<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□■アルター王国・<這いよる混沌>本拠地跡
「IIIIIIIIIIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
『変な声出してんなあ。イアイアってか?』
【擬混沌神 エンネア】は多数のスキルを保有している。
獲物を捕捉するためのリソースを探知するスキルや、もともと持っていた水中に適応するためのスキルなど様々だが、その中でも<UBM>としての固有スキルは二つのみ。
一つは「自身が動いていない間のみ、自身の存在を隠蔽する」効果を持つ《固着擬態》。
さらに言えば《固着擬態》を使っている間はエネルギーの消費をほぼゼロに抑えること。
かつて海中で生活していた時には、普段から使っていたスキルである。
もうひとつのスキルは、【エンネア】の戦闘における根幹ともいえるスキル、《皮革擬態》。
タコが岩などに擬態して身を隠すことをモチーフにジャバウォックがデザインしたスキル。
文字通り、皮膚を【エンネア】が見知ったものに擬態するスキルである。
見た目や質感のみならず、コピー元が有する耐性などの性質さえも獲得できる。
普段は海中で見かけた液体金属系スライムに擬態して物理攻撃への強力な耐性を有している。
それこそ<上級エンブリオ>であるバルドルの砲撃さえもほぼ無傷で耐える。
キヨヒメの炎熱魔法弾を受け止める際には、陸上で見かけた炎熱系のエレメンタルに触手の何本かを擬態させて防いでいる。
あちらこちらで見かけて、知って獲得した数多のモンスターの耐性は、ほぼすべての物理攻撃と魔法攻撃を無効化できる。
隠蔽能力と、強力な耐性スキル。
それが【エンネア】が<UBM>たる所以である。
通常、これを突破するのは容易ではない。
しかし、シュウ・スターリングには、いや彼等には突破口があった。
「サンラク、いけそうか?」
『空中ジャンプありで、触手は八本しかないんだぞ?余裕だ、よっと』
サンラクに抱えられたシュウの問いに、《配水の陣》を使って【エンネア】の頭部に近づきながら回答する。
シュウが考えた作戦は、シンプルだ。
サンラクが、シュウを抱えて接近し、シュウが最大火力の一撃を叩き込む。
レイとキヨヒメはあくまで銃撃で遠距離からけん制する。
問題は、サンラクがほぼすべてのヘイトを集めたうえで接近する必要があることだが、問題なく実行できている。
また、砲撃の無効化もされない。
シュウは見抜いたのだ。
あれの耐性は、内部には適用されないと。
「IIIIIAAAAAAAAAAAA!」
「《ストレングス・キャノン》」
くちばしの奥、体内に砲撃が撃ち込まれる。
それこそは、彼の
彼のSTRは現状五〇〇〇前後。
そして第四形態ではSTRの二十倍のダメージ。
つまりは、十万ダメージ、<上級エンブリオ>の必殺スキルに迫る威力。
たとえ相手が古代伝説級の<UBM>であろうとも、コア一つ砕くには事足りる。
放たれた光弾は、たやすく露出した【エンネア】のコアを砕き。
内臓の詰まった胴体を丸ごと吹き飛ばした。
そして。
「「「「「「「「IIIIIIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAAAAA」」」」」」」」
『は?』
「バルドル!第四形態!」
『了解』
【エンネア】の叫び声が辺り一帯に響いた。
それは吹き飛んだ胴体にあった嘴からではない。
八本ある触手。
そのすべての先端部に口があり、ぱっくりと開いている。
八つの口全てが叫んで、否、嗤っていた。
彼等の努力は無意味だと八つの口で嗤っていた。
サンラクはとっさにレイのいるところまで後退する。
「マジかよ……」
「再生、してますね」
『コア潰しても倒れないの、控えめに言ってもクソでは?』
触手から盛り上がって、胴体が修復されていく。
さらには、嘴や眼球なども再生している。
破壊されたコアを除けば、すべてが再生していく。
『ふと思ったんだけどさ』
「どうした?」
『タコって、なんか頭が九個あるっていうのを聞いたことがあるんだけど』
