<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~   作:折本装置

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祝・シャンフロコミカライズ発売記念&<Infinite Dendrogram>発売日!
すいません。
本編間に合わなかったので今回は閑話です。



閑話:SF×ID〇

 □■某月某日・N県N市・椋鳥玲二

 

 

 八月も半ばに差し掛かっていた。

 いわゆるお盆シーズンという奴が来ており、帰省ラッシュ真っただ中だったが、俺は受験勉強のためそういった行事には参加していない。

 俺が目指している大学が大学であることや、そもそも、長男の兄が東京から戻ってきていないこともあって、俺が参加していないことが問題になるわけでもなかった。

 ……姉に至っては、今どこで何をしているのかもわからないし。

 まああの姉のことだから、少なくとも生きてはいるだろうけど。

 正直姉を死なせるような何かがいたら、正直この世の終わりなんじゃないかと思ってしまう。

 あ、でもアマゾネスの女王は姉と互角だったっけ……嫌なことを思い出してしまった。

 それはともかく、今は俺を含む受験生にとっての天王山。

 娯楽もそれに関する情報含めて封印し、受験勉強に集中する時期だ。

 兄から電話がかかってきたのはそんな時だった。

 

 

「よう、玲二。元気か?」

『大丈夫だよ、ありがとう兄貴。あ、プレゼントもありがとうな』

 

 

 先月――七月七日は俺の十七歳の誕生日だった。

 さすがに東京から帰ってくることはなかったが、ちゃんと誕生日プレゼントは送ってくれたのである。(なお、プレゼントはボールペンだった。割と助かったが、値段は怖くて訊けなかった)

 ちなみに、姉も俺が希望した通りのお菓子の詰め合わせをプレゼントとして送ってくれていた。

 確か、あれは南米からの宅配便だったが……まああの姉にはよくあることだ。

 

 

「おう、どういたしまして。ところで玲二、<In」

『いやデンドロならやらないぞ。今が受験生にとっての頑張り時なんだからな』

「食い気味クマー」

『何度も言ってるけど、俺は受験終わるまで娯楽断ちしてるから』

「ハハハ、それもそうだな」

 

 

 この兄貴、ここひと月の間、ことあるごとにデンドロを薦めてくる。

 何なら俺の分のハードまで発売日に買っていたらしい。

 初期組だけあって、兄は相当にこのゲームを楽しんでいるようで、時折俺に電話で薦めてきたりする。

 多分だけど、今年実家に帰ってきてないのも、デンドロに夢中になっているからだろう。

 実家はともかく、道中はゲームできないからな。

 ひょっとして、兄貴ってもしかしなくても廃人だったりするのだろうか?

 

 

『まさかとは思うけどそれだけのために電話してきたのか?』

「バレちゃしょうがねえな」

『おい』

 

 

 <Infinite Dendrogram>は俺も楽しみにしているけど、受験勉強のために娯楽断ちすると決めているので曲げられないぞ。

 そんなに薦めてくるあたり、相当楽しんでるんだろうが。

 

 

『まあいろいろあったんだよ』

「色々とは」

『半裸なライオンと出会ったり、しゃべる狼と出会ったり、悪いスライムと出会ったり、鳥頭で半裸な蛮族風のやつと出会ったりしたのさ』

「どういうこと!?」

 

 

 変なモンスターばっかり出てくるじゃん!

 もっとこう、普通のモンスターはデンドロにはいないの?

 ていうか悪いスライムって何?グラサンかけて黒服でも着てるとか?

 デンドロって初めてすぐ、そんな変な格好のやつと関わり合いになったりするの?

 

 

『とまあ、興味がわいてきたと思うんだが……』

「まあ楽しんでるのはわかったし、興味はあるよ」

 

 

 何それ?とも思ったが、なぞと同じくらい興味も深まった。

 既存のVRゲームとは違う本物だと、兄含めて何人かから聞いてはいたが、具体的な情報はシャットアウトしていた。

 だからこそ、断片的な情報と言えど好奇心をくすぐられる。

 

 

『だろ?で、興味がわいたお前に』

「そうだな。一年半後、気分よくデンドロするためにも勉強頑張るよ」

『……そうだなー』

 

 

 そんな残念そうに言っても、やらないものはやらないから。

 

 

 ◇

 

 

 □椋鳥修一

 

 

 デンドロの話に加えて、少しだけ雑談してから俺は電話を切った。

 

 

「おっ、結構大きく載ってるな」

 

 

 MMOジャーナルには、昨日のフィガ公の決闘の勝利が報道されている。

 相手――フォルテスラが強いこともあって、この二人のカードは本当に盛り上がる。

 ま、フィガ公がトム・キャットを倒せば盛り上がりはこれの比にはならんだろうけどな。

 今はまだ相性差を覆せていないが――フィガ公ならばいずれはそれが可能なはずだ。

 携帯端末を机の上に置き、俺はヘッドギアを装着する。

 ふと、先ほどの玲二との会話がよみがえる。

 付随して、それ以前の記憶も。

 

 

「…………」

 

 

 ああして誘ったりするが、内心玲二が受験を投げてデンドロを始めるとは俺は微塵も思っていない。

 昔から、そういう奴だった。

 自分の望む可能性をあきらめず、曲げない。

 そうなったのはあのトラック事故の時か、あるいはそれより前からか。

 玲二に度々電話するのは、確かめたいのかもしれない。

 あいつが持っている強い心を。

 俺の果たしたい願い(・・・・・・・)が、果たせるかどうかを。

 

 

「さて、そろそろデンドロにログインするか」

 

 

 今日は狩りでもしようかな、と思いながら俺ーーシュウ・スターリングは<Infinite Dendrogram>へといつも通りログインする。

 今日、自分が何に巻き込まれるのかなど知らないままに。

 

 

 To be continued

 

 




あえてシャンフロのキャラを出さないスタイル。
とりあえず7月は水曜日に更新していきます。
あ、文字数が十万字オーバー、PV20万突破、UA5万突破、そして感想が150件突破しました。
今作を、今後ともよろしくお願いします。

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