<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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爪牙を振るえ、獣共、混沌の神を討つ為に 其の四

 ■PAST・とある犯罪組織について

 

 

 <Infinite Dendrogram>内部においても、犯罪組織というものは数多存在する。

 有名なものは黄河にあるマフィア<蜃気楼>だが、それ以外にも天地の野党やグランバロアの海賊など、国地域を問わず様々な犯罪組織がある。

 歴史をさかのぼれば、国や地域を問わず様々な犯罪者が徒党を組み、数えきれないほどの犯罪組織を生み、そしてその大半が消えていった。

 モンスターや国軍などの様々な理由で消えていった犯罪組織の中の一つが、<混沌の神々>というレジェンダリアの犯罪組織である。

 彼らは数も多かったが、何より多数の実力者ーー超級職に就いたティアンを有しているのが最大の長所であり、討伐しようとするレジェンダリアの国軍からすれば最悪の難点だった。

 他者の蹂躙と自己の強さの顕示を何よりも望む驕慢の殺人鬼、【搔王】。

 強者との斬りあいを望み、強者とみれば人もモンスターも関係なく挑む【剣姫】。

 ただ姉の【剣姫】を慕い、敬愛を以て付き従っていた【超戦士】。

 呪術の研鑽を信条かつ最優先事項とし、そのために実験台やコストとして数多の命を犠牲にしてきた【呪術王】。

 レジェンダリアの政治体制に反発し、国家転覆を望んだ【闇王】。

 生命の改造や創造を己の最上の趣味とし、遍く生物を弄ぶ研究者であり生命の神秘を探らんとする探究者、【生命王】。

 

 加えて、超級職についていない者の中にも、実力者が多数いた。

 それこそ五〇〇レベルをカンストしたものも十名を超えている。

 本当に、国を亡ぼすことができたかもしれないといえるほどの戦力がそろっていた犯罪者集団。

 それこそが<混沌の神々>であった。

 

 

 しかし、その<混沌の神々>は二十数年前に壊滅している。

 たかが六人のティアン(・・・・・・・)の手によって。

 ”幻兎”【幻姫】サン・ラクイラ。

 ”濁流統制”【泥将軍】ルーピッド。

 ”狼王”【超騎兵】ロウファン。

 ”愚者”【杖神】ケイン・フルフル。

 ”六大発明”【神器造】ルナティック。

 そして何より――”六刃””魔境最強”など様々な通り名で呼ばれ、畏れられた【修羅王】イオリ・アキツキ。

 ”神殺の六”と呼ばれた一組のチームによって、当時国内、いや世界最大規模の犯罪組織は滅ぼされたのだ。

 

 

 ”神殺の六”の攻撃によって、構成員の九割以上が死亡。

 <混沌の神々>は壊滅してしまった。

 ごく一部生き延びたものの中に、【生命王】トゥスクと【掻王】タロンも含まれる。

 彼等二人は誓った。

 いずれレジェンダリアにーー”神殺の六”に復讐しようと。

 

 

 トゥスクは理解している。

 別にタロンはレジェンダリアや”神殺の六”が憎いわけではないのだろうと。

 彼はただ殺しがしたい、そして戦果をひけらかせる仲間が欲しいという理由で<混沌の神々>に所属していたし、組織名と制度が変わった今でもそれは変わっていない。

 しかし、その点では、トゥスクも彼と大した違いはない。

 

 

