<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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間に合わなくて申し訳ありません。


爪牙を振るえ、獣共、混沌の神を討つ為に 其の一

 □【猛牛闘士】サンラク

 

 

「まずは、僕が一人で行ってもいいかな?」

 

 

 <這いよる混沌>本拠地の前に到着する前、バルドルで移動しているときに、そうフィガロに言われて、正直何を言われているのかわからなかった。

 ちなみに俺たちは戦車の上に座っている。

 フィガロはなぜかあたりに矢を放っているがそれはいい。問題はさっきの問題発言だ。

 どう考えても、一人で突撃は非合理的な選択肢に思えた。

 俺たちがあまりにも混乱した顔をしているからか、フィガロは補足してくれた。

 何でも、フィガロは周囲に味方がいると、異常に動きが悪く(・・・・・)なる(・・)らしい。

 よくわからんけど、つまり周りに人がいると勉強に集中できないみたいな感じだろうか。

 いまいちよくわからん感覚なんだが、まあそれは別にいいだろう。

 

 

『フィガ公の欠点もそうだが、一番の問題はどうやって奪還するかワン。問題の子供を人質に取られたらどうしようもないワン』

「……?それは、人質を害されるより早く全員倒せばいい話じゃないの?」

「『『『「…………」』』』」

「あれ、なにか変なことを言ったかな?」

「フィガロさん、流石にそれはやめていただきたいですモグ……」

 

 

 やっぱりこいつに任せるのはまずいんじゃないか?

 野盗クランは壊滅しても、救出対象死亡でクエスト失敗しそう。

 言い方はあれだが、救出クエストとか護衛とか一番向いてないタイプだ。

 外道、とは違う。脳筋、というか大雑把。

 というか、こいつあれじゃな。さっきの発言も含めて考えると、根本的に団体行動とか苦手なタイプでは?

 

 

『要は、人質にとるという選択肢を与えなきゃいいワン』

『まあ、そうだな』

『俺に考えがあるワン』

 

 

 そしてシュウは、一つの策を提案した。

 俺たちは了承した。

 

 

 ■<這いよる混沌>本拠地

 

 

「いますよねえ、前方に五人」

「ふうん、向こうは探知されてることに気付いてねえのかな」

 

 

 レーダーの<エンブリオ>によって、サンラク達が近くまで来ていることは把握されている。

 轟音が響いた。

 同時に煙幕が立ち上る。

 それは基本がファンタジーな<Infinite Dendrogram>ではまず見ないもの。

 それは砲撃だった。

 

 

「なんだ?戦車でも向こうはもってるのか?」

「ダメです!見えません!」

「くそっ!《光学迷彩》の類か?」

 

 

 前方から、アジトに向かって何発も砲弾が撃ち込まれていく。

 どこか一か所を狙っているのではなく、やたら滅多ら打ち込んでいるらしい。

 撃ち込まれた際に爆炎と煙が上がっているので、被害がどの程度かはわからない。

 

 

「どうやら人質奪還を狙ってるわけじゃなさそうだ」

「『こいつがどうなってもいいのか?』っていうの一回やってみたかったんだけどなあ」

「いや、それ言った直後に殺されるやつじゃないか?」

 

 

 彼らの中には、純粋に悪役ロールを楽しむものも多い。

 <這いよる混沌>に所属する<マスター>の仕事が<マスター>との戦闘に限られていたこともその一因かもしれなかった。

 砲撃が収まり、彼らはお互いの生存確認に動いた。

 

 

「全員無事か?」

『あーだめですね、二人デスぺナってます』

「こっちは全員揃ってるよ」

「俺達もだ、がっ!」

 

 

 ステータスウィンドウでパーティーメンバーの無事を確かめること自体は、間違っていない。

 しかし、彼らはそれによって、見るべきものを見逃した。

 拠点から出ていたものの一人が、頭を矢に射抜かれて倒れた。

 遅れて、彼らも気づく。

 襲撃者の中には、王国屈指の有名人(・・・)がいることを。

 

 

「おい、あれ!」

「ふぃ、フィガロだあああ!決闘ランカーのフィガロがいる!」

 

