<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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お久しぶりです。


動き出すものたち。

□【猛牛闘士】サンラク

 

 

「そういえばさ、サンラク君のそれって<エンブリオ>だよね?《鑑定眼》効かないし」

『露骨に話そらそうとするなよ』

「で、どんな能力なのかな?見た目はただの変態ファッションだけど」

『先にお前のほう説明しろ自爆モンスター』

「あっはっはっ、嫌だよ鳥蛮族」

『「…………」』

 

 

 まったくこれだから外道は。

 鉛筆は、周りで誰も聞いていないことを確認してから話し出した。

 というか、いつの間にか俺らの周りだけ人がいないな。

 こいつ……なんかしたのか?

 

 

「口で説明するより見せたほうが早いんだけどねえ。まあ三人とも察してると思うんだけど、さっきの自爆モンスターが私の<エンブリオ>--TYPE:レギオン・テリトリー、【怨霊支配 ディストピア】、サ」

 

 

 まあそれは知ってる。

 後<エンブリオ>の銘も驚くに値しない。

 かつて反理想郷の女帝(ディストピア・エンブレス)と呼ばれたこのド外道には似合いの名前である。

 

 

「何か言いたいことがあるなら言ってもいいよ」

『言ったら粛清されそうだなって今思いました』

「よーし出血大サービスだ!爆殺か刺殺か選ぶといいよ!」

 

 

 

「質問。具体的な説明を求める」

「うーんとねえ、まず自爆生物ーー《爆死体(スーサイド・コープス)》には今のところ四つのバリエーションがある。さっき君たちに撃ったのは威力が落ちる代わりに飛行能力と速度の秀でたものだよ」

『え、強くない?』

 

 

 詳細は不明だが、バリエーション増やしてそれはヤバい。

 似た能力のキヨヒメにしても、追尾にリソース振ってるとは言え弾は二種類しかないのだ。

 おまけにバカスカ撃ってたところを見るに、コストは相当軽いんだろうし。

 

 

「ま、コストが重いからねえ。自前じゃないだけいいんだろうけど」

『は、マジで?』

 

 

 コスト重いの?

 自前じゃないことでそれを解決してるんならぶっ壊れ案件では?

 

 

 ◇、

 

 

 

 鉛筆曰く「まだ仕込みが終わってないし、カッツォ君もまだギデオンに着いてないから」とのことで、本格的な攻撃はしばらく先とのこと。

 とりあえず俺たちはそのままログアウトすることになった。

 

 

 ログアウトしたうえで、ペンシルゴンからもらった資料を見る。

 中身はくだんの野党クランーー<這いよる混沌>に関する情報だ。

 うーん。

 メンバーのうち、オルスロット君も含めて大半の<エンブリオ>やジョブ構成、スタイルが割れてるなあ。

 あ、彼がリーダーなのね。

 <マスター>を相当やってるみたいだし、そこから情報を得たのか?

 あ、これ後半はティアンの情報っぽいな。

 まあいいだろこれは別に見なくても。

 山賊のNPCが強かったり特異な能力を持ってるとも思えんし。

 リーダーが、あのオルスロ某な時点で部下の質はお察しだし。

 しかし変だな。

 これだけ情報があるなら情報屋にでも売ってしまえばいい話なはずだが。

 そもそもこいつがオルスロットを潰すために動いている、という状況がまずおかしい。

 あの時、シャングリラ・フロンティアで鉛筆は確かに目的のために弟を売り飛ばしはした。

 そう、あくまでも目的のために(手段として)、だ。

 少なくともペンシルゴンがわざわざ目的にする相手ではない。

 可能性は二つ。

 外道が進行し、ついに身内すらも本格的につぶそうと考え始めたか。

 そうでなければ。

 

 

「俺達には言えない、別の目的があるのか」

「楽郎君」

「うおっ!」

 

 

 いつの間にか玲が背後に回っていた。

 びっくりした。

 それにしてもこの気配を感じさせない立ち回り。

 さすがはリアルストロング・玲というべきか。

 とりあえず用があるのは間違いないので、彼女のほうを向く。

 

 

「ところで、玲、どうしたの?」

「何を考えていたんですか?」

「え?」

「正直に、答えて、くださいね?」

「あ、はい」

 

 

 

 隠す理由も特になかったので、俺は正直に伝えた。

 ペンシルゴンの狙いが何かわからない、ということを話したのである。

 すると、玲の答えは単純だった。

 

 

「大丈夫だと思います、だって」

「うん?」

「楽郎君に何かするつもりなら……私が殺しますから」

 

 

 最後にぼそりと付け加えられた言葉は、聞かなかったことにした。

 まあ、どうにかなるでしょ。

 

 

 

 

 

 □■ギデオン周辺・某所

 

 