 彼は人もモンスターの区別もなく、生命の神秘に触れるのが好きだった。

 人はそれを狂気と呼んでも、彼は止まれなかったし止まる気はなかった。

 そうして研究を極め超級職へと至り、いきついた先で、彼は仲間を得た。

 誰もかれもがろくでなしで、狂っていた、混沌の集団。

 それが居心地がよくて、そこでずっと研究を続けられれば良かった。

 だから、それが壊された時。

 研究で生み出したキメラやホムンクルスがすべて【神器造(ルナティック)】の作り出し運用する兵器によって塵と化し。

 仲間の大半は、【泥将軍】と【幻姫】の広域制圧・殲滅戦術によって蹂躙され。

 【呪術王】は【杖神】に殺され。

 リーダーでもあった【闇王】は【超騎兵】によって討たれ。

 【掻王】、【剣姫】、【超戦士】は【修羅王】に三人がかりで敗れ、姉弟は諸共斬られた。

 【掻王】はどうにか逃げ延びたが、両腕を切り落とされていた。

 あの時、

 思ったのだ、許せないと。

 誓ったのだ、報復してやると。

 あの時からさらにレベルを上げ、スキルを開発し、加えて強力な手駒をそろえた。

 オルスロットたちと組んだのも手段の一つだ。

 不死身の<マスター>と組んだことで、より効率が上がった。

 今ならば、”神殺の六”に報復できると考えた。

 

 

 ◇

 

 

「よう、トゥスク。オルスロットが今<マスター>一人と戦ってるなあ。決闘ランカー、来た奴らの中のエースだろ多分」

「……そうか。潮時だね」

 

 

 オルスロットなら決闘ランカーであろうと勝つ可能性は高かったが、この時点でオルスロットの勝敗は問題ではない。

 むしろ、このアジトの位置が割れてしまっていることこそが問題だ。

 ここで<マスター>たちを撃退したとして、すでに位置が割れているのならば討伐や強奪のために<マスター>や冒険者が来るだろう。

 最悪、あの”化猫屋敷”が来てしまう可能性もある。

 正々堂々の決闘ならともかく、何でもありの野戦でかの増殖分身の使い手に勝つのは不可能だとトゥスクは見ていた。

 ……タロンはそう思っていないかもしれないが。

 

 

「侵入者撃退後は、待機していてよ。準備を済ませたら私も出る」

「いいのか?」

「構わない。契約ももうすぐ切れるタイミングだったからね」

 

 

 裏切り防止のためにトゥスクとオルスロットの間で取り交わされた【契約書】は、一週間ごとという有効期限が設定されていた。

 それは状況に応じて契約内容を修正するため、というのもあったが、本命はこうして都合が悪くなった時に逃亡するためでもある。

 こうして所在が割れている以上、もうここでの活動は無理だ。

 オルスロットには場所を伝えて本人が望むならば合流。

 望まないならば、王国を離れて別の場所で活動する。

 あくまで協力関係ではあるが、それでも彼にとっては仲間であり、彼等の不利益になるような行動はとりたくなかった。

 

 余談ではあるが、長期間王国やカルディナで、それも人目を避けて隠れ住んできた彼らは”神殺の六”が壮健であることを疑っていない。

 彼は”神殺の六”の多くが死んでいるまたは消息不明であることを知らない。(そもそも【超騎兵】と【幻姫】については公になっていない部分も多いので知るはずもないが)

 ゆえに彼らの復讐は完全に実を結ぶことは絶対にあり得ないのだが……その様なことはトゥスクには知る由もなかった。

 

 

「うーん、まあ何とかなるだろう。何しろ三体とも伝説級相当のモンスターだし、迎撃には十分でしょ」

 

 

 生命の支配者は、気楽にそう独り言ちた。

 半裸の鳥頭たちが彼のいる部屋に突入したのは、それから一分後のことだった。

 

 

 ◆◇◆

 

 

「キヨヒメ!」

『ーー承知。特殊弾発射』

 

 

 半裸の鳥頭が吹き飛ばされた直後、サイガ‐0は即座に動いた。

 魔力式狙撃銃(キヨヒメ)を構えて、サンラクの指示に従い上級進化で手にした特殊弾を発射。

 五頭の竜には着弾し、泥濘のキメラには《魔力吸収》によって吸収された。

 レイは、とりあえず距離を取ろうとするがそのままキメラが攻撃しようとして。

 

 

『隙ありなんだよなあ!』

 

 

 サンラクが(・・・・・)、トゥスクに対して強襲をかけた。

 

 

「ぶあっ!」

『おらあっ!』

 

