<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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爪牙を振るえ、獣共、混沌の神を討つ為に 其の三

 □■<這いよる混沌>本拠地手前

 

 

 フィガロがオルスロットによって引きずり込まれた時、シュウたちはすでにアジトに止めてあった馬車を強奪していた。

 フィガロによって構成員の大半がデスペナルティになったことで、邪魔が入らなかったのは救いである。 

 

 

『何とかなりそうワン』

「そうみたいですモグ」

『あとは、サンラク達と合流して――バルドル』

『了解』

 

 

 突如、シュウの指示によってバルドルが砲撃を再開。

 ただし今度は狙いをきちんとアジトの入り口に定めた状態でかつ、最も威力の高い徹甲弾でだ。

 当たれば、亜竜どころか純竜さえ無事とは言えないだろう攻撃。

 

 

「おーう、これはすごいねえ。戦車なんて初めて見た」

 

 

 しかしそれは当たる前に、<這いよる混沌>本拠地の入り口から出てきた何者かによって弾き飛ばされた。

 それは一人の男だった。

 顔がトラに似た肉食獣の顔であることから、おそらくレジェンダリアやギデオンに多くいる亜人の類なのだろうとシュウは推測する。

 シュウは眼前のものに《看破》を使うが。そのステータスは見ることができない。

 相手のレベルが相当に高いのだろうということがわかる。

 いや、そうでなくても相手の身のこなしや雰囲気でわかる。

 わかってしまう。王都アルテアで、王国最高戦力とされる同類(・・)を見たことがあるから。

 <DIN>やサンラクから得た情報だけでは不足だったのだと。

 

 

「二人いたのか――<超級職(スペリオル・ジョブ)>」

「正解。俺は【掻王(キング・オブ・スクラッチ)】のタロン。短い間だろうけどよろしくな」

 

 

 爪拳士系統超級職であると宣言した男は、爪を付けた腕を伸ばして(・・・・)攻撃してきた。

 

 

『っ!バルドル!』

『了解』

 

 

 戦闘開始と同時、主の意をくんだ戦車(バルドル)は砲撃を加える。

 戦闘開始から動かぬ【掻王】の体ではなく、シュウ自身へと。

 

 

「ほう……」

『ハッ、どうよ』

 

 

 砲撃の直後、タロンは彼の腕が千切れ飛んでいることに気付いた。

 タロンは慌てることもおびえることもなく状況を分析する。

 

 

(おそらく【救命のブローチ】のような致命ダメージ回避アイテムを使って生存、なおかつ【ブローチ】を警戒して俺の腕を捥ぎに来た、か。やられたな)

 

 

 一見【救命のブローチ】を破損したシュウのほうが不利にも思えるが、《タイガー・スクラッチ》のような多段判定攻撃を使う彼を相手にするならブローチはほとんど用をなさないのだ。

 加えて彼が両手に装着していた爪――伝説級特典武具が破損してしまっている。

 いずれ修復するにせよ、今この状況では使えない。

 ゆえに最初の一合はシュウに軍配が上がる。

 

 

「ま、腕は無事(・・・・)なんだがなあ」

 

 

 

 しかし、【掻王】の途中でちぎれた腕は再生(・・)した。

 彼の腕は【生命王】トゥスクがほどこした《生体改造》によって改造が施されている。

 寿命を削るわけにもいかないため《主体改造》ほどではないが、それでも<超級職>のスキル。

 腕の伸長と、腕限定の形質復元能力を与えている。

 他の部位はともかく、腕は切り落とされようが燃えようがたちどころに修復する。

 

 

(さて問題は、あいつらがこっから何をするつもりなのかだなあ)

 

 

 特典武具という自身の手札を一つ潰されたにもかかわらず、タロンには危機感はない。

 彼は理解しているから。

 一度限りの戦闘ならば、<マスター>程度には負けないだろうと。

 彼らは基本的に万能の適性と固有スキルである<エンブリオ>、そして不死性を持つ。

 しかしそれはいずれも脅威になりえない。

 <エンブリオ>の種はおおよそ暴いた。MPの供給なしに動かせる戦車は強力だが、どうとでもなる。

 不死性は言うまでもなく一度きりの交戦では脅威にならず、万能の適性があろうとも上級職相手ならどうとでもなる。

 加えて、不死身だからか、<マスター>は誰もかれもが技巧が稚拙だ。

 自分にかなうはずがない。

 それこそ一度きりの戦闘に限れば、【猫神】相手でも負けるとはタロンは思っていなかった。

 

 

