再分析により発見された「指」
「手首」をもつティクターリクにも、「指」はなかった。しかし、2020年、ついに指のある肉鰭類の化石がカナダのケベック大学のリチャード・クロウツァーによって報告された。カナダから発見されたエルピストステゲ Elpistostegeである。
このサカナは1938年に報告されながらも、80年以上も脚光を浴びていなかった。転機となったのは、クロウツァーたちによる再分析だ。カナダのミグアシャ自然史博物館に保存されていた、ほぼ完ぺきな標本「MHNM 06-2067」をCTスキャンで分析したところ、尺骨(前腕の骨)の先にきれいに並ぶ細い骨がいくつも確認できた。その細い骨の一部は、手根骨(手首の骨)と指骨だという。
胸びれの中には、ティクターリク同様、上腕骨と橈骨もあった。クロウツァーたちは、エピストテステゲをティクターリクの"一歩先の肉鰭類"と位置づけた。エピストテステゲは、ティクターリクと四足動物の"間"として、存在感を示すようになったのだ。エピストテステゲの発見によって、「サカナと四足動物の境界は、より曖昧になった」とクロウツァーたちは指摘している。
さらに発見は続く。2022年5月には、理化学研究共同研究所らの国際共同研究チームから、ユーステノプテロンとティクターリクやエピストテステゲの間に位置する肉鰭類のパレオスポンディルスが報告された。
四足動物につながる動物とされながら、パレオスポンディルスには、胸びれや腹びれがなかった。石炭紀以降の四足動物には鰓をもつ幼生期があるものもいたことが知られている。パレオスポンディルスがはたして幼生期だったのか、あるいは成長しきっていたのかについては、現時点ではわからない。今後の新たな発見や研究が明らかにしてくれるだろう。
さて、駆け足で見てきたが、ラディドンタ類、板皮類、そして肉鰭類と原始的な四足動物に関しては、これからも多くの発見が期待されている。ここ10年間で大きな研究の進展があった分野だが、次の10年でもさらなる発見があることはまちがいない。読者のみなさんにも、ぜひ最新情報に注目していただきたい。
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生殖器が生まれ、次代を残す方法が進化するとともに、生活圏を陸上に求め始めた「シルル紀」から「デボン紀」。私たちを含む脊椎動物の原型が現れた、非常に興味深い時代と言えるでしょう。
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