<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
■???
ソレは今まで待っていた。
ソレの固有スキルの一つ、《固着擬態》によって誰にも気づかれまま。
目的を果たすには、条件が必要だったから。
グランバロアである日突然、何の前触れもなく広範囲爆撃を受けて、何とか逃げ延びた。
その傷をいやすために陸地に潜伏し、さらに身を守るための力を求めていた。
そして、ソレは力を得るための手段を二つ見つけた。
ようやく、それを手に入れられる時が来た。
□■<這いよる混沌>本拠地・最奥部
サンラク達が放置していた乳母車。
それは木製であり、中が見えないように蓋がされていた。
中はジュエルや、アイテム等が入っていたアイテムボックスなどだろうとサンラクは推測していたが、中を開けて盗ろうとはしなかった。
レイやキヨヒメがいる手前……というのもあったが、それ以上にクエストの達成を気にしてのことだ。
万が一にもフィガロ達が敗れて出入り口をふさがれれば全滅してアウト。
挟み撃ちが最悪だったために【生命王】達とは交戦したが、撃破した以上、長居は無用だ。
極論、子供たちを安全な場所まで逃がした後でこっそり回収すればいいのだから。
閑話休題。
そんな放置されていた乳母車の蓋をこじ開けて、一人の小柄な男がはいだしてきた。
童顔も相まって、見た目だけで言えば、子供にしか見えない。
<マスター>の言葉で言えば、ハーフリンクと呼ぶのが適切だろうか。
「いやー危なかった、【大将偽装】がいなかったらまずかったね」
そう言って、
無理もない、本当に間一髪だったのだから。
彼は、ずっと乳母車に隠れてやり過ごしていたのだから。
それを達成したのは、彼が身に着けた隠蔽効果の装備品、そして一体のモンスターである。
彼の保有する三体目の伝説級改造モンスター、【大将偽装】。
トゥスク本人と同様に見えるよう、ステータスを偽装するスキルと異常な生存能力を持ったモンスターである。
【双狼牙剣 ロウファン】の状態異常スキルにり患しているにもかかわらずいまだに命脈を保っているのがその証左だ。
ちなみに、【大将偽装】に戦闘力はほぼない。
生存力と偽装に秀でた関係上、攻撃力に限れば非戦闘職であるトゥスクと同等なのだ。
このモンスターは、【修羅王】をはじめとした、「それ以外ならともかく接近戦だと絶対勝てない」相手を欺くためのものだ。
サンラクたちでは見破れるはずがない。
(それにしても、とっておきのモンスター二体を失ったのは痛かったなー。流石<マスター>というべきだね)
正直、最大戦力のモンスターをあっさりと失ったのは痛い。
初見殺しとはいえ、さすがマスターというべきか。
因みにタロンのことは心配していない。
通信アイテムが壊れたのか通じないのは不可思議だが、あそこにいるのは恐らくあくまで陽動。
その程度の手合いに後れを取るとは思っていなかった。
ステータス表示で、生存は確認できているから。
このまま脱出してタロンやオルスロットと合流すればいい。
アイテムや前の部屋に放置していた
それならば、逃げ切れる。
またやり直して、”神殺の六”への復讐の準備を整えればいい。
実際ーータロンも含めて動けるものが彼以外にいない現状――それが可能かどうかは別として、トゥスクはそう考えていた。
そう考えて、歩き出そうとして。
「うん?」
ーー歩けなかった。
がっちりと左足を拘束されてしまっている。
サンラク達ではない。
その束縛は、人間の手によるものではない。
そう、
彼の動きを封じているのは、
床ごと地面を突き破って生えている、一本の足。
骨のない弾力のある質感。
そこには丸い吸盤がびっしりとついている。
ぬめぬめとした粘液を身にまとっている、それはタコの足だった。
【生命王】の体に、いつの間にかタコの足が絡みついていた。
いや、それをタコの足と呼んでいいのだろうか。
銀色の金属光沢のある、切り株のように太いそれを。
いや、それは問題じゃない。
いったいどこから現れたというのか。
なぜ今まで気付けなかったのか。
索敵特化のモンスターも元々あちこちに配していた。
それに亜人由来の感知能力を持つタロンだっている。
なのにどうして、こんなものがいるのか。いながら気付けなかったのか。
「……え?」
トゥスクは気づく。
タコの足に、裂け目がある。
いや違う。裂け目ではない、口だ。
なぜ口があるとわかったのか。
それは、口が開いたからだ。
では口がなぜ開いているのか、それは。
そこまで考えたところで、【生命王】トゥスクは触手に
彼の意識はそこで永久に途絶えた。
それはサンラク達のすぐそばであった。
□【猛牛闘士】サンラク
そこそこの人数が囚われていたらしいが、何とか無事運び出せそうだ。
というか、あれだよな。
さっきのモンスターとか考える限り、多分マッドサイエンティスト的なあれだろ【生命王】。
放置してたらキメラの材料にされてたんじゃないか?
