<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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ボスキャラの前に全員集合させてからボスの倒し方を考えたバカがいるらしいですよ。
折本装置っていうんですけど。


爪牙を振るえ、獣共、混沌の神を討つ為に 其の十

 ■【擬混沌神 エンネア】

 

 

 【エンネア】と名付けられたそれは、生まれた時から<UBM>だったわけではなかった。

 しかし、自然に生まれたモンスターでもない。

 それはもともと、とある<無限エンブリオ>によって作られたモンスターだった。

 <UBM>担当管理AIジャバウォック……ではなく、モンスター担当のクイーンである。

 彼女がデザインした【エンネア】のもとになったモンスターは、あくまで普通のキメラだった。

 タコのような外観をして、九つの頭部をもったモンスター。

 蛸に似せて造ったためか水中への適応力と、微弱な皮膚の硬化能力程度しか特徴がない、普通のモンスター。

 クイーンにしても、どこぞの誰かに褒めてもらいたくて――もとい<UBM>に認定させるために大量に作ったモンスターの一体に過ぎない。

 特に期待はしていなかった。

 しかし、別の管理AI--ジャバウォックは可能性を見出した。

 ■■■■■を投与されたキメラは、それに適合し、大きく変容した。

 巨大化し、ステータスが向上した。

 《固着擬態》、《皮革擬態》といった固有スキルを獲得した。

 何より、<UBM>--世界唯一のモンスターであると認定された。

 

 

 そして、【エンネア】になって。

 ジャバウォックによってグランバロア周辺に放流されて、百年以上たって。

 【エンネア】は特にこれといって何かした、というわけではなかった。

 近くにいたモンスターは襲って食らったが、人を喰らったことは一度もなかった。

 強大な力を持ちながら、伝説級<UBM>としては驚くほどに、【エンネア】は大きな害をもたらさなかった。

 《固着擬態》を使っている間はエネルギーの消耗が抑えられるため、さほど動く必要もなかったといえる。

 狩れるときに、狩れる獲物を狩る。

 そういうスタンスであるがゆえに、これといって目立たない<UBM>だった。

 あるいは、もしかしたら。

 何もなさないまま、誰も傷つけないまま、寿命が尽きるまでの長い時間を過ごす可能性もあった。

 

 

 しかし、状況は最近になって一変した。

 <マスター>の増加がその変化の原因である。

 海上での運用が前提となる尖った、されどそれゆえに強力な<エンブリオ>の数々。

 さらにはジョブに対する万能の適性と不死性ゆえに、彼等はグランバロアの発展に大いに寄与した。

 それでも、【エンネア】にとってはまだ問題はなかった。

 そこらの<エンブリオ>なら耐え抜けた。

 それこそ、「海水を爆薬に変質させて辺り一帯爆破する」などという戦術をとってくるとち狂った<マスター>でもいなければ。

 そんな異常極まりない<エンブリオ>の爆撃を偶然喰らってしまい、【エンネア】はかなりのダメージを負った。

 それでも、伝説級だけあって何とか逃げ延び、陸に近い場所で傷をいやした。

 なぜ陸に近い場所まで来たのかは、もはや語るまでもないだろう。

 それに語られるべきはそこではない。

 

 

 (強く、ならねば)

 

 