 それは実力に由来する自信。

 この身はただ一人……かつてレジェンダリア最強と呼ばれた男(・・・・・・・・・・・・・・・)以外に負けたことなどないのだから。

 両腕を切り落とされ、HPの大半を削られて、それでも逃げ延びた。

 【生命王】とは、タロンの目的は違う。

 彼はただ強さを。

 そのために彼に協力していた。

 

 

 □■<這いよる混沌>本拠地内部

 

 

 シュウの砲撃と、フィガロの存在。

 それらによって生じた隙を突き、サンラクは見事レイを抱えて本拠地内に潜入した。

 ステラから安く買い取った幻術の【ジェム】を使うことで他者の目を欺いたこと、そもそも常人では反応できないほどに速度が速かったことから気付かれずに済んだ。

 なお、レーダー系の能力を持った<マスター>がいたが、不運にも状況を報告する前にどこかの戦車による流れ弾でデスペナルティになっていたため、サンラク達の侵入は発覚せずに済んでいる。

 ある程度の人数がいることはわかっていたはずだが……戦車が複数人で運用するものという常識にとらわれていた、<マスター>たちは気づけなかった。

 

 

『《製複人形(コンキスタドール)》』

 

 

 サンラクがスキルを宣言すると同時、腕輪ーー彼の<エンブリオ>が輝き、半裸の鳥頭はレイ達よりも少し先に進む。

 そして、彼等は随分と広い部屋に出た。

 

 

『発見。捜索対象と思われる子供を発見』

「《看破》によると、この子で間違いないみたいですね」

 

 

 サンラク達は縛られた人間の集団を……その中にいる目的の少女を発見していた。

 《看破》で見る限りは話に聞いていた、救助対象の子供で間違いないだろうと判断できた。

 

 

『なんというか、思ったほどモグラっぽくないな。チョウチンアンコウみたいに性別で見た目違う感じか』

『疑問。その例えはどうなのですか?』

 

 

 見た目どころか大きさが別の生物ではないかと思えるほど異なる生き物を例に挙げるのはどうなのかとキヨヒメは思った。

 ちなみに地球はおろか海すら見たことのないキヨヒメだが、チョウチンアンコウについては知識としては知っている。

 レイの記憶から……もとい彼女が陽務家に押しかけた際に食したチョウチンアンコウとその場で聞かされた蘊蓄がその情報源だ。

 斎賀玲の中にある魚の知識の九割がたは楽郎とリンクしているのでさもありなん。

 

 

「とりあえず、全員運びましょうか」

『同感。私も手伝いましょうか?』

「薬で眠らされてるなら、一応解毒薬はありますけど」

 

 

 状態異常への対策の重要性を把握しているーーどこかの<UBM>と交戦したことで把握させられたレイたちはある程度の備えはしている。

 

 

『いや、いったんおいていこう』

 

 

 サンラクだけが反対した。

 鳥面の目は、前方の扉を見ている。

 

 

『まだ、問題のリーダーに出くわしてない。そいつを倒してからでも遅くない。というか、多分あそこにいる』

 

 

 

 サンラク達の視線の先は、最奥部の部屋に向けられていた。

 

 

 ◇

 

 

「やあやあどうも。ちょっとそこをどいてもらえるかな?これからちょっとここを出る予定だからさ」

 

 

 最奥部の部屋を開けたその先。

 まるで、日常会話のような気軽な声だった。

 サンラク達の目の前にいるのは、奇妙な男。

 荷車を押す、牙を生やした亜人と思しき人型の異形。

 紋章はなく、間違いなくティアンだとわかる。

 

 

「貴方がここのリーダーですか?」

「うん、そうだよ。自分は<這いよる混沌>のオーナー、【生命王】トゥスクさ」

 

 

 男はあっさりとそう名乗る。

 自分が野党クランの長であると。

 そしてその直後、トゥスクは行動を起こす。

 

 

「《喚起》ーー【五色頭竜】、【捕食泥濘】」

「え?」

『レイ!とりあえず特殊弾を――』 

 

 

 宣言と同時、荷車から二体のモンスターが出現する。

 男に呼び出された二体のモンスター。

 それらは、いずれもキメラだった。

 地竜を素材とする胴体と天竜を素材としている五つの頭を持ち、それがすべて別のドラゴンから構成されている、ドラゴンベースのキメラである【五色頭竜】。

 体積の大半をスライムで構成しつつも、内部には小型のゴーレムが存在し、子宮の中にいる胎児のようなキメラの【捕食泥濘】。

 五つ首のキメラが、その首の一つをレイへと伸ばしーー。

 

 

『あ』

 

 

 咄嗟にレイをかばって突き飛ばした、半裸の鳥頭が食いちぎられて木っ端みじんにーー光の塵になった。

 

 

 To be continued





カッツォ誕生日おめでとうございます!(なお出番)

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