 この<Infinite Dendrogram>で山賊行為が行われることは滅多にない。

 いや、厳密にいえば最近急速に減っている。

 理由は、<マスター>の存在である。

 <マスター>は不死身であり、恨みを買うような真似をした場合のリスクは大きい。

 ましてや<マスター>に限らずこの世界の人間は、ジョブシステムゆえに見た目では戦闘能力を判断できない。

 それならば、殺せば死ぬ上に、大きさで格をある程度判断できるモンスターを狩ったほうがまだましである。

 そう考えるのが普通だ。

 しかし、普通でない者もいる。

 例えば、<マスター>で構成されている野盗。最近頭角を現してきた野党クランの<ゴブリンストリート>のように、<マスター>ゆえに<マスター>を恐れない手合い。

 例えば、熟練のティアン。不死身の存在を敵に回してもどうとでもなると考える、相応の実力と自信がある手合い。(余談だが、天地に特に多い)

 例えば、<クルエラ山岳地帯>にいる数多の山賊団。成功報酬が大きすぎるがゆえに、リスクを度外視してしまう手合い。現時点では、冒険者ギルドにとっても大事な収入源である。

 

 

 では、問題の野党クラン、<這いよる混沌>は、その三つの中のいずれかであろうか。

 --答えは、否である。

 

 

「オーナー」

「どうした?」

 

 

 クランメンバーである<マスター>の一人が声をかけ、オーナーと呼ばれた、いかにも悪役といった風な黒い軽装鎧を身に着けた青年が顔を上げて応える。

 キャラメイクしているからか、あるいは元がいいのか、整った顔立ちをしていた。

 彼の名は、オルスロット。

 <マスター>であり、この<這いよる混沌>の二大オーナーの一人である。

 もともと<這いよる混沌>は、ティアンのみで構成されたクランだった。

 そして<マスター>をクランに迎えるにあたり、オルスロットを二大オーナーの一人とすることになったのである。

 通常のクランはオーナーは一名のみだが、<這いよる混沌>は国家所属のクランではない。

 ゆえに問題はない。

 最も、彼らのやっている行為は問題でしかなかったが。

 

 

「いや、メンバーから通信があって。収穫を持って帰ってくるらしいです」

「そうか」

「あ、でもメンバーのうち二人が<マスター>と交戦してデスぺナったみたいです」

「なるほど。三日後には復帰できる(・・・・・・・・・・)んだよな?」

「あ、はい、それはもちろん(・・・・)

 

 

 <這いよる混沌>は強盗を現在の収入源とするとするクランだ。

 当然だが、強盗は指名手配に類する犯罪だ。

 しかし、オルスロットたちは指名手配になっていない。

 それはこのクランの方針ゆえだ。

 もともと<這いよる混沌>は<マスター>が来る前からあったクラン。

 ゆえに強盗自体は、もう一人のオーナーも含めたティアンが行う。

 そして、護衛やあるいは偶然そこに居合わせた<マスター>をたたくのがオルスロットたちの役割だ。

 <マスター>を<マスター>が殺傷したとしても犯罪ではない(・・・・・・)ため、オルスロットたちはほとんどノーリスクで強盗ができる。

 この話を持ち掛けられたとき、オルスロットたちは何とうまい話だと思ったものだ。

 

 

『おや、オルスロット君。こんにちわー』

「よう、トゥスク。どうかしたのか?」 

 

 

 近づいてきたのは、奇妙な風貌の男だった。

 口から牙をはやした、レジェンダリアにいる亜人のごとき容貌。

 だがそれ以上に奇妙なのは、蓋をした荷車(・・・・・・)を手で押していることだろうか。

 彼の名は、トゥスク。この<這いよる混沌>のもう一人のクランオーナーである。

 

 

『今週分のお薬を渡しに来たんだよ。ちゃんとクランメンバー全員で飲んでね』

「助かる。それと、三日後クランメンバー二人への手術(・・)を頼む」

『あー、また死んじゃったんたんだね。わかった、ちなみに誰?』

「キルルとねじーろだな」

『ああ、その二人ならタロンを中心に素材もかなり集めてるし、すぐに取り掛かれるよ』

「そうなのか?」

『うん、ティアンの死体がほとんどだからね、どうにかなるよ』

「そうか、よろしく頼むぞ【生命王(・・・)】」

『うん。<マスター>の撃退以外は任せてよ』

 

 

 オルスロットはもう一人のオーナーを、あえて彼のジョブで呼んだ。

 <這いよる混沌>、その正体は。

 <マスター>ゆえに<マスター>を恐れない者。

 実力者のティアンーー<超級職>ゆえに、<マスター>を恐れない者。

 双方を兼ね備えた、現状最悪の野党クランである。

 

 

 ■???

 

 

 ソレは待っていた。

 あの時からずっと待ち望んでいた。

 いまではない、その時を。

 今動いてしまえば、ソレの願いはかなわない。

 ゆえにソレはまだ動けない。

 ソレはいまだに待ち続けている。

 されど、ソレは信じていた。

 ソレが動くときは、ソレの目的を果たすときは、そう遠くはないのだと。

 

 

To be continued


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