 死にかけたことで、【エンネア】はそれをーー自分の中にある使命感を強く自覚した。

 それが、ソレの作られた意味だったから。

 キメラ(作られた命)である【エンネア】にとって果たさねばならない使命だったから。

 もとより、管理AI二体によって選別のために作られた<UBM>にはそういう在り方しか、本来はなかったといえよう。

 強くなろうと決めてからのソレの行動は早かった。

 <UBM>としてデザインされた際に、リソースを探知するスキルを得ていた【エンネア】は大量のリソースを得ようと動き始めた。

 普通ならば巨大な生物が移動すれば気づかれそうだが、《皮革擬態》の応用で光学迷彩を使って切り抜けた。

 そして、ギデオンの近くまでたどり着いた。

 その後も、すぐに食おうとは思わなかった。

 生まれてから戦闘経験が全くといっていいほどないのだ。

 慎重になるのも無理はないだろう。

 そして待ち続けて、ようやく好機を得た【エンネア】は二人の<超級職>を捕食し、異常なほどの力を手にした。

 そして、今はギデオンを目指している。

 【エンネア】は、二つのことを学習した。

 一つは、人間は経験値効率がいいこと。

 もう一つは、今回の大物食いは奇跡的なものであったということ。

 <超級職>が孤立しているというのは

 もはやこれほど簡単に大物を喰らうことはできない。

 ならば、小物をたくさん(・・・・・・・)食べようと【エンネア】は考え、行動を始めた。

 それはどうしようもないほど当然の発想で。

 だからこそ――彼らは立ち向かうのだ。

 

 

『かかって来いやおらあ!』

「IIIIIIIIAAAAAAAA」

 

 

 挑発に乗ったわけではない――もとより人語を理解できないーー【エンネア】だったが、目の前に餌があらわれれば食いつくのが彼の選択。

 【エンネア】は先ほど飛び回っていた男であると理解している。

 先ほどの砲撃は脅威だった。

 しかし、それは別の長髪の男によるものであって、この鳥頭には何の力もない。

 だから、一本の触手を伸ばして、しかし捉えきれない。

 次々と触手の数を先ほど同様四本まで増やしても、追いつけない。

 

 

「IIIIIIAA」

 

 

 苛立ち、触手の数をさらに増やす。

 先ほどまでは移動するために使っていた触手さえもサンラクの攻撃にあてる。

 上下左右三百六十度、あらゆる角度から振り下ろされる触手は、一度としてとらえられない。

 古代伝説級としては低い方だが、それでも鞭のように振りぬかれた触手の速度は超音速に達しているはずなのに。

 何本かは、光学迷彩で隠しているのに。

 一度たりとも、彼には当たらない。

 ほんの僅かであっても、かすりさえすれば【エンネア】の攻撃力で目の前の矮小な男は死ぬ。

 それこそ、<UBM>になる前であっても同じだろう。

 当たりそうになっても、遠くから飛んでくる砲弾で触手の軌道をわずかにずらされる。

 そしてそこに生じたごくわずかな隙をついて、鳥頭は【エンネア】の攻撃を回避するのだ。

 

 

 

「すっごいよねえ」

 

 

 ペンシルゴンは呆れ交じりの声を上げる。

 サポートに回っているソウダカッツォの支援系スキルと長髪の彼の砲撃も的確ではあるが、それ以上に彼の立ち回りが的確に過ぎる。

 相手とて、触手をすべて使っているのが悪手であることはわかっているはずだが、そういう行動をとらされてしまっている。

 彼女の目では追えないほどの速度で八本の触手は動いているが、それでもわかることが二つある。

 嵐のような猛攻に対して、一度も彼は被弾していない。

 そして、彼は一度でも失敗すれば負けるこの状況を、心の底から楽しんでいる。

 先ほどサンラク達から説明を受けたうえでドン引きレベルの作戦を彼女が提案し、それを聞いて外道呼ばわりしつつも笑って引き受けた彼だから。

 

 

「変わらないよねえ……」

 

 

 もうそれなりに長い付き合いになる悪友を見ながら――目で追えてはいないが――ペンシルゴンは呟く。

 彼女の目には、複数の感情が渦巻いている。

 その感情の組み合わせと裏にある理由は、彼女本人以外は知らないことだ。

 

 

「ま、私も心の準備しときますか」

 

 

 隣で最大限に集中しているらしきレイを見ながら、彼女もまたタイミングを見計らう。

 その時(・・・)が来るまで。

 そしてその時は、すぐに来た。

 

 

「キヨヒメ!今です」

『《恋獄降火》』

 

 

 炎熱耐性を消去する特殊弾を放つ。

 狙うはただ一点のみ。

 集まってしまった八つの触手の先端部。

 その一点こそが、彼等の勝ち筋。

 それと同時に、動き出すのは二人。

 

 

 

