<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
これも読者の皆様あってのものです。ありがとうございます。
これからもぼちぼち頑張ります。
□■地球・某掲示板
名無しの【大戦士】:結局、ギデオンに現れた<UBM>って誰が討伐したんだろうな
名無しの【記者】:たまたまとってた映像ですね
名無しの【記者】:[***]
名無しの【闘士】:は?
名無しの【盗賊】:!?
名無しの【守護者】:?
名無しのマスター志望者:これ何どうなってるの?
名無しの【魔術師】:前衛のことはよくわからんけど、なにこれクッソ速く動いて飛び込んで自爆したってこと?
名無しの【闘士】:肌色多いし決闘ランカーのビシュマルじゃね?はっきりとは見えないけど、もうちょいいい映像無いの?
名無しの【生命術師】:ギデオンにいたのか、捕捉した
名無しの【記者】:これ、本人に許可とってないのでぼかすしかないんですよね
名無しのマスター志望者:は?バカでは?デンドロにそんなルールないだろいいから公開しろ公開しろ公開しろ
名無しの【記者】:【記者】は報復PKが怖いんですよ、戦闘できないんで
名無しの【記者】:まあ<DIN>にしかるべき報酬を払っていただければ公開いたしますので
名無しの【剣士】:エアプ勢にその返しは酷すぎて笑う
名無しの【司教】:ほんまに速いなー、AGIに特化した<エンブリオ>なんかな?
名無しの【大闘士】:ああこんな感じだったんだ、やっぱり彼はすごいね
名無しの【剣士】:<UBM>か、俺も出会いたいものだな
名無しの【剛槍士】:そういうことは上級職になってから言おうか、な?
名無しの【剣士】:ぐはっ
名無しの【大闘士】:?
□■管理AI四号作業所
【千本鎖蔵 チェーンスモーカー】
最終到達レベル:42
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【無渇聖餐杯 グラール】
MVP特典:伝説級【武操鎖 チェーンスモーカー】
【回旋曇 ラディッシュホース】
最終到達レベル:23
討伐MVP;【提督】醤油抗菌 Lv89(合計レベル 189)
<エンブリオ>:【大炎醸 アブラスマシ】
MVP特典:逸話級【すーぱー着ぐるみシリーズ ラディッシュホース】
【制空犬 ドッグファイト】
最終到達レベル:33
討伐MVP:【矛槍者】ソウ・イーグレット Lv62(合計レベル 112)
<エンブリオ>:【巨討槍姫 ゼウス】
MVP特典:伝説級【支配翼 ドッグファイト】
【擬混沌神 エンネア】
最終討伐レベル:53
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【追火蛇姫 キヨヒメ】
*
*
*
「……フム、なるほど」
モニターを見ながら、ジャバウォックは呟く。
「これほど早く古代伝説級<UBM>が倒されるようになるとは想定外だ。素晴らしい……とばかりも言えんが、面白くはある」
ジャバウォックは、<超級エンブリオ>を増やすための試練として<UBM>を作り、配してきた。
そう、<UBM>とは本来第六形態<エンブリオ>への試練。
その手前で打破されてしまうのは本来の役割にはそぐわない。
とはいえ、<UBM>自体は大量に作っているし、配置している。
「このサイガ‐0というプレイヤー、地球時間でひと月前にも見て……ああこれだ」
引っ張り出したログに示されたデータは記憶にもジャバウォックの記録にも新しい。
【霊骨狼狼 ロウファン】と、サンラク。
かなり印象に残る<UBM>と<マスター>だった。
<UBM>の方は、ごく普通の一ティアンが封印していたのであり、それが管理していたジャバウォックにとっても偶然で暴れだした。
<マスター>……サンラクの方はといえば、ほとんど初めてといっていい<UBM>を討伐した<マスター>だ。
フィガロやゼクス・ヴュルフェルのように単独で倒したわけではないにせよ、彼等が会敵したのはいずれも異常なほどの恐ろしい偶然の産物。
