚 四人組珍道中 前編

 □天地・某所

 

 

 天地は七大国家の中で最も小国である。

国土を基準とすれば天地よりも小さいグランバロアという特殊な事例もあるが、国としての大きさを考えれば天地に軍配が上がる。

 

 

 そんな天地にも、かなりの数のセーブポイントがある。

 面積に対してはむしろほかの国と比較しても多い方かもしれない。

 その結果、というだけではないが、天地の住民は多くの勢力に分かれて日々争いを繰り返している。

 あるいは、この世界を管理しているモノたちは争いを助長するために多くのセーブポイントを作ったのかもしれない。

 

 

 そんなセーブポイントだが、<マスター>にとっては見方がティアンのそれとは異なる。

 デスペナルティが明けた後の復活地点であるという側面が一つ。

 もう一つは復活地点であるということもあって、待ち合わせ場所として非常にメジャーであるということ。

 その様に待ち合わせしているであろう三人組が、セーブポイントである広場の一角にいた。

 三人はそれぞれが異様な風体をしていた。

 

「まだかなあ、早く人斬りに……クエストに行きたいんだけど」

「いや、集合までまだ時間あるからなあ」

 

 

 一人は、狐の耳をはやした京(アルティメット)というプレイヤーネームの女剣士。

 顔立ちは整っており、和服を着て、刀を持っている姿は美しくもあろう。

 腰に佩いているのではなく、抜身の刃が黒い直刀を所持しているのでなければ。

 加えて彼女の視線はちらちらと他の<マスター>やティアンに向いている。

 今にも斬りかかろうとする肉食獣のような視線に対して、周囲の<マスター>は「こいつもしかしてリスキル狙いのPKなのでは?」「殺すべきでは?」「疑わしきは罰せよ」などと考えている。

 実際、彼女は今回の待ち合わせさえなければ嬉々としてそこらの<マスター>やティアンに斬りかかっていただろう。

 それだけならばこの修羅の国天地では、そう怪しい人物でもなかったかもしれない。

 

 

「まあでも楽しみってのは同意だな、ハハハハハハハハハハ」

「うわ笑い方気持ちわるっ」

 

 

 その隣に居る男二人も奇妙だった。

 一人は、鎧の男ーープレイヤーネームはダブルフェイスという。

 全身鎧を着て、両腕に銃を持っているーーのは大した特徴でもない。

 天地で武装しているものなど珍しくないからだ。

 銃口からは奇妙な笑い声が漏れ出しており、それも不気味ではあるが、まあ<マスター>なら仕方がない。

 問題は、当の本人がピエロメイクという鎧武者姿と絶妙にマッチしていない格好でへらへらと笑っていることである。

 有体に言って、通報されてもおかしくない状態だった。

 

 

「足首、太腿、うなじ……」

「「…………」」

 

 

 極めつけは、もう一人の小柄な男。

 プレイヤーネームをトーサツという。

 頭部をVRシステムのヘッドギアのような巨大なヘルメットで覆っており、顔の上半分が隠れている。

 そしてそのヘルメットには無数の眼球がついていた。

 そしてその目線はぎょろぎょろと落ち着かず、しかし規則性を持って動いていた。

 例えば、通りすがりのティアンの女性のうなじ。

 例えば、リスポーンしたばかりの露出度高めの女性<マスター>の太腿。

 例えば、同行者である狐耳女剣士の頬や指先、尻、脚。

 付け加えれば、彼の口の端からは唾液が漏れ出ている。

 不審者三人衆ーーを通り越してもはや犯罪者三人組である。

 あんまりにあんまりな三人を見て、「<マスター>だしペナルティないからとりあえずやっとく?」と考えた過激派が行動を起こそうとして。

 

 

「お待たせしました!すいません皆さん!」

『ふむ、壮観であるな』

 

 

 一人の存在によって、阻まれた。

 彼らに駆け寄ってきた待ち合わせ相手は、彼ら不審者の対極を行く存在だった。

 真っ先に浮かぶ印象は、光。

 ポニーテールにした金髪と丸くて大きい金色の瞳がキラキラと輝いている。

 頭には黒い狐面を乗せている。

 AGI型の全速力でかけてくるその姿は、愛らしい子犬を幻視させる。

 彼女の名は、安芸紅音。

 このパーティーのリーダーである。

 

 

「いや全然待ってないよ」

「俺達が速く来過ぎただけだからなあ」

「……ばるんばるん」

「なるほど!」 

 

 

 そんな紅音を見て、彼ら彼女らの雰囲気はふっと柔らかくなる。

 変質者から(ひとりのHENTAIを除いて)「変わった格好の人たち」程度にグレードアップした彼らを見て、天地の武芸者たちは振り上げかけた拳を下したのであった。

 

 

 ◇

 

 

 ちなみに今は集合時刻の十五分ほど前である。

 リアルで暇を持て余している鎧の男(ダブルフェイス)と、楽しみ過ぎて早く来てしまった残る二人が待っていただけである。

 

 

「じゃあ、全員揃ったしクエストいこうか。確か護衛依頼だったよね?」

「はい、そうです!」

 

 

 なぜ彼女らがクエストを受けることになったかといえば発端は先日の【ノワレナード】戦にある。

 MVPを獲得した紅音はもちろんのこと、この場にいる四人はすべて件の<UBM>討伐に参加した者達である。

 もともと別のゲームで知り合いだった京極と紅音はもちろん、あとの二人も【ノワレナード】を討伐した後、紅音と互いにフレンド登録をし、いずれまた一緒にクエストをしようと約束していた。

 彼女が自分一人でこなしきれないと思われた護衛のクエストをティアンから依頼されたのはその数日後のことである。

 ちなみに依頼されたのも<UBM>を討伐した<マスター>として紅音が有名になっていたことが理由だ。

 依頼者自身、身を守る手段はあったが、都市間の移動の際に初見殺しの塊である<マスター>への対応を<マスター>に任せたいらしい。

 実際<マスター>の中には野盗もいるので<マスター>に打診した依頼主の判断は間違っていない。

 それはともかく、「一人で多数を守り切るのは難しいですね!」と判断した紅音は交流のあった三人に協力を打診。

 そして。

 京極には、対人戦を前提としたクエストに参加しない理由はなく。

 ダブルフェイスには、唯一のフレンドに誘われた以上断るという選択肢はなく。

 トーサツにしてみれば付いていくか、尾行(つけ)ていくかどうかの違いでしかない。

 彼らは紅音の頼みを聞き入れ、二つ返事で引き受けた。

 

 

「それでは頑張りましょう!えいえいおー」

「「「おー」」」

 かくして、光属性忍者美少女と不審者三人によるクエストが始まったのである。

 

 

 To be continued 




秋津茜ちゃんをすこれ!

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