そういうの、あるあるだからなあ。
というか、お願いだからキメラにされた村人の死に顔を踏みつけながら死を悼むようなセリフを吐くんじゃねえよ
思い出したら腹立ってきた。落ち着け、落ち着け、ソークール。
とまあ、そんなことを考えながら、アジトの出口が見えてきて。
その時感じたのは、いやな予感。
《殺気感知》の類ではない、自身の経験と感覚によるものだ。
とっさに後ろを振り返ると。
巨大なタコの足――触手が地面から飛び出していた。
「これは……」
『レイ!いったん走って!』
理由はわからんが、とりあえずここから出たほうがいい。
子供を抱えて、撤退した。
直後、穴の奥から、
さらに、触手が伸びて俺達を通り過ぎ、転がっていた瀕死のティアンをとらえた。
そして触手は戻っていき。
「その触手を潰せ!」
『了解』
『え?』
聞き覚えのある声とともに、触手に砲撃が加えられる。
しかし、バルドルの砲火では断ち切れず、俺達がその言葉に反応するより早く触手は戻っていき。
また咀嚼音と、今度は悲鳴が聞こえた。
外にいたのは、フィガロ、土竜人、そして黒い長髪の男。
多分シュウだろうな。
『フィガロ、それにシュウ……だよな?何があった?』
「そうだな。色々あったが、今はそれについて語る余裕はない。非常にまずいことになった」
「まずい、と言うのは?」
シュウは、今まで見たことはない程に深刻そうな顔と声音だった。
まあ、今まで顔を見たことはなかったけど。
雰囲気だよ雰囲気。
「<Infinite Dendrogram>にはな、リソースっていう概念がある。まあざっくり言えば経験値のことなんだが、いろいろ説明を省略するとティアンは経験値効率がいいらしい」
『ああ、らしいな』
それ自体は、ティックから聞いて知っている。
経験値を稼がせてもらった時、ついでみたいな口調で言ってたからな。
まあ、流石に都合よく指名手配のティアンがいるわけでもなかったので、その手段はとれなかったわけだが。
だからモンスターは人を襲うことが多いのだとも聞いたけど・・・・・・あれ?
そもそもこういうパターンってゲームでお約束のパターン。
『なあ、もしかしてなんだけど』
猛烈に嫌な予感がするなと思いながら、俺はシュウに尋ねる。
着ぐるみを脱いだことによって露になった整った顔立ちに、苦い表情を浮かべて説明を続ける。
「サンラク、多分その予想は当たってると思うぜ」
「どういうことだい、シュウ」
「つまりだな」
「もし莫大な
「『『「…………」』』」
「しかも元から俺達に気配を悟られないほどの強力なモンスターだとしたら……どうなると思う?」
「『『「……………………」』』」
シュウがそれを言い終わると同時、アジトが崩れた。
そして、アジトだった瓦礫の山から、
■???
突如、サンラク達にとっては突如現れたソレは巨大な怪物だった。
金属光沢で覆われた、八本の足。
それらの先に付いた、丸い頭部。
一言で表せば、巨大な蛸。
しかし、決してソレはそのような言葉だけで片付けていいものではない。
ソレの名前は【擬混神 エンネア】、伝説級の<UBM>ーー
今は違う。
「……最悪だな」
「これは、すごいね」
『……クソが。なんで、よりによってこのタイミングで強化イベント系特殊行動があるんだよ……!』
「…………」
『……怪物』
ソレを見たものへの感想は様々。
されど、ソレの評価はみな同じ。
今のソレは、<超級職>のティアン二人を狙い通り喰らったソレは。
--この場にいる誰にとっても、未だかつてないほどの
To be continued