 

 半裸の鳥頭――サンラクが両手に持った双剣を振るう。

 喉を裂き、心臓を貫き、目を切り裂き、同時に蹴り飛ばす。

 トゥスクは部屋の奥にぶつかって止まった。

 明らかに致命傷だった。

 対して――サンラクは無傷、どこにも怪我はない。

 そのままレイの傍まで戻る。

 

 

「サンラク君!」

『おう、レイ』

 

 

 

 種を明かせば、サンラクの<エンブリオ>のスキルによるものだった。

 ケツァルコアトルが第四形態で獲得した金色の腕輪ーー【形厄輪】のスキルは一つ。

 《製複人形(コンキスタドール)》は、複数の効果を併せ持ったスキルだ。

 第一に、サンラクそっくりなデコイの生成。

 見た目はもちろんのこと、《看破》さえも偽れる。

 ただし攻撃力は一切なく、さらに言えば一撃でも喰らえば砕け散ってしまう。

 AGI(機動力)のみが本体と同等だ。

 二つ目は、本体の隠蔽。

 本人の存在を隠蔽する。

 強力なスキルではあるが、欠点もある。

 一つ目はコスト。

 スキルを一度発動するために、HP上限の半分をコストとする必要がある。

 かなり重い条件ではあるが、そもそもHPの少ない彼にとっては大したことでもない。

 むしろMPやSPではないため有難いくらいだった。

 二つ目は、痛覚。

 スキルを発動している間、痛覚をオンにしなくてはならないという条件がある。

 そして痛覚は分身のほうに移る。

 つまり、デコイが破壊されるとき、体がバラバラに砕ける(・・・・・・・・・・)痛みを感じるということだ。

 それこそ常人なら発狂しかねないほどの痛み。

 本来ならばとても使えないが、サンラクであればそのデメリットはないといってもいい。

 かつて致命傷が当たり前の、痛覚ありのゲームをプレイしていたのだから。

 そして結果として、新たに獲得したスキルがはまり、トゥスクをぶっ飛ばすことに成功していた。

 しかし。

 

 

『あれ、本体ぶっ飛ばしてもモンスター消えないな』

「どちらも無傷ですね……」

『屋内。屋外なら【火傷(・・)】しやすかったでしょうが』

 

 

 サンラクの想定では使い手を倒せば、どうとでもなると思っていたのだが当てが外れてしまった。

 いまだに二体ともこちらに敵意を向けている。

 先ほどのデコイと攻撃を警戒しているのか、こちらに攻撃をしてくることはないが、それで安心できる状態ではない。

 サンラクは理解している。目の前にいる相手がどちらも伝説級ーーあの【ロウファン】と同等かそれ以上の相手であるということに。

 さらにサンラクは先ほどの攻防でHPの半分を失っている。

 状況はすこぶる悪いが、それでも。

 

 

『レイ、キヨヒメ』

 

 

 レイは気づいていた。

 覆面を付けていて、表情などわかるはずがないのに。

 そもそも、前を向いているから顔が見えないのに。

 それでも彼の表情がわかる。

 だって、それが彼だから。

 彼女が欲し、求め、何より憧れた人の在り様だから。

 

 

 

『ーーやろうぜ』

「はい」

『了解』

 

 

 鳥面の怪人は、不敵に笑って怪物に挑む。

 

 

 To be continued




・《製複人形(コンキスタドール)
 わかりやすく言うと「みがわり」。
 ちなみになぜこんなスキルになったかといえば、ケツァルコアトルが冶金の神でもあるから。
 鉱石などから有用な金属を生成することで金属を生成することを冶金というが、そこから派生して、「良いものと悪いもの(奇抜な見た目と痛覚)を分けるスキル」が生えた。
 いうまでもなく元ネタは【ウツロウミカガミ】。

・”神殺の六”
 また出てきたけどこいつら色々やってるトンでも集団。
 その中でも飛びぬけてヤバいのが【修羅王】。
 詳細は追々。
 
 

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