「あ」
「くそっ!そういうことか!」
シュウは何かを悟ったように頭を押さえる。
「何由来かもわからん奴もあるくせに、今回はちゃんと意味があるのか!やらかしたクソ!」
『どうかしたのか?シュウ』
「あの、サンラク君。……今思い出したんですけど、エンネアって確かギリシア語で『九』って意味だったと思います」
『……つまり、九ってのはもしかして』
「……あいつ、触手八本全部にコアがある。多分それを全部潰さないと殺せない」
【擬混沌神 エンネア】の<UBM>としてのスキルは二つ。
しかし、それ以外にも数多のスキルを保有している。
その一つが、キメラ特有の高い再生能力。
九つある
コアそのものは再生しないが、彼等の意識は一つだ。問題ない。
コアの一つは、先ほどシュウが潰した。
そして残り八つは、すべて触手の中にある。
「バルドル!炸裂弾に切り替えろ!」
『了解』
「キヨヒメ、特殊弾!それと《
『承知』
シュウが戦車を起動して、後に跳び。
レイもまたキヨヒメを構えて、射撃を開始する。
しかし、彼等だけでは耐性を突破できない。
だから、それ以外の火力が必要だった。
「《
『炸裂弾、発射』
「「「IA?」」」
数多の飛来物によって【エンネア】が火炎に包まれた。
飛来したのは、数多の砲弾と弾丸生物。
それらはすべてが【エンネア】に着弾し、爆発する。
それ自体は、大したダメージはない。
せいぜいでかすり傷程度だ。
だが、問題は威力ではない。
「サンラク君、これは……」
『はは……やっと来たか、流石ラスボスだわ』
レイとサンラクはそのスキルを知っている。
先日自分たちを攻撃してきたその弾丸生物を知っている。
だから、彼女らが来たとわかる。
「ヤッホー、サンラク君、レイちゃん、キヨヒメちゃん。お姉さんが先走った挙句苦戦してる残念な鉄砲玉を拾ってあげに来たよ?」
『いやはや随分と装備がボロボロだね、サンラク……おっと失敬、半裸なのは元からだったよね、露出狂』
『外道共め……』
砲撃を撃ち、サンラクにあおりを入れてきたのは、二人組。
まず目に入るのは、身長五メートルほどの人型の機械。
右手には先ほど砲弾を撃ったのだろうランチャーを持っている。
銀色の機体色と、前方に四つ取り付けられたカメラアイが特徴的だが、逆に言えばそれ以外これといった特徴はない。
《鑑定眼》が聞かないので、<エンブリオ>であることは確定だが。
むしろ、左手に乗った女のほうが特徴的だろう。
白い仮面をつけ、細い槍をその手に持ち、黒紫色の禍々しいオーラをまとっている。
「というわけで【死霊騎士】アーサー・ペンシルゴンと」
『【高位操縦士】ソウダカッツォ、助太刀いたすってね……太刀はもってないからランチャーしかないけど』
『カッツォ、面白くないから減点一ポイントな』
「いやいやマイナス十ポイントでしょ」
『あれ、なんでいつの間に二対一にされてるの?』
彼らは、元々先ほどまでギデオンに待機していた。
しかし、サンラクからのメッセージを知ってあとで『お前ら抜きでも行けたわ』と悪友にドヤ顔されるのを嫌がり――もといサンラクを援護するために援軍に駆け付けたのだ。
結果として、二人が相手取ることになったのは<這いよる混沌>の<マスター>や超級職ではなくなぞの巨大な蛸であったが、それはさておき。
『ま、なんにせよやろうぜ』
『分かったよ。あれが噂の<UBM>でしょ?サクッと討伐して特典武具ゲットだぜってね』
「人のユニークに乗っかって楽しい?ユニーク自発できないマン君?」
『この状況でそれ言うのペンシルゴン!お前も似たりよったじゃん!』
「あー、こいつら援軍ってことでいいのか?随分と
「あ、はい、そうです。あの、すいません」
いずれにせよ、役者はそろい、そして。
終わりが始まる。
『さて、クソダコ。俺達にタコ焼きにされる覚悟はいいか?』
「「「「「「「「「IIIIIIIIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」」」」」」」」」
サンラク達と、【擬混沌神 エンネア】との最後の戦いが始まった。
To be continued