<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
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□<這いよる混沌>本拠地手前
初撃が不発に終わったシュウはすぐに別の策をとる。
『バルドル!煙幕!』
『了解』
「!」
戦車が放出した砲弾は、煙幕弾だった。
あたり一帯にまき散らし、白色の煙が散布される。
とっさに毒物の可能性を警戒し、タロンは【快癒万能霊薬】を飲む。
(まあ、いきなりまき散らしたあたり、毒物ではないと思うがね)
あの着ぐるみが防毒の可能性もあるから一応飲んではいるけど。
催涙ガスなども防げるので、本当にこの煙の影響は視界のかく乱だけだ。
かく乱して距離を置き、遠距離戦に持ち込むつもりだろうか。
その選択肢は悪くはない、とタロンは思う。
迷えば、かく乱されれば行動は遅くなる。
そうすれば絶望的な速度の差を埋めることができるかもしれないのだから。
実際、【快癒万能霊薬】の服用や思考に回した分も含めて三十秒は稼いでいる。
だがしかし。
「無駄無駄無駄あ!」
彼は、腕を伸ばして、やたらめったら振り回す。
視覚ではなく、触覚で、戦車の位置を探り当てる。
「そこか!」
彼は戦車の位置を特定――先程から位置を変えていないことを確認して、戦車の上に登る。
そこに、着ぐるみとその仲間がいるだろうと信じて。
「なんだこれは……」
そこに穴の開けられたーー誰も中にいない戦車を見た。
まるで、とても
その穴の意味をタロンが解釈すると同時、バルドルのスピーカーから音声が聞こえる。
『自爆まであと五秒です。五、四、三』
「くそがっ!」
穴を掘って脱出し、なおかつ戦車ごと爆発させる腹積もりなのだと。
とっさにAGI型超級職ゆえの俊敏さで距離を取ろうとして。
そうしなかった。
「浅えよ」
背後から迫る人影――狼の着ぐるみに向きなおる。
そしてその腕を伸ばし、その首をあっさりと跳ね飛ばした。
そうして、彼は戦車の近くにも空いた穴を見る。
「なるほど、囮か」
音で、動きがわかる。
そもそもよく考えてみれば、自爆することを教える意味がないのだ。
自爆戦車は囮。
本命が近接攻撃なのだ。
加えて、あの狼人間は、【破壊者】……近接攻撃オンリーのジョブだった。
遠近両方に対応しているということなのだろうが、それは悪手。
さらに言えば土と人の匂いがしたから確定。
おそらくは穴を掘って脱出し、奇襲してきたのだろうが浅知恵でしかない。
既に意識は穴を掘った着ぐるみの仲間と、オルスロットの交戦相手であるフィガロのほうに向いていた。
「ーー双砕」
だから、背後からの攻撃に気づけなかった。
それが、致命的な失策であるというのに。
「あ、え?」
一瞬衝撃と声に驚愕し、
「腕が、無」
「木断」
シュウ・スターリングの諸手突きによって両腕が肩から粉砕されたのを知覚して、それでも次攻撃に対する対応は取れず。
彼の蹴撃によって下半身と上半身を永遠に分かたれた。
「あ、ぐ!」
「お前のその伸びる腕……肩から生えてるよな。肩ごとぶっ壊せばやはり再生しないか」
一度砲撃によって千切れた腕を再生した時の状況から、継ぎ足されたものだとシュウは察した。
シュウの推測通り、再生は腕のみであり、根元から引きちぎれば再生はできない。
《看破》でようやくタロンは気づく。
突如攻撃してきた、インナーのみを身に着けた、鍛え抜かれた肉体を持った長身の男。
その正体が、先ほどの着ぐるみ、その中身が眼前の長髪の男であるということに。
「お前、どこから?」
「さあな」
正解を言えば、シュウが開けた穴の中だ。
シュウがバルドルをスキル込みの打撃で破壊し、モールが地属性魔法で穴を整形、その中に2人は隠れた。
そしてさらに穴を拡張し、ばれないよう更なる細工をした。
「さっきのは、……土人形かよ!」
「そうです、モグ」
もう安全になったことを確信して、戦車から毛むくじゃらのモグラのような男が出てくる。
それが先ほどのデコイの種。
地属性魔法の応用として、ゴーレムを作り出すスキルは存在する。
地属性魔法の秀でたジョブに就いていることを《看破》で知る。
最も、そんな高尚なものではない。
ゴーレム――生物を生み出すのではない。
ただ土を着ぐるみの中に詰めて、無理やり魔法スキルで動かしているだけなのだから。
一度、偽の策を見破らせ油断を誘い、STRを生かした跳躍で高速移動を行って穴から脱出して、攻撃した。
「ちくしょお、雑魚が、小細工を……」
「もう勝負がついてるから言うが、お前の敗因はそれだぜ?」
「何?」
「お前は、最初から俺達をなめてかかってた。俺たちに自分の力を見せつけるように、いや見せつけるために悠長な舐めプとプレミ三昧」
最初の砲弾をよけずに弾いた時点で、シュウは相手の性格を読んでいた。
そして、彼の信条である「あらゆるものを使って勝利をつかむ」という言葉通り、仲間である土竜人や相手の弱点さえ利用した策を立てた。
偽の策を一度見破らせるという、相手の傲慢さを利用した奇襲を。
初見殺しに特化した<マスター>のことを、タロンは見抜けず、見抜こうともしなかった。
対して、シュウは完ぺきに見抜いて、それをうまく使って見せた。
同行者である土竜人が迷わず彼に従ったのも大きい。(付け加えれば、そもそもタロンは他のメンバーが全滅するまで出てこなかったのであり、それも失敗だった)
それが勝敗を分けたとシュウは言った。
「さて、これで終わりだな」
シュウはすでに変形させたバルドル――腕大砲を装備している。
ひび割れているものの、最後の一撃ーー《ストレングス・キャノン》を放つには事足りる。
「ひっ、クソ、クソクソオ!」
迫りくる自身の終わりを前にして、しかしタロンには何もできない。
もとより足を吹き飛ばされ、両腕は引きちぎられている。
両腕がないからジョブスキルの類は使用できないし、特典武具も、今使用できるものは一つもない。
【ブローチ】は残っているが、【出血】のスリップダメージでそう長くはもたない。
実際、【カメオ】はすでに壊れてしまっている。
彼が詰んでいるのは、誰の目にも明らかだった。
■???
それはどう考えても決着の光景だった。
【生命王】の作った伝説級モンスター、【五頭色竜】と【捕食泥濘】は死亡し。
【掻王】は両手足を欠損して戦える状態ではなく。
さらにほかの構成員たちも既に死亡……光の塵になっている。
だから。
ソレは思った。
ソレは考えた。
ソレは答えを導き出した。
To be continued