 

 彼らも当然、フィガロのことは知っている。

 ギデオン屈指の有名人。

 複数の特典武具を獲得し、決闘ランキング上位にまで上り詰めている男。

 また、ダンジョン探索者としても有名でありソロでありながら、最も深く<墓標迷宮>に潜っているのではないのかとうわさされている王国でも指折りの実力者。

 そもそもここにいるのは大半が対人勢。

 決闘ランカーの顔触れはすべてチェックしている。

 

 

 そうして、戦闘は始まった。

 彼らのだれもが気付かない。

 砲撃とフィガロに気を取られて気づけない。

 何かが、煙にまぎれて突破していったことに。

 

 

 ◇

 

 

『砲弾の命中を確認』

『ひとまず、作戦の第一段階はうまく言ったワン』

「だ、大丈夫なんですモグ?」

『安心しろ、あれはブラフ用の威力の低い砲弾だから大丈夫だ』

 

 

 戦車の上で、狼の着ぐるみを着た男ーーシュウ・スターリングは呟いた。

 彼が考えた作戦はこうだ。

 バルドルの砲弾の中で、比較的威力の低く、かつ派手な砲弾を撃つ。

 こうすることで、向こうは自分たちがさらわれた者たちの奪還に来たとは思わないだろうと推測し、実際その通りになっている。

 砲撃が終わった後に、決闘ランカーとしてよく知られたフィガロが前に出る。

 敵は、決闘王者に迫る戦闘能力を誇る彼を放置できない。

 その隙をついて、サンラクとレイが突入、救出に向かう。

 懸念があるとすれば、本当に煙幕だけで他者の目を欺けるかどうかだったが、サンラクがとある伝手で幻術系のジェムを複数持っていたため無事解決した。

 

 

「あの、本当にここからでなくていいんですモグ?」

『ああ、むしろ絶対にバルドルの中から出ちゃダメワン』

 

 

 戦車の中から話しかけてくるモールにこう答える。

 

 

『あんたの頼みとは別に、俺も俺でやることがあるワン。ちょっと手伝ってほしいワン』

「というと?」

『さっき言ったが、さらわれた人間が――エリーゼちゃんだけとは限らない』

「…………」

 

 

 それは、作戦立案の時、シュウが説明したこと。

 確かにさらわれたのが一人だけとは思えない。

 いや、実際被害は多数出ているのだ。

 彼らの主要な活動が強盗であるというだけで。

 

 

『あんたには何の得もない話だが……救出用の馬車を運ぶのを手伝ってほしいワン』

「わかりました、やりますモグ」

『ありがとな』

「いえ」

 

 

 もとより合理的な選択だけで動いているのなら、この場にはいない。

 <マスター>に任せきりにして、妹を助けに来たりはしない。

 実際そうしようとした二人に、連れていくよう頼んだのは彼自身の選択だった。

 だから今も、彼は非合理的な選択をする。

 

 

「とりあえず、《クリエイト・アースゴーレム》。これで馬車を移動させましょうモグ」

『助かるワン』

 

 

 モールの地属性魔法によってゴーレムが生成され、馬車を動かし始める。

 それを見て、何かを思いついたシュウは彼にもう一つお願いをした。

 

 

 ◇

 

 

「ちいっ!」

 

 

 力士風の<マスター>が前に出る。

 瞬間、彼に三つの変化が生じる。

 まず、雷光が彼の全身にまとわりつき。

 続いて、彼の皮膚が紫色に変じ。

 煙を上げながら、皮膚が高速で再生を開始した。

 それは「全身に低コストで雷光をまとう代わりに自分もダメージを負う<エンブリオ>」と、「再生能力に秀でたモンスターの皮膚」のシナジー。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 また別のマスターは、背中から腕を追加で四本生やし、同時にすべての腕から火球を発射する。

 加えて、その<マスター>の体内には、MPタンクとして生贄の脳髄が埋め込まれている。

 

 

(なるほど。これが、前々から聞いていた「改造人間」か)

 

 

 フィガロは、改めて<這いよる混沌>の強さの理由を思い出していた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 【命術師】というジョブがある。