そんな者たちと出会い、勝利してきたこと、そして何より異常な彼らの技巧にジャバウォックは少し期待を寄せた。
「さて、そろそろ作業に戻るか」
そう独り言ちて、ジャバウォックは仕事を再開する。
あの<UBM>【ロウファン】についてはいささか問題だったかもしれない、などとジャバウォックは考えることはなかった。
どのみち、他に
□■レジェンダリア某所
「ふうむ」
薄暗い、部屋の中で、一人の男がつぶやいた。
一人の男が、紙の束に目を通している。
紙の束は資料だった。
それも<マスター>に関するもの、レジェンダリアとその周辺で活躍している<マスター>に関するもののみだ。
「何しているの?」
背後から、女性の声がかかる。
彼女の見た目を端的に表すならば、小さな兎。
兎種の亜人に近く、しかしそうとは思えないほどに……ドワーフのように小さい。
服装は魔法職のようなローブを羽織っている。
「うん、いやなんでもねえよステラ」
娘に資料を見られないようにアイテムボックスにしまうと男ーールナティックは立ち上がって娘のほうに向きなおった。
「なんでもないことはないでしょう。<マスター>についての資料?」
「バレちゃしょうがねえな」
背の低い娘とさほど変わらない高さにある頭を掻いて、ルナティックは苦笑を浮かべた。
身に着けていたアクセサリーの効果で《真偽判定》はごまかせても、彼女の直感まではごまかせないようだ。
「ひょっとして、サンラクの情報もあった?」
「ああ、また<UBM>を倒したらしい」
「……そっか」
ステラは、一言だけ返して、すぐに工房を出ていった。
また狩り、というかレベル上げに行ったのだろうとルナティックは察する。
サンラクと関わってから彼女はより一層レベル上げに精を出すようになった。
おそらくは焦っているのだろう。
つい最近までジョブに就いていなかったような人間が、単独でないとはいえ<UBM>を複数撃破すれば焦りもするだろう。
一応、陰ながら魔道具で見守っているが、それでも万全とは言えない。
レジェンダリアは環境が不安定だし、この間の【ロウファン】のように突如<UBM>に遭遇しても何ら不思議はないのだから。
「ロウファンの件は失敗だったな……」
最近起きた、ともすればレジェンダリアに大打撃を与えかねなかったことを思い出し、ルナティックは自省した。
最大の問題は……ギリギリまで【妖精女王】や冒険者ギルドに報告していなかったことだろう。
そして
「……それはできねえ。それだけはできねえ」
このことを伝えれば、間違いなくソレは処分されてしまう。
危険度が、【ロウファン】と比しても比べ物にならないからだ。
危険ならば処分すればいいと人は言うだろう。
だが、それはできないのだ。したくないのだ。
【四禁封牢】は、”六大発明”の傑作としてうたわれているが、特典素材を使っているわけでもないので複数生産できる。
その中の一つが、時間停止効果のあるアイテムボックスに入っている。
【四禁封牢】だけではソレを拘束しきれないからだ。
アイテムボックスから出せば一時間と持たないだろう。
それほどの者が中に眠っている。
”六大発明”ルナティックの最高傑作にして、最低の失敗作。
彼の未練の成れの果てであり、後悔。
彼が造ったモノであり、暴走して<UBM>になったモノ。
そして彼が作り上げた兵器の大半をなげうち、三日三晩かけて、全霊を以て封印したモノ。
今はまだソレ自身とルナティック、そしてこの世界の管理者以外存在を知らぬ怪物は、箱の中で眠り続ける。
けれど。
ソレがいずれ解き放たれる日は、きっとそう遠くはない。
その時、自分はどういう選択をするのか。
どういう選択をするべきなのか。
どういう選択をしたいのか。
ティックはいまだ、答えを出せていない。
To be continued
多分次は三章です。
期間を開けてしまうと思いますが、気長にお待ちください。
名無しの【生命術師】……いったい誰なんだ?()