『《暴徒の血潮(ライオット・ブラッド)》、《配水の陣》!』

 

 

 三本目(・・・)の動作制限解除スキルを発動して速度を維持、否さらに加速したサンラクが【エンネア】の嘴の中に飛び込み(・・・・・・・・)、噛み砕かれながらも体内に突入し。

 

 

「《自爆兵(スーサイド・コープス)--工作兵》、起動」

 

 

 それを確認した、アーサー・ペンシルゴンが彼女の<エンブリオ>、【怨霊支配 ディストピア】のスキルを発動した。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 【ディストピア】の能力特性は、二つ。

 一つは、配下運用。

 アンデッドの弱点を緩和するスキルなどもあり、とあるゲームでは”反理想郷の女帝”とまで呼ばれた彼女には相応しいだろう。

 ただ、ディストピアの本質はそちらではない。

 もう一つの能力特性は、怨念変換。

 彼女のスキルのコストはすべて周囲から集めた怨念であり、それなくして機能するスキルは怨念を集めるスキルだけだ。

 ディストピアのメインとなるスキルは、《自爆兵》。

 蓄積した怨念を糧に自爆特攻生物を量産するスキルである。

 威力はそれなりに高く、第一形態から使っているスタンダードな歩兵型や、先日サンラクに使った歩兵型などバリエーションも豊富だ。

 コストが重いことが唯一の欠点だが、そのコストも周囲から集めれば――搾取すればいいから問題ない。

 そして今回使った工作兵は――寄生型。

 同意を得る必要はあるが、ペンシルゴンが爆破を命ずるまで体内に潜伏している。

 

 

 ただし、内部には大量の生物が寄生している事実は変わらない。

 先ほどからずっと、サンラクは【内出血】しており、【内臓損傷】などの重篤な状態異常も発症している。

 ソウダカッツォが遠くから回復しているが、完全にはカバーしきれていない。

 それでも、サンラクは止まらない。

 しかし、噛み砕かれたことでHPは尽きようとして――一だけ残った。

 

 

『こんな場面で役に立つとはな……』

 

 

 くちばしで噛み砕かれて。

 それでもまだ、サンラクは死んでいない。

 それは、偶然ではないただの必然。

 誰かの<エンブリオ>の固有スキルによるもの……でもない。

 ただの《ラスト・スタンド》という、ほんの五秒間食いしばりをするだけの【殿兵】のジョブスキルだ。

 【闘士】と【闘牛士】をカンストした後に、ルナティックの勧めでとった三つ目の下級職。

 本来は「AGIが高く、死んでも生き返る<マスター>ならば最後の五秒間を活かし、運用できるのではないか」という意図があってのもの。

 だがその五秒間で十分だ。

 ”嬲り殺し”アーサー・ペンシルゴンの最大火力を発揮するには事足りる。

 

 

『はっ、趣味が悪い』

 

 

 最後に一言そう呟いて、直後。

 体内にいたムカデ(・・・)が一斉に体表に出現し、同時に爆発した。

 サンラクは極大の爆発と同時に光の塵へと変わる。

 それは、サンラクのみにとどまらない。

 アーサー・ペンシルゴンが集めた怨念は膨大。

 それをすべて使い切っての一撃。

 其の火力は《ストレングス・キャノン》とさえ比較にならない。

 古代伝説級の怪物であろうと、当然その身の大半が燃え尽き、灰になる。

 

 

 

「「「「「「「「IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」」」」」」」」

 

 

 固定ダメージのように衝撃が伝播するわけではなく、触手の先端まで、爆破されたわけではない。

 それでも、空気を通じて熱が伝わり、残った八つのコアさえもが溶け落ちる。

 

 

「I、A、A」

 

 

 光の塵に変わる寸前、【エンネア】は何を思っただろうか。

 恐怖か、憎悪か、悲しみか、あるいは……後悔か。

 誰にも理解されないままーー混沌の神は討伐された。

 

 

【<UBM>【擬混沌神 エンネア】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【サイガ‐0】がMVPに選出されました】

 

 

 To be continued




次回はエピローグです。

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