 【病術師】や【毒術師】同様、錬金術師から派生したジョブの一つであり、ホムンクルスなどといった生物の扱いに特化している。

 そんな【命術師】のジョブスキルの一つに、《生体改造》というものがある。

 文字通りモンスターからとれるアイテムやティアンを素材として埋め込み、モンスターや人間を改造するスキルである。

 無論、欠点はある。

 全く違うものを埋め込もうとすれば拒絶反応が出てしまい、それで死ぬことも珍しくない。

 そしてそれを防ごうとすれば、コストがかかってしまう。

 つまるところ、真っ当に運用するなら、《生体錬成》や《モンスター・クリエイション》などのスキルで一から作ったほうが手っ取り早い。

 それこそ、超級職の《生体改造》よりも上級職のそういったスキルのほうが効率がいい程だ。

 しかし、当代の命術師系統超級職ーー【生命王】だけは話が別だ。

 

 

 彼は<マスター>増加後、《生体改造》を改造して新たなスキルを生み出した。

 その名を、《主体改造》。対<マスター>限定の改造スキルである。

 《生体改造》と比べて、遥かに低コストだが本来ならば二つのデメリットを有する。

 一つ目は、寿命。

 メンテナンス用の薬剤を投与しても、せいぜいで三年しか生きられない。

 とはいえ、これは<マスター>にとっては大した痛手ではない。

 そもそも戦闘前提のゲームで、三年以上の間ノーデスで生きられると考える者は少ない。

 二つ目は、痛み。

 このスキルを使用されたものは、尋常ではない激痛に常時さいなまれることになる。

 ティアンやモンスターであれば、即発狂しかねないほどの激痛。

 また、なぜか麻酔なども効果を発揮しない。

 しかし、この重すぎるデメリットも、痛覚の無い(・・・・・)<マスター>には問題がない。

 かくして、<マスター>との共同戦線はうまく回っていた。

 

 

 ここで一つ、質問を出そう。

 <超級職>が手掛けた改造人間。

 それは、フィガロを倒すに足るものだっただろうか。

 答えは否だ。

「ごばばばばっば!」

「莫迦な、こいつ速すぎグベア!」 

 

 

 

 彼の<エンブリオ>、【獅星赤心 コル・レオニス】のスキルが一つ、《生命の舞踏》。

 戦闘時間比例強化による、装備品の性能強化。

 移動中、フィガロは弓矢でモンスターを狩っていた。

 言い方を変えよう。彼は移動中(・・・)ずっと(・・・)モンスターと戦っていた。

 それによって装備品は格段に強化され、どうしようもないほどに強くなっている。

 

 

 ◇

 

 

「これで終わりかな?」

 

 

 光の塵を眺めながら、フィガロがつぶやく。

 

 

「くそぉ、こうなりゃあの人を呼んで……」

「待て」

「オーナー?」

「あいつは俺がやる」

 

 

 圧倒的な蹂躙の光景、それを前にして名乗りを上げようとする者がいる。

 オルスロットが、前に出た。

 それは蛮勇か否か、とにかく名目上のトップが姿を現したのだ。

 

 

「フィガロ!決闘しよう!かかって来い!」

 

 

 それはあからさまな挑発。

 ましてフィガロはオルスロットのおおよそのスタイルをサンラクから聞いて知っている。

 決闘で、オルスロットに勝つのは至難であると。

 普通ならば、背後にいる仲間(シュウ)に砲撃してもらうのが最上の策。

 しかし。

 

 

「いいね」

 

 

 フィガロは、それを選ばない。

 真っ向から戦い、小細工もしない。

 また、仲間とくんで戦うこともできない。

 彼もまた、全力を発揮できるのが決闘であるがゆえにあえて彼の挑発に応じ、接近して斬りかかる。

 そして彼らの戦いは始まり。

 

 

「《世界は数多の人が作る(クトゥルフ)》」

 

 

 オルスロットが、第四形態で獲得した自らの<エンブリオ>の必殺スキルを宣言し。

 直後、世界(ワールド)がフィガロとオルスロットを飲み込んだ。

 

 

 To be continued


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